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帰国クラウディアへ 上 私の小さな幕営

「貴様ァッ姫乃殿下の前で乱心とは無礼であるぞ!!」


 貴城乃(たかぎの)シューネは片手で剣の柄に手を掛けて猫弐矢(ねこにゃ)を制止する。慌てて根猫(ねねっこ)三世も彼を庇い、その様子をドアの隙間からフゥーは覗き始めた。


「落ち着きなされ、沈着冷静な貴方が一体如何なされた? 冗談では済みませんぞ」


 シューネに斬られてはマズいと根猫三世は肩を揺すって落ち着かせようとするが、猫弐矢は一向に耳を貸さない。


「うわあああああ、一刻も早くクラウディアに帰らなきゃならないのにぃい!? どうしようどうしよう、うううぅーーー」


 そのまま猫弐矢は招き猫の物真似の様に、付けネコミミの両横に握った拳を置いて泣き叫び続けた。


「出よ! 今すぐ部屋を出ろ!! どうやら君を買い被り過ぎていた様だっ!!」


 シューネは大切な謁見の場で取り乱した猫弐矢の胸倉を掴んで引き摺り出そうとした。


「うううぅううう~~」

「二人ともお止めなさいっ!!」


 立ち上がった姫乃ソラーレが二人の間に割って入り、シューネも猫弐矢もぴたっと動きを止めた。


(フルエレさま……!?)


 進み出でた姫乃の姿をはっきりと見てフゥーは鳥肌が立った。本当に神聖連邦帝国の姫乃ソラーレとセブンリーフの雪乃フルエレ女王は同じ顔をしていたのだった。


「猫弐矢よ椅子に座りなさい情けない。ほらっハンカチです、涙を拭きなさい」

「あ、う?」


 一喝され少し落ち着きを取り戻した猫弐矢はかなり間近で姫乃をまじまじと眺めて、先程のフゥーと同じく改めてやはりフルエレくんと似ていると思っていた。


「鼻水を拭くなよ? 拭いた瞬間に斬る!!」

「もったいない話です。猫弐矢さま、私のハンカチをお使いなされ。姫殿下の物は謹んでお返しなされ」


 すぐに根猫三世が自らのハンカチを渡した。


「あら、わたくしの物が不潔とでも?」

「い、いえ! 違います。申し訳ありません取り乱しました。姫殿下のハンカチは聖なる物、僕如きが使って良い物では……」


 猫弐矢はガラスの靴を渡す王子が如くに跪いてハンカチを返却した。

 チーーン!!


「猫弐矢殿?」

「ありがとう根猫殿!!」


 猫弐矢は笑顔で鼻をかんだハンカチを返した……


「気が済んだか? ではもう出よ!!」

「お待ちなさいシューネ、もう良いのです」

「しかし」


 制止されてもシューネは恐ろしい顔で猫弐矢を睨んだ。


「いえ、シューネ以外の殆どの者が腫れ物に触る様に私のご機嫌を伺う者ばかり。わたくしの前でここまで偽らざる心を晒した者を見たことがありません。王である猫弐矢はきっと綺麗な心の持ち主なのでしょう。わかりました、彼の涙に免じてわたくしから父聖帝にシューネに無用な懲罰が下されぬように、そして一刻も早くクラウディアへの増援部隊が出発出来るようにとりなしましょう」


 姫乃殿下の早い決断に三人は頭を下げて感謝した。


「有難き幸せ」

「ご無礼お許し下さい」

「おお、よかったですなお二方……」


 姫乃はさらに続けた。


金輪(こんりん)を壊した以上、貴方には朱金剛や鳳凰騎が与えられるとは思えません。しかし貴方は帝国にとって大切な身、なんとか高性能な試験機が受領される様に計らいましょう」


 シューネは泣きそうになる程に感謝したが必死に堪えた。猫弐矢は口に出さずともなんとなくシューネの気持ちが良く分かった。


「私などにもったいないお言葉、必ずやご期待に応えクラウディアの変事を収めて参りましょう」

「済まなかったなシューネ、しかし良かったな」

「そうですぞ」


 二人はシューネがまた怒り出さないように丸く収めようとした。


「ただし、それには条件があります」


 姫乃の突然の言葉に何を言われるのだろうと全員がヒヤッとした。


「如何に過酷な条件でも受け入れましょう」


 血の気の引いたシューネの顔を見て、姫乃はくすっと笑った。

 

「シューネ、何を深刻な顔をしているのですか落ち着きなさいな。わたくしは父聖帝の政治軍事を助けると言っても何か正式な権限を持っている訳ではありません。そこで今日此処に集った貴方達、貴城乃シューネと猫弐矢と根猫三世の三人を、わたくしの小さな幕営の幕僚に任命致します。これより先はわたくしの手足となって情報を伝え命令を聞いてくれるよう、頼みますよ」


 その言葉を聞くや否やシューネはささっと床に跪いた。


「元より、この命全て姫殿下の為にある様な物です。これまでもこれよりも永遠に貴方様の為に死も厭わず尽くしましょう」


 もう完全に愛の告白その物であった。そして猫弐矢も根猫三世も彼女に忠誠を誓った。


「だったら……そこまで言うのなら……」


 姫乃はそこまで言い掛けて口をつぐんだ。言ってしまえば元の木阿弥、もたもや堂々巡りになってしまう。


(シューネ、姫乃さん……相思相愛やないか)


 猫弐矢は切ない顔で二人を見た。


「……そうですね、その条件を果たす為にシューネは元々ですが、猫弐矢と根猫にもこの塔への出入りを許しましょう。何かわたくしに用件がある時はすぐにおいでなさい。あ、それと平屋の宮の部屋には来てはいけませんよ」


 以前砂緒が姫乃の寝込みに侵入して以降、平屋のナノニルヴァの宮の警戒は厳重になってしまった。


「あわわ先程私が言った大嘘が真実になった!! なんという栄誉、我が一族の誉れです」


 根猫は深々と頭を下げた。これを切っ掛けに後の時代、帝国の中で貴城乃シューネの一族と根猫の一族は隆盛を極める事になる……


「女王陛下! お願いします、私も私もその小さな幕営にお入れ下さい!!」


 突然可愛い声がして皆が振り返ると、メイド姿のフゥーが必死の形相で姫乃に訴えかけていた。


「女王陛下?? なんですかこの侍女は? 重臣達と密議の最中に何を勝手に部屋に入っているのですか、無礼者ッ」


 フゥーは姫乃の迫力に圧倒されて一瞬ですくんだ。

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