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カガチ① 鉢合わせ……

「何だこの店は? いきなり来店した客に暴力を振るうというのか?」


 貴城乃(たかぎの)シューネはさして驚く事無く、効果があるのかどうか不明だが素早く剣を抜いて身を護る様に構えた。


「そんな物で我が雷が……」

「シューネ?」


 リコシェ五華(いつか)の接客がまずまずだと分かった七華(しちか)は、砂緒を心配して後から続いて店の玄関に来たのだが、そこで思いがけずシューネの姿を見て声を発してしまったのだった。


「おお七華ではないか、何だその破廉恥な恰好は?」


 シューネもあたかも知人女性に道でバッタリ再会でもしたかのように気軽に声を掛けた。


「え?」

「あっ……」


 体の前に突き出した両掌から全力で雷を出し、シューネを黒焦げにしてやろうかと思った矢先に、砂緒は前後で展開される気の抜けた再会劇に戸惑って振り返った。しかしその砂緒と目が合った七華は、思わず声を発した事を後悔して口を押さえたのだった。


「おお、言葉が通じぬ原始人ばかりでは無く、七華が居るのなら安心だ。少々聞きたい事がある」

「ちょっ、待てよ」


 自分を通り越し気軽に七華に声を掛けるシューネを無視し、急にカッコいい男になった砂緒は七華を問い質した。


「砂緒さま、違うんです。彼は以前リュフミュランに神聖連邦帝国からの正式な外交使節として来た為に、王女として当然の接待をしただけの事ですわ。それ以外に特別な関係等無いですの」


 砂緒に余計な事を詮索される前に早口で一気に事情を説明した。確かに全て七華の言う事が正しく、七華が彼を接待したのはシューネが北部中部新同盟女王選定会議で暴れる前の話であり、全く問題は無かった。


「ハハハ、つれないなあ。君とはタカラ山新城付近まで二日掛けてドライブした仲じゃないか!」

「シューーーネッ! 貴方??」


 わざと話をややこしくしたいのか、シューネは笑いながら真実を言った。それを聞いた直後に七華は一気に頭に血が上って叫んだが、同じように砂緒も衝撃を受けていた。


「二日掛けてタカラ山新城にまでドライブ? 泊まりですか?? それってもしかして我々が変装したコイツと戦ってた時の事です? 七華は何処まで知ってて関わってるんですか? 事と場合によっては許しませんよ」


 砂緒自身はセレネと違って普段から同盟の諜報にも防衛にも何の興味も無かったのだが、言いようのない嫉妬心が沸き上がって来て、だけどそんな事口に出来ないので適当な理由で七華を問い詰めた。


「い、いえそれはシューネから少し聞いただけで……」


 砂緒に睨まれて七華はしどろもどろになり、特に真実は何も無いのに砂緒のさらなる疑念と嫉妬を増幅させた。


「ハハハ、何回か君を抱き寄せて口説いたけど、覚えてないのかな? あれも接待の内かな?」

「シューーネエエ!! 止めなさい」

「ちょっとどういう事ですか??」

「砂緒さま信じて、この男はこういう嘘を平気で付く怪人だと知ってらっしゃるでしょう?」

「……ふぅ、七華程の魅力的な女性ですからね、色々な男から言い寄られて当然ですか」


 砂緒は目を閉じて首を振った。


「違いますのよ!」


 ガンッ!

 いきなりイェラが後ろから砂緒の頭頂部をゲンコツで殴った。


「痛ッ」

「いい加減やめい! お前が色男ぶるな。七華が好きならあんなお前と顔が同じヤツの言う事をいちいち信じるな!」


 確かに貴城乃シューネと砂緒は年齢の違いこそあれ同じ顔をしているからややこしい。


「でもですね」

「なんと……この店は美人揃いか! 麗しいだけでは無く逞しさも感じるな」

「お前を知っているぞ、会場で魔呂を暴れさせた賊だな?」


 品定めする様にエプロン姿のイェラを眺めるシューネから、砂緒はさっと彼女に腕を伸ばして庇った。その姿を見て七華は泣きたくなった。嫌いなイェラに庇われただけでは無く、目の前で砂緒はイェラだけを身を挺して守ったのだ、プライドが激しく傷付けられた。


「何でも良いです、もうこの男を地上から消し去ります!」


 とにかく砂緒はもうこの機会に鬱陶しいこの男を消す事に決めた。


「砂緒くん待ってくれ僕だっ! ああ間に合って良かった。宮殿に行かずに胸騒ぎがするから此処に戻って来て良かったよ」

猫弐矢(ねこにゃ)まで」


 今度も思わず七華は声を上げてしまった。シューネに続いて眼鏡にネコミミの優男、猫弐矢が現れたのだった。


「七華ちゃん? とにかく話を聞いてくれ」

「猫弐矢兄者……いや、今は兄者じゃ無いですね。敵という訳ですか」

 

 睨む砂緒に慌てて猫弐矢は頭を下げた。


「砂緒くんが怒りたい気持ちは分かる! ただでさえムカツク性格の奴なのに、その上あれだけ会場で暴れて迷惑を掛けたのだから……この通り謝るよ。だから今は許して話を聞いてくれないか?」

「どけーーーー砂緒!!」


 今度はメイド姿のまま剣を抜いたセレネが走って来た。


「お前、本当にまたまたよ~う来たのう? 殺されたいんかコラー?? 砂緒、紅蓮とか言うヤツは居るのか? いなけりゃ猫呼(ねここ)先輩には悪いがな一気にカタを付けるぞ」

「え? ええ、あのイケメン戦士はいないようですけど?」

「よしだったら楽勝だな!」


 戸惑う砂緒を他所にセレネは剣を振り上げた。


「ちょっと待ってくれ! セレネくんも落ち着いてくれ頼むよ。本当に色々済まない、許してくれ。我が本国クラウディアが大変なんだ」


 とうとう猫弐矢は床に両手を付いてしまった……


「知るかっ!」

「セレネさんそれは言い過ぎですよ」

「ハハハ、そうだぞこの子は可愛いがカルシム不足かな?」

「てめー??」


 狭い玄関に一気に人が増えてカオスな様相になって来た時であった。


「ちょっとセレネ砂緒イェラ何してるの? あら……あなたはシェーッさん?」


 軽くトボケながら雪乃フルエレ女王がやって来た。しかし好機と見たシューネは一気に態度を変えて胸に手を当てて跪いたのだった。

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