女王雪乃フルエレの判断 Ⅰ
「臨時総司令代理のメイドさん、的確な対応に助かったぞ」
「はい、メイドだとてこれくらいは可能です!」
貴城乃シューネは帰投して直後に自分が冗談で基地司令に指名したメイドさんに明るく挨拶したが、明るかったのはそこまでであった。その後は一般操縦者や魔戦車乗組員達は死んだ様に眠りに就いたが、シューネや猫弐矢以下幹部連中は目がギンギンに冴えて休息処では無くなっていた。
「くかーくかーー」
「むにゃむにゃ……」
いや例外も居た。猫弐矢達と作戦会議として会議室の豪華なソファーに腰掛けた途端に、紅蓮アルフォードと美柑ノーレンジは一緒に肩を寄せ合って眠り始めた……
「やはり若君にはまだ他人事感があるのでしょうなほほほ」
夜叛モズが軽く嫌味を言ったが、猫弐矢があからさまに嫌悪感を示した。
「この二人が居なければヌッ様はやられていたかも知れない。僕は感謝しきりだよ」
「同じく……」
フゥーも同意したが、内心もう少し踏ん張って欲しかったとは思っていた。しかし猛者のこの二人が此処まで疲弊している以上、限界まで実力を出し切りこれ以上無理をする事は危険だと判断したのかも知れなかった。
「それで明日は、正確には次の夕方までにどうするのかな?」
猫弐矢が眠りこける二人を見ながら言った。
「どうするとは?」
「どうするじゃないよ、もしかしてこのまま無策で次の戦いに突入するのかい?」
語気を強める猫弐矢にシューネも少しイラついて言い返した。
「若君と美柑殿もいらっしゃれば、ヌ様とフゥーもいるじゃないか、モズ一人で凌いでいた相手だ今度こそ倒せるのじゃないかね?」
「いや無理だね」
猫弐矢は即答した。
「何故?」
「何故とは君も見ていただろう、千岐大蛇が眠りに就く直前にヌッ様の両腕を食べてさらに少し巨大化していた。奴はどんなパワーアップを果たしているか分からない以上、戦力増強するべきだね」
「戦力増強とは?」
回りくどい言い方にシューネは聞き返した。以前の友情が芽生え始めた和気あいあいとしていた二人の、今の雰囲気との違いにフゥーは少し悲しかった。
「クラウディア現国主としてはっきり言うよ、モズが掛けた関所の情報封鎖を解いて神聖連邦帝国聖都に救援を要請するべきだ」
猫弐矢は多少冷たい顔できっぱりと言った。
「……それは出来ない」
「何故?」
「分かっているだろう、前回金輪を破壊されるという失態を犯した上、今度はクラウディアでこの様な騒ぎを拡大させた以上は、如何な寛大な聖帝陛下と言えど私を良く思わない他の重臣達の訴えから耳を閉ざす事は御出来になれないであろう」
少しの沈黙が続いた。
「で、どうなると言うの?」
「一言で言えば解決後にすぐに首を斬られる」
フゥーがびっくりして両手で口を押えた。
「……仕方ないね」
「何? 私が首を斬られても良いと言うのか」
「僕は加耶ちゃんの安否が掛かっているんだ、それ以外は考慮出来ないね」
「残念だが加耶殿の事は諦められよ。彼女は多分もうこの世に居ない」
「何ぃいいいいい!! もういっぺん言ってみろっ!!」
穏和な猫弐矢がいきなりブチぎれて、シューネの胸倉を掴んだ。勢いで倒れるコップ類。実力的にはシューネは一瞬で猫弐矢を組み伏せる事が出来るが、されるままに耐えた。
「おやめ下さい、加耶様も探し出しますしシューネ様が断罪される事も嫌です! とにかくお二人が喧嘩するのはお止め下さい」
フゥーが泣きながら二人を止めたので、猫弐矢は一旦引いた。
「僕もシューネはまだまだ帝国に役立つ忠義の臣、殺すには惜しいと思うんだ。それにカガチ自体は今の所原因不明の自然災害みたいな物、シューネの責任にしてしまうのはおかしいよ」
突然紅蓮がしゃべり出して皆驚いた。特にシューネにとってはタカラ山新城の乱痴気騒ぎに次ぐ助け舟だった。
「若君……」
「じゃ君はどうすると言うのかね?」
「神聖連邦の救援と言っても、結局は四旗機の朱金剛と鳳凰騎を出してくれという事だろう?」
紅蓮が端的に言った。
「ホホホそうです、さすが若君はお話が早い。こんな時に金輪があればヌ様と同時に攻撃出来て倒す事が出来たかもという事です」
何とか話に割り込んできたモズがシューネをイラつかせた。
「しつこいぞ、金輪なら破壊されたと何度言えばっ」
その時猫弐矢の眼鏡がキラッと光った。
「あるじゃないか、金輪ならもう一機この世にあるじゃないか!!」
皆一瞬何事かと悩んだ。
「ほほほ神聖連邦帝国、栄光の四旗機の一つ金輪がこの世に二つ有るなどと」
「……まさか、君はまさかこの私にセブンリーフに行って、あのたぶらかしの者や暴力ガラ悪女に頭を下げろと言うのかっ!」
今度はシューネがバンッとテーブルに両手を付いて立ち上がった。
「そうじゃないよ、君が頭を下げるのは砂緒くんやセレネくんじゃない、セブンリーフ北部中部新同盟雪乃フルエレ女王陛下だよ……」
猫弐矢に言われてシューネは言葉に詰まった。
「私に恥を晒して再びあそこに戻れと、頭を下げろと言うのか??」
「神聖連邦本国に救援要請して首を斬られるか、フルエレくんに頭を下げて内々に解決して生き長らえるか、どっちがいいんだ?」
「シューネ、良い提案じゃないかな?」
「シューネ様っ私は貴方に死んで欲しくないです!! 私も恥晒しは同じです……」
紅蓮もフゥーも共にフルエレに頭を下げる案に即座に賛成していた。
「そんなの困る……何勝手に決めてるのよ!?」
突然美柑が起き出して叫んだ。
「美柑?」
美柑が実は依世という名前で、雪乃フルエレ女王こと夜宵姫の妹である事を知っているのは、こっち側陣営では紅蓮とシューネだけであった。
「……わ、私帰るっ帰らなきゃ……」
いつも天真爛漫な美柑の目が泳いであたふたし始めた。
「ダメだっ」
紅蓮は突然立ち上がって美柑の腕を強く掴んだ。




