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帰国クラウディアへ 中 姫乃のお願い

「ええい次から次へとクラウディア人は一体何を考えている! 分をわきまえよ無礼であるぞ控えおろう、この部屋はお前が入って良い場所では無いわっ!!」


 普段の彼女はクールで強気な部分もあるのだが、セブンリーフではあれ程間近で親し気に話してくれるシューネが、姫乃の前では憎悪の籠った顔で怒鳴って来る様を見て、フゥーは落胆で一瞬で泣きそうになった。彼女にとってみれば雪乃フルエレ女王のわいわいとした仲良しクラブの様な同盟で暮らして来たばかりなので、その感覚で思わず踏み入ってしまったが、実際身分上下の区別がかなり厳しい神聖連邦帝国では、いちメイドさんのこの様な直訴じみた行動は即捕縛されて重い罰を受けさせられる事もあった。


「ふ、ふぇぇ」

「こらシューネ言い過ぎだぞ泣きかけてるじゃないか」

「フゥーの為でもある、君も少し控えたまえ」

「この子はセブンリーフから来たばかりで、しかも我ら二人と同じくクラウディア人、どうか姫乃殿下お許しを」


 猫弐矢(ねこにゃ)根猫(ねねっこ)三世は必死でフゥーを庇った。


「そうなのですか? 泣いても許しませんよ、シューネの言う通り人間には分相応という物があるのです。厳しく聞こえるかもしれませんがそれを無くすとこの世の秩序は崩壊し、より大きな悲しみが訪れるのですよ」


 雪乃フルエレとはまた違う迫力でたしなめられて、フゥーは怯えて何も言えなかった。


(フルエレ女王ともココナツヒメさまとも違う、この方のお顔を正視出来ない……)


「分相応というのなら、この子は実は魔ローダーに乗り死線を搔い潜った戦士なのです姫乃殿下。シューネ自身もこの子の能力を高く買ってスカウトし、此処まで連れて来た次第。勝手にお部屋に忍び込んだ罪は重いですが、どうぞお許し下さい」


 猫弐矢は必死に庇って頭を下げた。


「そうなのですかシューネ?」

「は、はい、まあそうです」

「そうですか、では今回に限り直訴の罪は見逃しましょう。しかし次は無いですよ」


 姫乃は子供をたしなめる様に言った。


「は、はい……」

「そして、私の幕僚としては認められませんが、この三人に付き従う騎士としてなら認めましょう。単独の謁見は許されませんが、どなたかの随伴であればいつでも此処に来るが良いでしょう」

 

 その言葉の直後、フゥーは涙を滲ませた目で一瞬口を大きく開けると、すぐに跪いた。


「あ、有難う御座います。うう」

「姫乃殿下の寛大な御計らいに感謝致しますぞ!」

「良かったなフゥー」

「いつもいつもこんな大甘な処置が下ると思うなよフゥー」


 大喜びの二人に比して、シューネは多少不満の顔をして腕を組みながら言ったが、内心は少し嬉しかった様だ。


「しかし本当にクラウディア人なのですか? 彼女は名物の付けネコミミを装着しておらぬ様ですが?」

「い、いえ先程私のスペアを貸したばかりですぞ」

(それが嫌で外しました……)


 フゥーはじとっとした目で根猫を見た。


「実は彼女は遠い祖先がクラウディア人で、長らくネコミミを未装着だったのです」

「そうなのですか? しかし私の幕営はクラウディア人率が高い事、うふふ」

「確かに!」


 シューネ以外は皆姫乃に釣られて笑った。そしてしばらくして皆は退出する時となった。


「姫乃殿下、今夜は突然の来訪にもお会いして頂き光栄の至りでした。そしてシューネの御口添えの事、とても感謝します」


 猫弐矢は最後に深々と頭を下げた。と、彼が頭を上げた瞬間、今度は何故か神聖連邦帝国聖帝の娘、姫乃ソラーレが頭を下げた。


「何を!?」

「猫弐矢よ、我が幼馴染シューネは夜叛(やはん)モズ以外の同僚や他の重臣と親しく話す事も少なくいつも孤立しておりました。所が貴方の様に腹を割って話す親友が現れてとても嬉しく思います。どうか……今後もシューネの事を導いて上げて欲しいのです」


 一瞬皆姫乃の言葉に声が出なかった。


「お、おやめ下さい姫乃! その友達の居ない子の家に初めて友達が遊びに来た時の母親の如き態度は我に失礼です。猫弐矢は利益に適うから連れだっているだけ、親友では御座いません」


 恥ずかしさの余りテンパったシューネは姫乃と呼んでいた。


(そのまんま姫乃さんの言う通りやないか!)


 猫弐矢は二人のやり取りを見て戸惑った。何か重過ぎる使命を背負った気がしたからだ。


「僕も、割とズケズケ言ってしまう方だけど、シューネくんが耳を貸してくれる限りは姫乃殿下の御期待に応えましょう」


 再び猫弐矢は胸に手を当て頭を下げた。そして皆は恭しく姫乃に一時の別れを告げると部屋を出て行ったのだった。


「待ってシューネ」


 最後に小声で姫乃が貴城乃(たかぎの)シューネを呼び止めた。


「何で御座いましょうか?」


 最後の彼女の言葉でまだ機嫌が悪い。


「本当にまだ露店で買ったペンダントを肌身離さず持っていてくれてるのですね?」

「は、はい……」

「見てみたい」


 少し恥ずかしそうにさらに小声で言った。


「う、そ、それはアレは大事な品ゆえ金庫にしまっています」


 姫乃は一瞬でシューネの戸惑う表情の変化を読み取った。


「そうなのですか。でも、無くしたら無くしたで構わないのですよ。思い出が残っています」

「……では、ご機嫌よう、お休みなさいませ」

「ええ、おやすみなさい」


 再び妖しい感じがして多少強引にシューネは踵を返し、待つ皆の元に急いだ。


(いかん、あの露店のペンダント、絶対にあの憎き砂緒の元から取り戻さねばならん!)

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