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まおう軍の地に生きる Ⅳ 上 サッワの願い


 ―雪乃フルエレ女王のセブンリーフ北部中部同盟の南、炎の国まおう軍の地。


「ほ、本当にいいの?」


 サッワは目の前に居るクマミミを付けた可愛い少女に念を押した。もう彼はこの少女にキスをしようとしていた……


「うん、いいよ……サッワの事好きなんだモン! サッワの笛の音が好きだモン」


 クマミミを付けた少女カヤはコクリと可愛く頷いた。まさに芸は身を助くである。


「ゴクリ、ぼ、僕もカヤの事大好きさっ」


 カヤの壊れそうに華奢な両肩に手を置いたサッワは、久々の異性との接触に緊張していた。以前はココナツヒメの魔法で洗脳されていたシャクシュカ隊相手に好き放題していた彼だが、今は何故か異様に緊張していた。


「んっ」


 カヤは遂に目を閉じ、サッワはどきどきしながらタコさんの様に唇を伸ばした。

 

 フィーフィーフィー

 が、その時突然サッワが身に着ける熊耳型の魔法ブザーの目が光り音が鳴った。


「くそうっ何だよこんな時に抱悶(だもん)様の呼び出しかよっ」


 根が真面目なサッワはすぐさま肩から手を離し、熊耳ブザーを見た。


「ねえさ」

「え? お姉さん??」

「ん、何でも無いの」


 カヤが何か言い掛けたが、サッワは気に掛けず立ち上がった。


「ゴメン、僕はまおう軍三魔将なんだっ! 緊急呼び出しがあれば直ぐに行かなきゃ……」

「うん、行ってらっしゃい! また笛を聞かせてね」


 カヤは可愛く手を振った。



 ―まおう軍まおう城、まおう抱悶の玉座。

 そこには既にスピネルとクレウが集結していた。クレウは手にココナツヒメが座る車椅子を押していた。


「いつまで待たせる気じゃ、もう皆揃っておるぞ」


 玉座に座る小さな熊耳少女まおう抱悶がギロッとサッワを見降ろし睨んだ。離れていても背筋が凍る様な異常な魔力が発散されていた。


「ハッ申し訳ありません。剣の修行に打ち込んでおりまして……」


 跪いてあからさまな嘘を付いた。


「クレウ、何故ココナを連れて来た? 呼んだ覚えは無いのじゃー」

「ハハッ申し訳ありません。私が介護の担当時間にて手放す訳には行かなかったのです。しかしココナ様も心なしか抱悶様にお会い出来てお喜びの様です」


 クレウが腰を屈めココナツヒメの顔を覗き込んだ。


「あうあーーーっ」

「そうか知らん。世話係なら幾らでもいるじゃろがい」


 抱悶は興味無さげだった。そのやり取りを見てサッワはそわそわした。


「用件が無いならもう戻って良いだろうか抱悶」


 リーダー格のスピネルがめんどくさそうに言った。


「主人を呼び捨てすな。抱悶様と呼ぶのじゃー。用件があるから呼んだんじゃろがい」

「急いでいるので手短にしてくれ」


 スピネルは腕を組んでやはりめんどくさそうに言った。


「実はなにやら東の地で異変を感じたのじゃ。クラウディアか? あそこら辺ちょっとどんなモンか見て来るのじゃー。そうじゃな、クレウはヒョロヒョロで頼りなさそうなんで、スピネルとサッワよワシの白鳥號(スワン)に乗ってちょっと行って来い」


 抱悶はビシッと指をさした。しかしクラウディアの名前が出て一瞬スピネルの顔がぴくっとなった。


「ははっ」

「ホッはぁーっ」

「断るっ」


 三者三様の返事であった。サッワは頭を下げ、クレウは愛する車椅子のココナを見ながらホッと胸を撫で下ろし、スピネルは即座に断りを入れた。


「はぁ? スピネルよ、そなたは何者でなんで此処にいるんじゃ? 言うてみい」


 抱悶は立ち上がってスピネルに怒りを向けた。しかしスピネルは全く意に介していない。


「配送の……お兄さん?」


 スピネルはあさってな方を見ながら適当な変事をした。


「配送のお兄さん? じゃないのじゃっ! 貴様はまおう軍三魔将のお兄さんなのじゃっ!!」

「スピネルさん、話だけでも合わせて下さい。まおう様に失礼ですよ!」


 サッワが耳元で注意した。


「聞こえておるわっ! 話だけでも合わせるってそっちの方が失礼じゃ!! ワシは早く熊牧場に行って遊びたいのじゃ! はよう飛んで行け~~~」


 抱悶は子供らしく手足をじたばたさせ、周囲の侍女や家臣達が慌てふためく。生まれた時から世話をして来たココナツヒメが再起不能になって以降は、誰もまおうを注意出来る者は居なくなった。


「あ、あのう……抱悶さまお願いしたき義がっ」


 サッワは冷や汗を流しながら前に進み出て恐々訴えた。


「なんじゃ?」

「白鳥號のスキル回復(超)を今一度ココナ様にお掛けして頂くお話は?」

「くどい!! その話はおいおい考えておくと言うたじゃろうがー? 勝手な事は許さぬぞ」


 ギロリと睨まれて、即座にサッワは後ろに下がった。


(何故抱悶さまは溢れる魔力でスキルを掛けて下されないのだろうか?)


 サッワは抱悶に少しずつ疑念が湧いたが、頭から振り払った。


「もうよい下がれっ! ワシは遊びに行くのじゃ~~~」


 そのままピョンとまおう様は玉座から飛び降りると、ひらひらのミニスカートをひらめかせスキップで熊牧場に向かって行った……

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