来ちゃった……Ⅱ 中 街角で再会
「よしではフルエレに強制的に手伝わせる為に私ちょっと猫呼を迎えに行きます」
「え~~私別に人出が減ったとて手伝うつもりは毛頭無いわよっ!」
フルエレは腰に両手を置いて胸を張って言った。
「そんな事を大威張りで言わないで下さい悲しくなります」
砂緒の思い掛けない言葉に雪乃フルエレはハッとした。彼女も砂緒なりに色々元気付けてくれてる事にそろそろ感謝せねばと思ってはいたのだ。
「いいわよ、じゃあ散歩がてら出て行ってらっしゃい! 後は私がなんとかしてみるわよ……」
「なんか後半小声になりましたが、では行って参ります!」
砂緒は猫呼が何処にいるかも知らないまま、フラフラと出て行ってしまった。
「じゃ、早速常連の芹沢さんの所に料理を持って行ってくれ!」
「え~~」
話を聞いていたイェラが大量の料理をフルエレに渡した。
―新ニナルティナ港湾都市、親孝行通り。
ニナルティナいちの繁華街であるこの近辺には路面念車が行き交い、屋台街で食事をしたり商店街でウインドーショッピングを楽しむ人々で溢れ返っていた。
「うふふ、ニナルティナの影の支配者猫呼クラウディアさんの休日よ~~」
何故か上機嫌の猫呼がサングラスを掛けてそぞろ歩いていた。だが特に熱心に喫茶店の買い出しをしている様子は無かった……その後ろには当然ライラとシャルが後を付ける様に護衛していた。
「あの……特に目的も無く何をされているのでしょうか?」
ライラが怪訝な顔で聞いた。
「うふっ私が居るとフルエレが頼っちゃうでしょ? だから留守にして彼女を活動させようと思っているのよ」
「逆効果じゃねーの? 人出が足りないと分かった途端に臨時休業するだけだと思うけどな」
後頭部で後ろ手に組んだシャルが暇そうに言った。
「おや……あの方は?」
突然戦闘員で目が良いライラが猫呼を呼び止めた。
「どしたの?」
「いえ、あそこをフラフラと歩いておられる方は七華リュフミュラン王女ではないでしょうか?」
ライラに言われて指差される方を見ると、スカーフを被りサングラスを掛けた七華らしき美女が、目的も無く大きな手荷物を持って虚ろに歩いている様だった。ただ掛けているサングラスのセンスが猫呼の変装と同じで、彼女は慌ててそれを外した。
「あらホント。ちょっと声を掛けてみましょうかしら。いいわよねえ?」
「何とも言えかねます。相手は一国の王女様ですので」
ライラは権威に弱いタイプなので、フゥーに対する態度とは明らかに違った。猫呼はお構いなしに声を掛けようと決心した。
「う?」
「どうしましたか」
だが猫呼は寸前で動きを止めた。
「……もしかして七華ですか??」
一足先に偶然そこに居合わせた砂緒が七華の背中から呼び止めた。
「え? 砂緒さま何故??」
不安感でいっぱいだった七華は突然の砂緒の出現に驚いて声を上げた。
「一体どうしたんですか? 何時此処に来たんですか?」
「うふふ、来ちゃった……砂緒さまに会いに」
「え?」
七華は言いながら砂緒に抱き着いた。一瞬二人は喧噪の中だという事を忘れてしばらく抱擁し合ったのだった。
「とても嬉しいです。私も七華と二人きりで会いたい会いたいといつも思っていました……」
「嬉しいですわ……わたくしも。でも二人きりでは御座いませんの」
目が潤んだ色っぽい顔で見つめて来る七華が意外な事を言って、砂緒は聞き返した。
「へ、どういう事でしょうか? 何処に誰が??」
砂緒はキョロキョロと周囲を見回した。
「此処です! 私もお姉さまと一緒に砂緒さまに会いに来ましたっ! わーーい」
人々の間から背の低い可愛い女の子が現れた。七華王女の妹で、人見知りのリコシェ五華も嬉しさの余り砂緒に抱き着いた。砂緒は突然妖艶な美少女と幼いがとても可愛い二人から両手に花状態にされたのだった。
「何とリコシェ五華殿までもが此処に……えらいこっちゃ……」
「ご、御迷惑ですか!?」
戸惑う砂緒の表情に五華は急に不安気な顔になって見上げた。
「いいえ、リコシェまで来てくれて凄く嬉しいです」
「よかったー」
少し親しくなったからか、リコシェは年齢に似合う幼い態度に戻っていた。
「ただ、貴方達二人は宿の手配等はしていますか? 今晩泊まる場所とか」
「いいえ、行き当たりばったりで二人で駅魔車に乗ってやって来ました」
「私も無理やり来たいとお願いしてしまって」
砂緒は一瞬考え込んだ。
「ムムッ困りましたね。今喫茶猫呼にはフルエレとイェラとセレネという、七華を偏見で一方的に悪く思い込んでる歪んだ性格の性悪女三人が揃ってますからね、あそこに行くのは大変危険です」
七華の機嫌を取る為に三人をボロカスに言う砂緒だが、逆に以前はフルエレに七華は遊びだと言い切った最悪の男だった……
「まあっそれは恐ろしいですわっ」
「お姉さま、別に悪い人達には見えませんでしたけど」
「ハァハァ……仕方が無いです。喫茶猫呼は経由せずに、直接私のへへ部屋に行きましょうか? 迷い猫二人くらいはしばらく泊まるくらいの広さはあるのです……い、いい嫌ですかな?」
砂緒は珍しく妹まで巻き込んで良いのかとドキドキしながら言った。
「よう、御座います……」
「私も砂緒さまなら、怖く無いです……」
姉妹揃って少し赤面しながら頷いた。この瞬間、砂緒は心の中でイエスッと叫んだ。
「ではもう此処は戦場だと思って下さい! 何処に誰の目が光っているやも知れません。身を屈め声を潜めて気配を消して進みましょう!!」
「は? はい」
砂緒はキョロキョロしつつ切羽詰まって言ったので、姉妹も仕方なくそれに合わせた。しかし当然の如くに全ての様子を猫呼に見られ、あまつさえ読唇術でライラに台詞まで解読されていた。
「みぃ~~ちゃった。どう料理してくれようかしらフフ」
「趣味わりいなほっといてやれよ~~」
興味無さげにシャルが呟いた。
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