来ちゃった……Ⅱ 下 王子の旅立ち
一方その頃ラ・マッロカンプ王国では――
「あ~~行きたい行きたい武者修行に行きたいナ~~物凄く武者修行に行きたいぞ~~~」
ウェカ王子が豪華なソファーに寝転びながら叫んだ。王子に関心が無い大半の侍女達が遠巻きに訝しい顔で眺め、メアと瑠璃ィキャナリーだけが王子の側に立っていた。
「とても武者修行行きたい態度には見えへんな~~そんな武者修行したいんやったら木ィにタイヤでもぶら下げて木刀で殴り続けたらええやんかいさ~~」
「そうですよーー、別に武者修行なんて行かなくとも王子は充分強いですからねえ、むしろどっかに戦争でも仕掛けて領地広げたらどうですか? 将来お嫁さんになる私の為に……」
瑠璃ィに続けてメアが言った言葉に王子が反応してがばっと起き上がった。
「いつメアと結婚するって言った? 来世でお嫁さんにするとは言ったがな~~」
「いやそれもうプロポーズと一緒ですよ!」
「どこかだ」
あの戦闘以来、妙にグイグイ来るメアだった。
「メアちゃんあんまり無理強いせん方がいいんやでー、このまま順調に行ったら第二婦人くらいにはなれるんちゃうかー?」
「第二婦人ですかあー? それじゃああんまり贅沢出来無さそうです~」
「まあお前ら勝手に言っとけ! ボクはパパ上に決死の覚悟で武者修行の許可を得て来るよ」
等と言いつつ王子は背中から片手を上げてさっさと部屋を出て行った。
―約三十分後。
「ふぅ……人類史に残る激しい戦いだった」
額の汗を拭いつつ王子が帰って来た。
「で、ダメだったんですか?」
メアはニコニコしながら言った。
「うん、許可が下りたよ!」
「はっや!」
「パパ上に必死の思いでおねだりするのは命を削る思いだったよ、厳しいパパ上だからナー」
「甘いわっ! めちゃめちゃ甘い大甘です!!」
いつもながら王子に甘いラ・マッロカンプ王であった。
「で、武者修行ってどこに行くんやー? 話に聞くまおう軍の地か? それならウチも行くでー、まさかさらに南の未開地とか二本の角地域とかか? まだまだ魔物がぎょうさんおるらしいな~~」
瑠璃ィは自分がまおう軍討伐のサポートメンバーである事をすっかり忘れてニコニコしながら言った。
「うげげ、私は絶対嫌ですよ、王子は私の将来の為に死なない程度に頑張って下さい。私はお城で留守番しておきますから」
が、王子はメアの両肩をがっしり掴んだ。
「何を言っている、ボクの行く所、お前も必ず行くのだからナ」
「そのシステムが理解出来ません。だったらお嫁さんにして下さい!」
「で、何処行くんやー?」
「うん、まずは最初の修行の地は新ニナルティナ港湾都市にしようと思う!」
メアはコケだ。
「王子……? もしかして猫呼さまと雪乃フルエレ女王に会いたいだけでは無いのですかー?」
「違う違う、色んな軍事教練とかなんとか諸々修行するんだ! セレネ王女にも教えを乞うぞっ」
「ほぼほぼ修行する気なんて無いですね? はいはいじゃあ私もお買い物にグルメに付き合いますから」
「よっしゃー、じゃあ新ニナルティナ港湾都市に武者修行の旅やー!」
瑠璃ィは両手を上げて喜んだ。そして三人はほぼほぼ旅行セットの様な簡単な荷物を直ぐに仕上げると、その日の内に旅立ってしまったのだった。ほぼほぼ観光とも言える武者修行だった。
―数時間後。
「今日からお世話になりますメイドの鞠湖と申します。以後ご指導ご鞭撻どうぞ宜しくお願いします」
清楚な見た目のメイドさんが一人、新たにラ・マッロカンプ・カラス城にやって来て頭を下げた。
「ああ募集に応じてもらえて凄く嬉しいわ。最近はマシになったけど王子がちょっとアレで……おほほこんな事新人の貴方に言うべきではないのだけどオホホ」
とても砕けたメイド長さんだった。
「い、いえ実は私その王子さまに一目お会いしたくて田舎から出て来たのです。早速ご挨拶したくて」
「あらそうなの? 残念ねえ、そのウェカ王子なら今しがた従者の瑠璃ィさんとあとメイド一人を伴って武者修行の旅に出ちゃったわよ? もう皆羽を伸ばせるって大喜びで!」
「え?」
鞠湖は両手に持ったボストンバッグ風バッグをドサッと落とした。ライラが派遣した密偵であった。
―再び新ニナルティナ喫茶猫呼。
次の日、当たり前の様に七華リュフミュラン王女と妹リコシェ五華王女は喫茶で店員として働く事となった。しかし他の仲間の様にギルドビルディングに居住する事は、セレネとイェラの強い反対により拒否され、砂緒が激しく残念がるも近くの高級アパートに居住する事となった。当然そこもセキュリティはしっかりしている場所ではある。
「ハァハァお嬢ちゃん、一体何歳なのかな?」
「芹沢さんハァハァはお止め下さい。妙な行動一つで一発出禁になりかねませんぞ」
常連客達が接客に来た幼い五華に驚愕して震えていた。
「はい! 私は九歳の五華と申します。七華お姉さまの妹です! 今後とも御贔屓にお願いします」
メイド姿の五華はペコリと頭を下げた。
「七華ちゃんの? どうりで可愛い、可愛すぎる」
「尊い……」
「ありがたや~~」
「しかし労働基準法は大丈夫なのか?」
常連客達は涙を流しながら拝み倒し、五華を困惑させた……
「七華、本当に五華までお店に出して良かったのでしょうか?」
砂緒がこっそり様子を見ながら七華に囁いた。
「良いのです。これからの王女はあらゆる事態に対処出来る能力が必要ですわ。メイドさん修行もその内の一つ……」
七華は遠い目をして言った。
「そうなの? で、でも……七華もあんまりお客さんに過剰サービスし過ぎなのはいただけません。ウチはそういう妖しい店では無く健全店なのですから」
砂緒は大きく胸元が開いたセクシーなメイド服を着た七華をちらっと見て言った。
「もうっ砂緒さまったらおジェラなんですの? 心配なさら無くとも心は砂緒さま一筋ですわクスッ」
なんか最初と偉い変わり様な七華王女であった。
ガンガン!
突然壁を足で蹴ってイェラが現れた。
「おいそこのメイドモドキ、この料理持っていけ、こぼすな!」
「まあっそれこそ私達に嫉妬ですわね、うふふ」
「はよ行け! それと砂緒、門番が立ってるハズなのに新規の客がどんどん入って来る、外の様子を見てくれ!」
「あまりケンカしないで下さい、二人は私の大切な……」
「私の大切な何だ?」
二人に対して詳しくは言えないが砂緒の大切な経験相手であった。
「ちょっと行って見て来ます! サボってるのでしょうか~」
誤魔化しつつ砂緒はフラフラと玄関に出て行った。そこにはいつも、アクション映画の妖しいバーの入り口で門番をしている様な感じのスキンヘッドのイカツイ男が立っているのだが、何故か地面で寝ていた。
「おやおや?」
「ようやく知った顔が出て来た。貴様、此処に本当に雪乃フルエレ女王が居るのか?」
声がして砂緒がふっと顔を上げると、柱の陰から貴城乃シューネが出て来た。
「貴様あああーーーー!!」
瞬間的に砂緒は両手に雷を纏わせて一歩後ろに下がった。喫茶猫呼にシューネが来ちゃった……




