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カガチ⑤ 闇のカガチ

「どおおりゃああああああ」


 どちらかと言えば知性派であると自認している夜叛(やはん)モズは、相撲の張り手の様なポーズで謎の多首生物を触れずにどんどん押し上げて行く自らが少し可笑しかった。しかし神聖連邦帝国が誇る四旗機の一つ、魔ローダー桃伝説(ももでんせつ)の絶対服従の効果がてきめんで、謎生物は大人しく言う事を聞き人里離れた川上に押し上げる事が出来つつあった。


「むう一体これをいつまで続ければ良いのでしょうか……おお、知らぬ間に少し空が白み始めて来た」


 等と言いながらふと謎巨大生物を見ると、無数にある真っ赤に光る瞳が次々閉じつつあり、気付かない内に見える数がどんどん減って来ていた。


「ぴるるるるるるりりり……」

「? これは眠ろうとしているのか? 夜行性か……私もいささか疲れた。この辺で勘弁してやりましょうかホホ」


 夜叛モズは余裕の言葉とは裏腹に、かなり内心恐れながらも一か八か絶対服従を解除してみた。


「………………」


 謎の多首巨大生物は暴れる事無くそのまま静かに眠りに就いた様であった。


「もう降りて来るなっ!」


 モズは捨て台詞を吐くと、魔ローダーを数歩ゆっくりと後ろ歩きにさせ、安全を確認してから反転して急いで逃げおおせたのだった。



 ―クラウディア王国仮宮殿。

 そこには既に帰還していた共同捜索隊が待っていた。


「おおっモズ様が帰還なされたぞっ!!」


 寝ずの番をしていた兵士達が笑顔で手を振った。


(本当に全員スンナリ帰還していたんですねえ、誰か一人くらい川で待っている者が居るかと思いましたが……)


 モズは謎の巨大生物をさらに川上の奥地に押し込み、眠りに就いた所で逃げて来た事を告げて、自らも倒れる様にベッドに入った。



「お起き下さい、夜叛モズさまお早くお起きをっ」


 疲れて夜方までぐっすり眠っていたモズを、部下達が激しく揺り動かして強引に起こした。


「一体何事ですか……此処は私のプライベートゾーンですよっ」

「ごもっともですが、緊急事態です! あの謎の生物が里に降りて来て暴れております!」


 家臣たちは大声で伝えたが、一瞬モズは何事か忘れていた。


「…………何っ!? どういう事ですか」

「はい、昨日魔戦車と魔ローダーを食った事に味を占めたのか、あの謎生物が川上に一番近い里に降りて来て……その、人間や家畜のみならず魔法機械や家屋等の無機物まで食べてさらに巨大化しておるとの事!! 事は一刻を争いますっ」


 モズは寝ている間にえらい事になったと一瞬頭がくらっとなった。


「ええい、仕方がありませんね、今の所私の絶対服従以外に効き目がありません。魔ローダー操縦者を一人、桃伝説に同乗させます、準備させなさい!」

「ハハッ急ぎでお伝えしますっ!」


 急いで走り出そうとしたモズが一瞬止まって頭を振ったので、配下の者達は戸惑った。


「ああっそれと、他の里の者達を一刻も早く仮宮殿に避難させなさい。女子供を最優先に足手まといになる動けないお年寄り共は、魔戦車に乗せてでも強引に避難させるのですよ! 急ぎなさい」

「ハハッ」


 妖しい鳥の仮面を被り、如何にもラスボスぽいっ高貴な丁寧口調の夜叛モズは、見た目をおおいに完全に裏切って実に真面目でいい奴であった……



 すぐさま夜叛モズと部下の操縦者二人で搭乗した桃伝説が、一機で川上の里に急行した。他の者達が付いて来て食われてしまうと元も子もないので住民避難作業に従事している。この時同時に神聖連邦帝国内に無用な混乱が起きない様に、モズは貴城乃(たかぎの)シューネが戻るまではと各関所を完全に封鎖した。もちろん自分とシューネの将来に傷が付かない様にという意味も大きくあった……


「うっあの無数の赤い目ですっ!」


 同乗者が魔法モニターに指を差した。


「そんな事言われずとも分かります! 魔法サーチライト照射!!」

「うっ」


 二人は絶句した。里の中は無残にもあちこちの家々の建物ごと食い荒らされ、もはや人影は無かった。もちろんこの里が襲われた事が知れたのは命からがら逃げて来た者達が居たからで、その者達の証言では生物と無生物に区別無く次々と食べては巨大化して行ったという。たしかに昨夜見た時よりも1.5倍程は大きくなって、四十Nメートル程にはなっている様に見えた。


「これは……効くのでしょうか!?」

「ええい、いちいちうるさいですね、効かねば逃げるだけですよっ早速絶対服従、百連打ッッ!!」


 シュパパパパパパ

 無数の妖しいピンクの玉が放出されて、巨大化した謎生物に吸い込まれていく。


「キュピーーーン!!」

「効いた!?」


 今回もうねうねとランダムに動きまくる無数の蛇の様な首が、即座に固まって魔呂を見つめた。


「よし押し返しますよっ!! ぐおおおおおお」

「私も魔力を放出致します」


 絵的にかなり嫌だが男二人が狭い操縦席内で一緒の操縦桿を握り合って力を込めた。


「むおおおーーーーーーん」


 謎の叫び声を上げて巨大生物は止まったまま動こうとしない。


「ダメなのでしょうか!?」

「いいえ諦めませんよっ、私の体持ってくれえええ三倍絶対服従ッッ!! ぐぎぎぎぎぎぎ」

「三倍絶対服従!?」


 絶対服従に三倍も百倍も無い。モズが気合を入れて適当に言っているだけであるが、しかしゆっくりとだが巨大生物は動き出して川上に戻り始めた。


「死ぬ気で魔力を出すのですよおおおおお!!」

「ファイトーーーーッ!!」


 謎のハイ状態になりながらも、二人は巨大生物を再び川上に出来る限り押し戻したのであった。



 ……しかしいくら人間や家畜が避難しても、あちこちの里の建物や備品や森の木々までも全てを移動させる事は不可能であり、夜になれば巨大生物が降りて来て全て根こそぎ食い荒らしてさらに巨大化しては、死ぬ気でモズが押し返すという事がシューネ達が帰還してくるまで数日続いていた……


挿絵(By みてみん)

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