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猫弐矢、聖都へ行く 下 美柑の気持ち 猫弐矢、根猫(ねねっこ)三世に再会する

「もったいない! どうしたのっ」


 美柑(みか)が落ちたおにぎりを惜しそうに眼で追って見つめて言った。


「どうしたのじゃないよ、微妙に振動が伝わって来るから動いてるんだろうなとは思ってたけど、まさか聖都に向かってるなんて……君は何でそこまで落ち着いてるんだい?」


 紅蓮アルフォードが落ちたおにぎりの接地面の米粒を剥がしてふーふーと吹いた。


「ちょっと行ってもいいかなって、紅蓮の故郷なんでしょ?」

「えっ?」


 紅蓮は少しドキッとした。


夜宵(やよい)お姉さまが雪乃フルエレ女王になっちゃってたって分かって、お姉さまを探して連れ帰るっていう、旅の目標が正しかったのかなって思い始めてるの。それで少し自分を見つめ直したいなと思って」


 偶然姉妹で同じ事を言っていた!! それは兎も角、紅蓮は自分の故郷見たさに美柑が言っている訳では無いと分かって少しがっかりした……


「そ、そういう事なんだね。でも帰りはどうするんだい? 聖都からセブンリーフ島は遠いよ」

「あら、それは紅蓮がまだまおう討伐の途中なんでしょ? 貴方が何が何でもどうせセブンリーフに向かうでしょうからそれに便乗するよっ!」


 美柑は指を立てて得意げに言った。


「それはそうなんだけど……そんなに頼りにされても困るなあ」

「うふふ、だって出来る限り旅を長引かせたいのでしょ? 丁度良いじゃないのっ!」


 美柑が紅蓮の気持ちを見透かした様な事を言って、紅蓮は少し赤面したのだった。


「う、ううまあね。なんとかしてみるよ。あっそうだ、どうせしばらく姉上に匿ってもらわないといけないから、美柑も姉上に会ってみようよ!!」

「……え?」

(紅蓮のお姉さま?? どんな人なんだろう……)


 紅蓮は神聖連邦帝国の中でもかなり高位の者しか会えない姉、姫乃ソラーレに親戚感覚で気軽に会うと言ったが、当の美柑は紅蓮の姉と聞いてかなり怖い人なのだろうと物怖じした。



 ―次の日の早朝。

 セブンリーフ新ニナルティナ、喫茶猫呼(ねここ)


「あー困ったわ、フゥーちゃんが居なくなったから私の自室のお掃除や家事をする人を新たに猫呼に派遣してもらわないと……」


 雪乃フルエレには珍しく早朝に喫茶店に出て来たかと思えば、フゥーが去った後に彼女に押し付けていた家事が溜って来て困り果てているだけであった。


「……フルエレ、フゥーが去ったのは貴方の所為ではないですか? 少しは自分でやってみてはどうですか」


 一応開店の準備をしていた砂緒が目を細めて言った。


「いいわ、今度イライザかイェラにお願いしてみる」

「イェラに言ったら確実に殴られると思いますよ」

「私、女王陛下なのよ? そんな事許されないわ」

「あっフルエレさま、私が家政婦を派遣致します! お早うございます女王陛下」

「あらライラお早う。お願いするわ!」

「皆してフルエレを甘やかす……いけません」


 砂緒は肩をすぼめて両手を広げ首を振った。しかし以前は彼が猫呼に同じ事を言われていた。



 ―同じく次の日、神聖連邦帝国内海ナノニルヴァの津。

 多くの交易船が行き来する巨大な港に、ぼろぼろの金輪(こんりん)を甲板に乗せた貴城乃(たかぎの)シューネの大型船が入港した。停泊後直ぐに警備兵と共に乗船して来た技術者が、無残な姿を晒す帝国最強の魔ローダーの一機である金輪を見て唾を飲み込んだ。正装に着替えたシューネと猫弐矢(ねこにゃ)とフゥーはそんな様子を見ながら下船して上陸した。フゥーは新ニナルティナ港湾都市に引けを取らない、巨大なナノニルヴァの津の様子を物珍しそうに眺めた。


「ふぅ気が重いよ。本当に無事に乗り切れるんだろうね」

「はい?」


 フゥーが振り向いた。


「フゥーくんの事じゃないよ」

「はあ?」

「ははは、いきなりボケをかまさないでくれよ。ちゃんと猫弐矢くんが頑張ってくれれば大した事はないよ」


 シューネは気軽に言い放った。金輪をボロボロにしたとは言え、さすがに若くして最高の重臣の一人であるシューネは、いきなり警備兵に囲まれて捕縛される等という事は無かった。


「これからどうするんだい?」

「さてどうした物か。私が任務途中で金輪を破壊して逃げ帰って来た等と、私を良く思わない連中が聖帝陛下に告げ口して、呼び出しを食らうまでに姫殿下に接見して申し開きをしないとな」

「いい加減だな」


 等と猫弐矢が言った直後だった。


「もしやクラウディア国主、猫弐矢様では御座いませんか?」


 突然、初めてでは無いが慣れぬ土地で不意に声を掛けられて猫弐矢は驚いた。しかし振り返って彼はさらに驚いた。なんと声の主も同じ様にネコミミを付けているのだ。


「はっ? えっと……君は確か根猫(ねねっこ)殿か?」

「そうです! 数代前の聖帝の御代に旧聖都で謎の疫病が流行り、それを祈祷で鎮めた根猫の子孫で根猫三世で御座います!! クラウディアから大型船が戻ると聞き及び、もしや誰ぞ一族の方にお会い出来るかと楽しみにしておりました」


 付けネコミミの男は深々と頭を下げた。


「ああ僕も大変不安だった所なんだ。こんな遠方地で遠い昔に分派したとは言え一族の者に再会出来て凄く心強いよ!! 頭を上げておくれ」


 シューネとフゥーがポカーンとする中、二人は手を取り合って感動し合った。

付けネコミミ クラウディア王国の国民は老若男女全て魔法付けネコミミを装着する習慣がある。まれに付け尻尾を装着する者もいるがそれは自由選択制。


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