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カガチ後⑬ 翼

『ふざけんなっ! そんな物、こんなトコ捨てて行くなよ、バカなのかよ』


 セレネは思わず大声で叫んだ。魔法機械の癖に蛇輪(へびりん)はビクッとして黙り込んだ。


『確かにねえ、魔法産業廃棄物もびっくりの不法投棄よねえ』


 メランまでもが同意して魔法機械の癖に蛇輪は肩身が狭かった。


『すいません、本当にすいません、悪気は無かったんですよー、でも少し言い訳させてもらえませんかねえ?』

『お前のその言い方! 言い方聞いてたら反省してるよーに思えんわ』


 余りにも軽い蛇輪の喋り方にセレネは脱力した……


『私だって魔ローダーになって空飛んで他国に行くとか初めての経験だったんですよ! ちょっとくらいウキウキ気分になっては駄目なのでしょ~か!?』

『ウキウキ気分になって危険物捨ててどうするんだよ?』

『それがその時は何分初めての経験で、その不幸の運命の固形化した物が、それ程の危険物とは思っていなかったのですよ』

『それって、あの緑のエノキ茸的な物だろ? 見るからに不気味な生き物だろーが?』


 緑のエノキ茸的な物とは、砂緒とセレネが此処クラウディア王国に遊びに来た時に目撃した、謎の小型モンスターである……


『いやあ、あんな感じで人知れず静かに生きていくなら可愛い物だと思ったのですが、どうやら蛇輪の基本機能である、対象物の特技獲得のスキルまで継承しちゃってた様です。それにもしかしたら、投棄以後私から生成していた不幸まで転送されていたかもしれません。それで突然加速度的に巨大化を始めたのでしょうか?』

『しょうか? ってお前が疑問形で聞くなよ』


 黙って話を聞いていたメランがぼそっと口を開いた。


『あのー蛇輪ちゃん、クラウディアに来てから獲得した能力の以前に、蛇輪の基本性能も受け継いでるのよね? それってもしかして千岐大蛇(チマタノカガチ)も翼が生えて飛んだりしないわよねえ』

『……無かったらいいですよネ』


 ガシッ!!


『イタッ』

『お前な、いい加減に分解するぞ?』


 蛇輪の余りにもいい加減な言動に、セレネは思わずコンソールを蹴り上げた。まともかと思われた真実の鏡だが、その性格はほぼ砂緒と同じであった。


『過去の事に拘り続けても生産性が無いと思いませんか? 見て下さい青い空と白い雲、きっと皆で考えればその内に何とかなる物だと思うのです』


 ガシッゲシッ!


『い、痛いです、何するですか?』

『今は夜だろーが……』



 ―チマタノカガチが浸かる川の上流、エロ竜のマタマタの巣付近。


「此処がエロ竜のマタマタの巣辺り、もっと遡れば川の源流に当たる場所に行くよ」

(一体加耶ちゃんは何処へ行ったのだろうか?)


 地元民の猫弐矢(ねこにゃ)は何気なしに言ったが、初めて聞いた者は例外なくギョッとするワードであった。


「エロ竜の……マタマタ……?」

「猫弐矢さま、その名前は緊迫する今の状況に似つかわしくありません」

 

 少し恥ずかしいフルエレは、ツーンと澄ました顔で聞き流した。


「済まない、とにかくこの辺りから川の流れを堰き止めて変えてしまおう!!」


 ガシーンガシーンガシーン!!

 言っている内に、貴城乃(たかぎの)シューネが派遣したGSX-R25隊三機が大急ぎで到着した。逆に夜叛(やはん)モズの桃伝説(ももでんせつ)は休息を取る為に仮宮殿に帰還した。もちろん内心フゥーや猫弐矢からは不満のある行動であった……


「フルエレ様申し訳ありません、とにかくヌッ様が主導して山を切り崩して川を堰き止めます! 魔力の補助をお願いします」


 フゥーが女王である雪乃フルエレに徹夜で作業を手伝わせて申し訳無さそうに言った。


「ううんいいのよ! 私一度こういう魔法大型建設作業機械で山を切り崩してみたかったのよっ! 興奮して目がギンギンに覚めて来ちゃった! 覚醒よ覚醒!!」


 フルエレは両目を輝かせて拳を握った。


「は、はぁ? お願いします……」


 少し引いたフゥーと違い、紅蓮アルフォードはフルエレの性格の良さと趣味のおかしさに大いに好感を持った。


「フルエレちゃんって女王なのに全然気取らないし、優しいし変な趣味があるし、僕はフルエレちゃんみたいな変わった子って凄く好きだな」


 つい口を衝いて出てしまった言葉に紅蓮自身もフルエレも驚いてしまった。


「あ、ははっなんだか恥ずかしいなっそんな事面と言われたの砂緒と……」

(アルベルトさん以来か……)


 照れかけてしかしすぐにフルエレは暗い顔になった。紅蓮は何か彼女が意識して楽しい事を考えてはいけないと気持ちにリミッターを掛けている様に感じて、なんとか彼女の心を解したいという気持ちにかられたが、今は無理でもこれは美柑にも分かって出来れば協力して欲しいとも思っていた。


(何なの? 何で私が横でこんなラブコメ見せつけられなければいけないの?)


 フゥーは先程フルエレに感謝した直後にも関わらず、やはり心の何処かで元敵としてわだかまりが残っている事も意識していた。


「早速山を切り崩します!! どりゃあああああ!!」

「がんばりましょう!」


 フゥーとしては結局やる事はバトルと同じであった。ヌッ様の巨大な拳と足で山を切り崩し、川を埋め始めた。その後に周辺でGSX-R25部隊が形を整えた。



 -クラウディア仮宮殿。


「ただいま~~、誰もいないのぉ?」


 美柑(ミカ)は帰宅したOLの様に上着を脱いで司令部の椅子にもたれ掛かった。


「おや美柑殿、御一人でご帰還ですか?」


 司令部にはシューネとモズと有能メイドさんが居て、三人が一斉に振り返った。


「ほっといてよっ何か美味しい物ないの?」

「貴方は此処を自宅か何かだと誤解しておらぬか?」


 余りにも脱力した美柑にモズが呆れて言った。


「良いじゃないの~うるさいよっ!」

「はいはい美柑さまお待ち下さい! 今ご用意しますね」


 有能メイドさんが魔法通信機器を置いて厨房に走って行った。


「若君と何かありましたか? 何かあればこの私めになんなりとご相談して下さい、美柑さま」


 シューネは胸に手を当てて不敵に笑った。


「シューネさん、貴方いい人なの? 悪い人なのどっち??」


 フィーフィー

 美柑が何か言った直後に通信機が鳴った。


『観測魔戦車か? 何だ?』

『シューネ様大変で御座います、チマタノカガチに翼らしき物が生えて来ました!』

『……何?』


 シューネは通信を聞いて、最初良く状況が理解出来なかった。

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