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カガチ④ 冷徹のカガチ

『進化系って何ですか? 取り敢えず魔戦車と兵員は後退、魔ローダーの戦闘スペースを作りなさい!!』

『ハッ』


 魔戦車の隊長から各兵士達に下命されると、大騒ぎになりながら蜘蛛の子を散らす様に前後に後退を始めた。


「早く下がれ!!」

「魔戦車も後退するぞ邪魔だっ!」

「狭い道でそんな一気に進めるか!」


 キュラキュラキュラ……


「うわーーやべえ、魔戦車が動き出した!?」

「轢かれるぞ!!!」

「川に落ちろ!!」


 魔法サーチライトに照らされる謎の多首生物を中心に、映画十戒の様に探索部隊が前後にサーーッと別れていき、大慌てで動き出した魔戦車にびっくりして複数の兵士が川に落ちた……


『何ですかこの大混乱は!? 情けない……』

『この国は戦争向きの国では無いのです』


 等と言いつつも、散々混乱した挙句に、謎の生物の周囲に魔ローダーが進出出来るスペースが開いた。


『GSX-R25隊、かかれっ!』

『ええっ?』

『かかれいっ!』


 三機の神聖連邦帝国製魔ローダー、GSX-R25が恐々と謎の生物に接近して行く。


『しかし、生き物の限りはーーーっ!』

『気を付けろ!』


 一人の勇気ある操縦者が剣を振り上げながら謎の生物に切り掛かる。

 ガシーーーーーン!!

が、勢いよく切り掛かった剣は謎のバリアーにでも弾かれる様に、全く生物を傷付ける事が出来ない。


『何だ? 何でこんなに固い?? もう一度っ』


 バシンバシンッ!!

 再び振り上げた剣で滅多切りにするが、やはり全く傷付ける事が出来ず、謎の生物の多数の蛇の様な顔は不思議そうに様子を伺っているだけだった。何か攻撃されているという事が理解出来ない風にも見えた。途中から残りの機体も参加して切り掛かるが一向に埒があかない。


夜叛(やはん)モズさま、こいつ全く攻撃を受け付けませんが、どうやら頭が悪い様でボケーッとしたままです。捕獲出来るのでは……』


 等と余裕を見せた瞬間だった。

 グワーーーーーッ

鳴き声とも作動音とも付かない不気味な音を発しながら、一機の魔呂の身体全体を無数の首が巻き付く様に襲い掛かった。


『な、なんだこいつら!?』

『ええい、離せっ離せコラッ!!』

 

 僚機達が必死に首を斬り落としに掛かるが、やはり全く太刀打ち出来ず、魔ローダーの二十五Nメートルの巨大な機体は、それより若干小さい謎生物の無数の首に不気味に覆われていく。


『こ、この首一つ一つが魔呂の装甲や手足を食ってるぞ!?』

『きょ、強制脱出! 何? 効かない? 隊長、魔法発火ボルト作動しませんっ』


 先程までの余裕が消え、段々と機体全身を蝕まれていく恐怖に乗員の声が震えている。


『ええい、何をしているのですか? ハッチの周囲をえぐりなさい!!』

『は? ハッ!!』

『早くしてくれ、早くっ!』


 残りの二機のGSX-R25が剣を立てて、コクピットハッチの周囲をこじ開ける様に突き刺した。しかし時既に遅く、ハッチと機体の境界線辺りまで多くの首が巻き付き覆って行く。真っ赤に光る無数の目が禍々しく不気味であった。


『あああモズさま、隊長、早く助けて下さい!! ベキベキベキ』


 魔法秘匿通信は機体が破壊される音まで拾って来て、聞いていたモズ達は声を失う。


『ひ、ひいいいい化け物、くるなあああっぎゃああああああああああ、ガリッ』


 ザーーーーーー。

 兵士一人の断末魔の叫びと共に通信は切れた。

 ドンッ!

無数の首に囲まれる中で魔ローダーは鈍く爆発した。この時、最初の魔戦車一両も食われた事にようやく気付いた……


『離れろ!!』


 一瞬声を失った僚機はモズの命令で後ろにバッと下がった。


『済まぬ許せ、私の認識不足であったわ。本国の両親には手厚く報いよう。魔戦車及び兵員は全員撤退!!』

『全員撤退!!』


 魔ローダーの攻撃が通じぬ以上、無用なあがきでさらなる被害を拡大させる事を懸念したモズは、あっさりと撤退を決意した。


『しかしこの様な危険な物を放置しては……うっあれを!?』


 うじゃうじゃと魔ローダーにたかっていた謎の多首生物は、いつの間にか魔ローダーを越える程の大きさに成長していた。


『バカなっ金属と宝石とセラミックで出来ている魔ローダーを食って、モンスターが成長しただと!?』


 不気味に巨大化した生物は、今や魔ローダーを見下ろす大きさになっていた。この生物こそかつて砂緒達がクラウディアを出発する直前に目撃しつつも放置した、謎の緑色エノキ茸的生物の成長した姿であった……


『モズさま一体如何されますか?』


 しばし返答は無かった。


『この生物、冷静に考えれば我々が来る前から、我々が来た後にしても自ら襲い掛かって来る訳では無くむしろボーッとしていた。つまり攻撃本能が強い生物では無いと思う……だから私が一人で時間を稼ぎ、出来れば川上に戻す! 貴方達は全員素早く里まで撤退なさい!』


 不気味な鳥の仮面を付けたラスボスっぽい風情の男、モズは普通に真面目な人物だった。


『そ、そんなどうやって!?』

『ええい、急ぎなさい! 行きますよっ瑠璃ィ(るりぃ)さま見てて下さい! 魔ローダースキル絶対服従ッ!!』


 モズが魔ローダースキルを発動させると、桃伝説(ももでんせつ)の機体からピンク色の妖しい玉がふわふわと飛んで行き、そのまま謎生物に当たって吸い込まれていく。


「キュッ?」


 それぞれあらぬ方向を見ていた赤い無数の目が一斉に桃伝説を向いた。


『おおっ反応した!?』

『まだまだ、絶対服従百連打ッッ!!』


 桃伝説が両手を広げ機体中からピンクの玉を大量放出し始めた。


「キュキュッ?」


 ピキーーーンッと謎生物が赤い瞳のまま無数の首を上げて固まった。


『行けそうです! さぁ早く貴方達は撤退なさいっ!』

『はっはいっ! ど、どうぞモズ様もご無事で、総員撤退!!』


 残りの魔ローダーも敬礼すると、大慌てで撤退を始めた。一人残されたモズは冷や汗を流しながら必死に謎生物を押し返そうと念じ続けた。


『くっこんな時に貴城乃(たかぎの)シューネさまの金輪(こんりん)があれば……あの光の剣があればあるいは』


 等と一人でブツブツ言いながら、ゆっくりと川上に押し上げつつ歩き出した。

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