カガチ後③ 動く山
「何事ですかっ? 一体何が起こったのですかっ?? 説明しなさい。おや、この方達は?」
クラウディア王国仮宮殿を厨房から地上に急ぐ、雪乃フルエレ女王とセレネの一味と臨時総司令代理メイドさんと紅蓮アルフォードと美柑ノーレンジの前に、妖しい鳥のマスクを付けパジャマを着た夜叛モズがひょっこり現れた。
「捕ったっ!! 侵入したラスボス捕ったぞっ!」
見た瞬間、セレネは超スピードで夜叛モズの片腕をねじり上げて床に組み伏せた。
「い、痛いですぞっ痛いです、ラスボスって何ですか?? 本気で痛いです、紅蓮殿これは!?」
冷たい石畳の床に頬を押し付けられ、顔が変形したモズが半分泣きながら無実を訴えた。
「ごたごた抜かすなっ! お前の怪しい姿風体どう見てもラスボスだろーがっ!」
「セレネちゃん違うよ、その人は妖しい見た目だけどシューネの同僚でラスボスじゃないよ!」
慌てて紅蓮がセレネの肩を揺すった。そうしてようやく彼女は渋々モズを解放したのだった。
「ちっややこしい格好するんじゃ無いよ」
「それが迷惑掛けた相手に言う台詞ですか!?」
モズは憤懣やるかたないという感じで服を払いながら吐き捨てた。
「はあ? もっぺんされたいんかコラー?」
しかしセレネにとってみればシューネの同僚という時点でラスボスと似たり寄ったりな存在ではあった。
「何ですかこの暴力女……あぁ、これがシューネが言っていた……」
モズも何となく悟ってセレネから距離を取った。
「セレネ茶番はいいのよっ早く地上に出ましょう」
モズはその妖しい見た目のせいで誰にも同情されなかった……
(ちゃ、茶番!? この金髪超絶美少女にも半分バカにされてる!?)
「こちらです、お早くっ」
臨時指令メイドさんに案内されて皆はようやく仮宮殿の屋上に出た。
「冗談だろぉ……?」
「嘘よ、何よこれ??」
「山が動いとるやないか、マジ??」
セレネと雪乃フルエレとメランは、南西の川上からこちらに向かって来る千岐大蛇を見て、最初息を飲んだがしばらくしてようやく言葉を発した。こちらに向かって来るという表現が正しいかどうかは微妙だろう。日の当たる下ではっきりと姿を現したチマタノカガチは既に約五百Nメートル程に見え、そのサイズ感やスケール感からかなり遠くの位置に居たとしてもその姿が視認出来る状況であった。
「どうですか凄いでしょう? あんなのと私は戦って来たのですぞ」
「自慢する事じゃないよ、それに君が一人で戦っていた頃とはもう別者級だよ」
何故か自慢するかの様なモズに対し、紅蓮が冷静な突っ込みを入れた。
「しかし何故でしょうか? 今までずっと夜に合わせて活動開始して来たカガチが何故急に太陽の下でも動き出したのでしょうか? あ、魔戦車隊は全て撤退させましたっ」
総司令代理メイドさんは皆に警告するのと同時並行で魔戦車隊を後退させていた。
「よ~~し、ではフルエレ一味で早速アレを退治してみましょう!」
「じゃ取り敢えず空から偵察してみましょうかっ」
「本当に出来るの!?」
その時、後ろからこそっと接近する気配がして、黙っていたライラが叫んだ。
「何奴!? 動くなっ!!」
「あっ酷い事しないでっ彼女も仲間のフゥーちゃんという子で」
「フゥーちゃん!?」
とっさの紅蓮の言葉にフルエレ以下、セブンリーフ組が振り返った。
「貴様っおめおめとどの面下げて!!」
ライラが紅蓮の言葉も聞かず仕込み鎌を展開させようとする。彼女はひと際、後ろ足で砂を掛ける様に出て行ったフゥーが嫌いであった。
「ライラさん貴方が怒るのも無理ありません、申し訳ありません。あんな私達がいきなり救援要請するなんて本当にごめんなさい」
フゥーはすぐさまフルエレ一味に頭を下げた。
「いいのよっ! 止めなさいライラッ」
「しかしフルエレさま……」
「あたしもライラと同じ意見だよ」
「もう揉めてる場合じゃなくない!?」
きつく睨むセレネとライラを、フルエレとメランが制止する。
「そうだわっフゥーちゃん、三百Nメートルの魔ローダー・ヌッ様はどこ!? 見せて頂戴!!」
イラつく二人を他所にフルエレは親し気にフゥーに近づき、ヌッ様の事を聞き出した。美柑は、お姉様は本当に性格が丸くなったのかと、少し考えを改めて思い始めた。
「フルエレさま申し訳ありません」
「それはいいからヌッ様よっ!」
「あ、はい、ヌッ様はいつの間にか球体に戻ってしまって、次の戦闘に備えて西の浜に魔戦車で運んでもらっています。また精製出来れば良いのですが……」
「わっそれ見たい、ていうか私も乗りたいのよ、魔力を融通するわっ!」
「えっ美柑さんに飛んで連れて行ってもらう手筈でしたが……」
フゥーはチラッと振り返って美柑を見た。話を聞いて何故か彼女は大量の冷や汗を流していた。
「おいどんば、狭くなるばってん席ば譲りもんそ」
美柑は必死に腕を振った。
「球体はそれ程狭くないけどね」
「キサマーーーッ!!」
ぼそっと言った紅蓮に美柑はパピヨンマスクの下から牙を剥いて叫んだ。
「よしじゃ、気を取り直して蛇輪組とヌッ様とやら組に分かれて行きましょーっ!」
「ホホ、よしじゃあ私は決死覚悟で桃伝説に男五人で乗り込みましょうかね」
何故か満面の笑顔でメランが叫んだ。モズの言葉は皆が聞き流した。
「ちょっと待ってくれ、あたしは何か引っ掛かるんだよ」
「はぁ?」
いきなりメランの肩をセレネが止めた。
「なんかさ、微妙な地震みたいな揺れがあって、その後にエリンギ? 松茸? みたいなの見た気が」
「エリンギじゃないでしょ、どちらかと言えば味しめじ??」
横からフルエレがとぼけた事を言った。
「香り松茸味しめじじゃ無いよね、えのき茸でしょ、歩く緑色の巨大えのき茸……」
ようやく出て来たエノキ茸という言葉にセレネはぴくっと反応した。
(それだーーーっエノキ茸だっ!! 加耶さん……)
セレネは外に走りながらも当時の記憶が蘇って来た……




