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カガチ後② 強襲


「貴方リュフミュランの冒険者ギルドに来て、パツパツのメイド服を着た高身長美人のイェラと、まだ猫を被ってた頃のネコミミを付けた可愛い小さい女の子で猫呼(ねここ)って子の接客を受けたわよねっ!? あれ私の店なのよっ知ってた??」


 雪乃フルエレは美柑(ミカ)の手首を掴んだままぐいぐい来た。


「い、いや~~~?」

(猫を被ってたネコミミでねここってこ?? お姉さま意味が分かりません、怖いです)


 会わない内に一方的に姉への恐怖が増幅していた美柑は、いちいち言ってる事が呪文の様に聞こえた。しかしリュフミュランのギルドに当の姉を探しに行った事は事実であった……


「あれ、今は友達の? 七華(しちか)に遊び半分で牢屋にぶち込まれてて、その間に貴方達が来ちゃったのよっ! 本当に悔しかったから毎日ギルド名簿を熟読してて覚えちゃったテヘッ! まさかこんなヘキ地で貴方に会えるなんて奇遇よね!? 凄く嬉しい……ギルドの使い心地はどうでしたかっ?」


 一方的にまくし立てるフルエレの姿を目の前で見て、美柑こと依世(イヨ)は家出前の清楚で口数が少なくなり深窓の令嬢の様な姉夜宵姫の姿とも、人々の噂で聞いた冷酷なニナルティナの雪乃フルエレ氷の女王の姿とも、どちらにもそぐわない姿に戸惑った。


(本当にお姉さま? 全然違う人みたい……)


 まさに依世は姉の知らない一面を、仮装のお陰で間近で見てしまった事になる。


「凄いわっ貴方の様な有名人に会えるなんて、サイン貰おうかしら!?」

「サインは無いでゴワス」

(絶対に雪乃フルエレ女王の貴方の方が有名です! いや……これは有望な戦力の私を効率的に動員する為に篭絡しているの?? あり得る……やはりお姉さま恐ろしい方ね……)


 深く考え過ぎて再び姉への恐怖が蘇った美柑は足が軽く震え出した。


「フルエレさんめっちゃ怖がられてますよ。圧が強過ぎるんです! 砂緒やあたしらと違って一般人には貴方のオーラは強すぎるんですよ」


 セレネが庇ってくれたこの隙を逃さなかった。


「そいじゃおいどん、こいで帰りもんそ」


 もちろん方言は滅茶苦茶だ。


「ダメーーーッ!! 此処で会ったが百年目よっ貴方の部屋でずっとお喋りしましょっ!!」

(ひぃいいいいいい!? 何故それ程私に執着を)

「い、いや困りもんそ」


 美柑は必死に首を振った。


「もう放流してやれよ……」

「なんだかいつものフルエレさんじゃ無い」


 旅先で少しハイになったフルエレであった。


「もうやめてあげてくれないかな? 美柑が凄く怖がっているよ」


 と、そこへ眠気まなこをこすりながら紅蓮アルフォードが入って来た。


「紅蓮!!」

「お前はっタカラ山新城でシューネを助けに入った嘘つき二枚舌野郎!?」


 思わずセレネが剣を抜きそうになる。


「ちょっと待ってくれよ、今は敵じゃないよね。千岐大蛇(チマタノカガチ)退治に応援に来てくれたんでしょ?」


 紅蓮が腕を伸ばしてサッと美柑を救いながら巧に話題を換えた。


「そうよっその通りよっ」

「おいおい話を誤魔化すなよっ!」


 今度はセレネが一度刃を交えたこの少年に執着があった。


「……セレネちゃんだね? また君に会えて嬉しいよ! いつかじっくり話したいと思ってた。もしかして今回はシューネ顔の目つきと性格の悪いあの子は来てないの??」

(えっ紅蓮??)


 紅蓮が妙に嬉しそうにソワソワして辺りを見ながらセレネに聞いて来た。彼は自分に近い剣の実力を持つ美少女のセレネをずっと気に掛けていた。それを見て美柑の顔色が変わる。


「お前に親し気に話し掛けられる謂れは無いわ!! そうだよ、砂緒は今回は来てないよ」

「やったっ! あの子とは早く分かれた方がいいよ、今日は会えて凄く嬉しい」

「ていっさわんなっ!」

「ちょっと紅蓮??」

(浮気よ!?)


 遂には美柑は妖しいパピヨンマスクの下からギロッと紅蓮を睨んだ。


「セレネ、このイケメン少年は一体??」

「ああ、こいつは神聖連邦帝国の王子の紅蓮とか言うヤツだよ、私と砂緒の敵だ」

「へェー凄いじゃないさ」


 メランは特にイケメンとか王子とかには興味が無いので適当に返事をした。


「凄いわっ! 紅蓮アルフォードさんって私のギルドに来てた美柑さんのパートナーよね!? 凄い奇跡だわっその上姫乃女王の弟さんだったなんてっ!」


 再びフルエレが両手を合わせて目を輝かせ始めた。


「もう良いって……」


 カタカタカタ……カタカタカタ……

 と、セレネとライラが呆れた直後だった、突然地下厨房の食器類が定期的にカタカタ揺れ出した。


「やだっ!? 地震、地震なのか!? 怖いよ凄く怖い」


 異常に地震を怖がるセレネがフルエレに抱き着いた。


「よしよし愛い奴じゃのう、怖く無い怖く無い、直ぐに収まるじゃろうて」


 フルエレはポンポンとセレネの頭を撫ぜた。


(恐ろしいわお姉さま、そうやってこの剣士の少女も手懐けて手足の様に使役してるのね、私に占いの結果で暗殺させてた時の様に……)


 二人の美少女のただ愛くるしい場面を、美柑が仮面の下から鋭い目付きで見ていた。

 ガタガタガタ……ガタガタガタ……

 しかしフルエレの言葉とは裏腹に揺れは少しづつ大きくなって行く。


「ぎゃーーーっ地震が大きくなった!? 怖い―――」

「変ねえ?」

「いや普通に地震じゃ無いでしょこの揺れ」


 メランが冷静に天井を見ながら言った。


「そうね、変ねー」

「僕が見て来ようか?」


 紅蓮が美柑の手を離さない様にしっかり握りながら言った。


「ああっ紅蓮さま探しました、いらっしゃった!!」


 そこへ貴城乃(たかぎの)シューネが臨時総司令代理に指名したメイドさんが駆け込んで来た。


「何事だよ」

「どうしたんだい?」


 メイドさんは一旦呼吸を整える。


「はい、夜叛(やはん)モズさんは不気味だから怖くて……シューネ様が居ない場合、次にお偉いのは紅蓮さまだと思いまして」

「うん、だから?」


 メイドさんは多少混乱していた。王子の紅蓮には失礼な言い方だが全く怒ったりしない。


「はい実は、チマタノカガチが北上を再開したと観測魔戦車から報告がっ! こちらに向かっています」

「えっまだ日没までに二時間程はあるよね!?」

「とにかく肉眼でお確かめをっ!」

「てか確かめるも何も止めなきゃだろが」


 早速セレネが叫んだ。

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