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猫弐矢さん友情 上

「姉上っ! これは有難く拝領させて頂きます!」


 何故か姫乃ソラーレが胸に大事に抱えるドレスを、弟の紅蓮がもらい受けようとしてビクッとする。


「何をするのですか? これは美柑(ミカ)ちゃんにプレゼントすると言っているのです。貴方には関係ありませんよ」


 紅蓮が受け取ろうとする手を阻み、さっとドレスを遠ざけた。


「そんな事は御座いません! そのドレスは結果的に……僕の物となるのです、だから同じです!!」

「え?」

(結果的に同じに? 紅蓮の物となるですって!? つまり……美柑ちゃんのドレスを纏った肉体ごと紅蓮の物に!? それってつまりはあああああああああ、なんという事でしょう、いつのまに紅蓮はそんな野生児に??)


 姫乃は思わずめまいがして、額に掌を当てながらクラッと倒れかけ、慌てて弟の紅蓮が支えようとした。


「姉上!? 如何いたしましたかっ」

「離しなさい汚らわしいっ!」

「え?」


 言った事と言われた事にびっくりしてお互い顔を見合わせる姉弟だった。


(いけないいけない、これでは私が何の経験も無いのがバレてしまう……弟に舐められる訳にはいかないのです!!)


「おほほ、わたくしとした事が少し過労で眩暈がしてしまいました……では美柑ちゃん大切に着て下さいな」

「困りますこんな高価そうな物……」


 美柑はどうせ紅蓮の物になるのは分かっているので最後まで断った。


「いいえ、この心の妹與止日女(よどひめ)の為に作りし衣は、未熟者の紅蓮のパートナーでいてくれる美柑ちゃんへのお礼にするのです、受け取って下さい」


 しかし姫乃がここまで言う以上は優しい美柑は受け取らない訳には行かなかった。


「姉上がここまで言っているのです」

「分かったわ。姫乃さん有難う御座います! これは私が大切に着させて頂きます」

「良かったわ!」


 姫乃は両手を揃えて喜んだ。


「姉上有難う」

「貴方は関係ありません!」

「紅蓮……ヘンな使い方しちゃダメよ?」


 ブーーー!!

 唐突な美柑の言葉に、心を落ち着かせる為に聖なる水を飲んでいた姫乃は軽く吹いた。しかしそれは人類史上でも稀に見る美しさであったという。


「げほっごほっ」

「姉上どうされましたかっ?」


 今度はせき込む姉姫乃を心配する紅蓮。


「だから触るなっこの汚らわしい!!」


 またも紅蓮が背中をさすろうとする手をパシッと払いのける姫乃だった。


「先程からどうしたのですか姉上……」


 美柑は何となくこの姉弟には微妙な距離感がある事が判った……


「そ、そうだ紅蓮! 今晩の宿を探さないといけないから、もうおいとましよっ! 姫乃お姉さま今日は色々と有難う御座いましたっ!!」


 美柑こと依世(いよ)は無理やり会話を寸断すると、ささっと頭を下げて切り抜けようとした。姫乃はまたもやぎょっ同じ宿に泊まるの!? と脳内でドギマギしたが、今度はさすがに表情に出す事は我慢出来たのだった。


「そ、そうなのですか? ではこの愚かな弟をよろしくお頼みしますね」

「愚かって……僕も彼女の事を結構助けてるんだけど」

「はい! 色々とお世話しますねっ!!」

「え!?」

(お、おせ、お世話してますですって!?)

「行こっ紅蓮! 私は飛んで行くからナノニルヴァの繁華街の目立つ橋で待ち合わせしよ! さようならまた!」


 美柑は言いながらもうバルコニーの手すりから勢いよく飛んで行った。


「じゃ、じゃあ姉上そゆ事で」


 紅蓮も手すりを伝って降りようとするので慌てて姫乃は声を掛けた。


「しかと、父上のご命令通りまおう討伐を成し遂げるのですよ!」

「は~~い」


 いい加減な返事をする自分を睨みつける姉姫乃を見て、彼は慌てて降りて行った。


「ふぅ、本当に大丈夫なのでしょうかあの二人……」


 騒がしい二人が消え姫乃は再び一人に戻って、バルコニーから夜の繁華街の魔法の灯りを眺めた。だけど居なくなったらなったで……少し寂しいなと感じていた。



 一方同じころ、ようやく緑の屋根の華麗な多層塔の一階入り口に辿り着いた貴城乃(たかぎの)シューネは、またもや警備兵の意地悪を受けていた。


「おやシューネさま、今晩は何か正式な入城の御許可を得ておられますか? ご存知の通りこの塔は普段から姫殿下が思索の場としてお籠りの場、シューネさまと言えども自由に出入りは許されませぬ」


 警備兵達はまたも半笑いで槍を交差させた。


「……一応言うが、私はいつも出入り自由だったハズだが?」

「いえ、状況が変わりました。他の重臣方から特に警備を厳重にしろと新たに命令を受けまして。もしそれでも通ると仰るならば、この私を倒して進んで頂こう!」


 バサッと隊長が上着を脱ぐと素晴らしい肉体美が現れ、シューネは目を細めて眉間にシワを寄せた。


(何故この私が週刊少年マンガのバトル展開みたいな物に付き合わねばならぬのだ!? ええい魅了で突破するか?)


 シューネはすっと片手を上げた。


「おっとお待ちを! 我々に手を出せば、仮にそれが魅了魔法であろうともそれは神聖連邦帝国全体への反逆とみなされますぞ、うははは」

「ちっめんどくさい連中であるな」


 段々キレて来たシューネはもうめんどくさくなって剣の柄に手を掛けようかと思った。


「ほほう、此処が多層塔の入り口なのかな?」

「そうですねえ、この私も此処は初めてで御座いますよ」


 聞きなれた声がして振り返ると、猫弐矢(ねこにゃ)根猫(ねねっこ)三世とフゥーがわざとらしく観光客の様な風情でキョロキョロしながら歩いて来た。

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