カガチ② またまたのマタマタⅠ
「ははっ麗しき雪乃フルエレ女王陛下、この貴城乃シェーッ恥を忍んでお頼みしたき義があり、まかり越しました。何卒御耳お貸しの程を……」
シューネは半分地面を見ながら、いかにも恭しくメイド姿のフルエレに礼を尽くした。七華はわざわざへり下ってフルエレのシェーッという名前の言い間違いまで、真似て言ってのける如才の無さに驚くと共に、やはり激しい嫉妬に襲われていた。
(私もリュフミュラン王女なのに……くっ)
しかし不快感を感じているのは砂緒も他のメンバーも同じだった。
「フルエレ、これは絶好の機会です。将来の同盟の脅威ともなりかねないこの男を此処で始末して置きましょう!」
跪くシューネに容赦なく指を刺して砂緒が言ったが、セレネも同じ考えのようだ。
「そうですよフルエレさん!」
「ダメよ。こうして跪いている以上は討つ理由は無いわ。それに喫茶猫呼のお客さんなのよ、取り敢えずVIPルームに迎え入れましょう。女王としての命令よ、嫌なら女王を辞めるわ」
雪乃フルエレがセレネを口ごたえさせなくする必殺の台詞が出た。
「くっフルエレさん……仕方が無い」
「セレネさん今はフルエレの判断に合わせましょう。けれど私はこの者を一切信用しない」
砂緒は捨て台詞を言って一向はぞろぞろと防音のVIPルームに進んだ。
「砂緒くんセレネくん有難う」
「おい砂緒顔のニーちゃん、フルエレがどう言おうと俺もライラもアンタが女王の前で下手な失礼打ったら容赦無く即殺すからな?」
最後にシャルとライラが殺意の籠った恐ろしい顔で小声でシューネに警告した。それを聞いてシューネも少し背筋がゾッとしたのだった。
「オラオラ見世物じゃないよ! 今見た事を口外したらニナルティナ湾に浮くからな!」
「な、何も見てません! なあ?」
「うん、何も見ていない。記憶は全て消去した」
各スペースから顔を出していた常連たちはイェラの一喝ですぐに引っ込んだ。
―VIPルーム。
「はい、ここの名物の砂糖水よ、一杯千Nゴールドね」
フルエレは自らシューネにコップを渡した。
「は、はぁこれはどうも」
(千Nゴールド?)
猫弐矢もシューネもどう対応して良いか分からず戸惑った。
「フルエレさんイライラするので早速本題に入って良いですか? お前ら一体何しに来た?」
「セレネさん猫弐矢兄者にはもう少し……」
セレネが二人を一緒くたにして焦る砂緒に当の猫弐矢が割って入った。
「全くその通りだ、お時間は取らせないし僕達も凄く急いでる。早速本題に入ろう。実はクラウディアに帰国した僕達は―かくかくしかじかで」
「何にぃいい!? かくかくしかじかだってえええ!?」
砂緒達はテーブルに両手を付いて驚いた。
ほわんほわんほわんほわわわ~~ん。
―クラウディア王国、西の浜直前。
『CBR25RR起動!! どうだフゥー、GSX-R25の調子は行けそうか?』
シューネの乗る大型船の甲板の上ではもし仮に夜叛モズが反逆している場合、上陸直後に戦闘が始まっても良い様に所狭しと四機の魔ローダーが発進の体勢を取っていた。
『はい、私が今まで乗っていた機体よりも断然凄いです! 行けます!!』
『よし早く上陸しよう!』
フゥーの後ろには猫弐矢も乗っていた。
『あっシューネさま御覧を! 浜に魔ローダーが待ち構えています!!』
『ぬう、モズめやはり反逆して我らを上陸させないつもりか!』
等とシューネが憎々し気に言った直後であった。
『お~~~い! シューネ様早くこ~~~い!! こっちですぞ~~』
その当の夜叛モズが乗っているらしき魔ローダー桃伝説が大きく手を振った。
『どうやら歓迎している様です』
『……』
こうして拍子抜けする程さしたる障害も無いまま、シューネの部隊は浜に上陸を果たしたのであった。
―クラウディア王国仮神殿。
……しかしその仮神殿の中は物々しい様子であった。建物内に何故か溢れ返った老若男女全員がヘルメットを被り、あちこちに草木で迷彩が施してある館内を人々がせわし無く行き交い、まるで野戦陣地という様相であった。
「ささっお早く対策本部へ!」
「なんだこれではまるで戦場ではないか!」
「ほほっまさにその通りなのです。とにかくお早く」
建物奥の部屋にまで案内されるとなんとか静かなスペースが確保されていたが、部屋の入口には巨大生物対策本部という半紙がテープで貼られている。
「……巨大生物対策本部? 何だこれは」
「そうだ! 一体これはどういう状況なんだ? 何で住民たちが此処に避難しているんだ? それに加耶ちゃんは何処にいるのかな??」
シューネを押しのけて猫弐矢がまくしたてる様にモズに問いただした。
「とりあえず中へ」
一行は部屋の中に入った。
「一体どういう事なのだ? 事情を……」
「それはこっちが聞きたい事ですぞ! シューネ様今まで一体何処においででしたか? 一体我らがどれ程苦労して来たかっ!! それに金輪はどこですか?? アレが無いと困りますぞ」
「金輪は壊れた」
「何ですと!?」
やり取りをする二人の間に猫弐矢が珍しく怒って割って入る。
「いいから加耶ちゃんを出せ! 事と次第によっては許さんぞ!!」
「……とりあえず怒らず冷静に私の話を聞いて下され!!」
胸倉に掴みかからん勢いの猫弐矢を押しとどめてモズが語り出した。
ほわんほわんほわんほわわわ~~~ん。
回想シーンの中でさらに回想シーンが始まった!!
―シューネがセブンリーフに去った次の日の夕方。
「おかしい、南東の川上に希少な植物採集に向かわれた加耶さまが戻らない」
「加耶様は護衛も付けられず御一人で心配じゃ……」
そこに一人の兵士が戻って来た。
「大変だっ! 川上で探索の兵士が加耶さまの靴と衣服を見つけたぞ!!」
「大きな足跡も見つかったらしい」
「何っ!? 大きな足跡に脱がされた衣服だとまさか……」
兵士達は無言になった。
「おいソコ! 一体何の騒ぎだ私に言いなさい」
そこに神聖連邦帝国から遣わされていた、妖しい鳥の仮面を被った男夜叛モズが通りかかった。
「何!? 国主の猫弐矢のパートナー加耶なる娘が行方不明で靴と衣服だけが見つかっただと!? 大事ではないか」
(い、いかん……なにやらこのまま発見されねば我がかどわかして殺した様に受け取られよう)
モズは焦った。
「して、探すアテはあるのか? 早く探すのですよっ」
「それが……」
兵士達は顔を見合わせた。
「何だ、正直にお言いなさいっ」
「場所や状況から見て、かつて討伐されたエロ竜のマタマタの仕業としか……」
兵士達は口が重い。
「え、エロ竜のマタマタとな!? 何ですかそれは」
いつも読んで下さっている皆さん有難う御座います。
今回回想シーンの中でさらに回想シーンが発生するという万華鏡みたいな事になってしまったのですが、ふざけてやっている訳では無くて、小説の書き方を知らず勢いだけで書いているので、展開上どうしてもこうなってしまったのです。これが許されるのかどうか不明ですが、そういう物だとご理解下さるとありがたいです。




