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エピローグⅡ 燃えた魔輪と焦燥の即位①

「フルエレ落ち着いて下さい、よく考えて思い出して下さい」


 砂緒や一部の早くからの知り合いの人々にはフルエレが時々情緒不安定気味になる事は織り込み済みであったが、沢山の人々の視線の中突然パニック状態に陥った雪乃フルエレ女王を見て、侍女や回復魔導士達は怪訝な顔をした。


「駄目なの! あの指輪は新ニナルティナを命懸けで守ってくれたアルベルトさんが私に唯一残してくれた物なの! あれが無くなったら天国のアルベルトさんに顔向け出来ない、ワァーーー」


 とうとうフルエレは両手で顔を覆って大声で泣き始めた。大アリリァのシャル王や同名のシャル少年、もちろん砂緒も含めてどうすれば良いか途方に暮れた。


「どうすんだよ、お前なんとかしろよ砂緒」

「シャルこそびゅって伸びる手で何とかしなさい」

「無茶言うなよ」

「ワァーーーーーもう生きて行けない!!」


 皆の視線が一応フルエレの一番近くで生活している砂緒とシャルに向かったが、二人にはどうする事も出来なかった。


「ふぅフルエレさん落ち着いて下さい貴方は女王陛下なのです。あたしに心当たりがありますよ」

「セレネ?」

「おおセレネさんすっかり元気になっ」


 肩を触ろうとした砂緒の手をセレネはパシッと払ってフルエレの横に来た。その時その顔は一瞬だけぷくっと膨れていた。最近ずっと一緒に行動していた砂緒が昨日一時フルエレと行動しただけで軽く嫉妬してるのだ。


「え、セレネさん何故?」

「セレネッ心当たりって??」


 涙まじりの目で、すがり付く様にフルエレはセレネに問いただした。


「フルエレさん窓から外を見て下さい、広場の中心にあたしの魔輪の燃えカスがあるハズです。あれは昨日フルエレさんがジャンプする時に投げ捨てて爆発炎上した物です」

「え、ええごめんね、とっさの事でつい」

「いいえ良いんです。私はフルエレさんのお役に立てれば魔輪の一台や百台くらい何でも」

「でも、それが指輪と??」


 フルエレはじれったくて急いだ。


「はい、実はフルエレさんが大ジャンプした時に、キラッと光る物が魔輪と共に落ちたのを見ました。もしかしたらアレが指輪なのではないかと。つまりあの燃えカスの中に……」

「ありがとうセレネッッ!!」


 セレネの話の途中でフルエレは薄いナイトウェアのままベッドから飛び起きて、突然そのまま走り出した。侍女達が慌ててその後を追い掛ける。


「女王陛下、お召し物を!!」

「いけない、セレネさん追いますよ。警備兵、城の兵士や男どもにフルエレを見るなとお触れを出しなさい!」

「ハッ」

「はいはい分かってます」


 むすっとした顔のままセレネも砂緒の後を追った。



 ―広場。

 そこには手足と頭を落とされたSRV達の残骸の中に、魔輪と思しき物の黒焦げになった残骸があった。


「何処なの!? 指輪はどこなの??」


 侍女達により一応背中にガウンを掛けられたフルエレが魔輪の残骸の前でしゃがみ込むと、怪訝な顔をする侍女達など無視して一心不乱に指輪を探し始めた。

 ガサガサッ!! ザッザッ!!

 気がふれた様にも見える程、黒焦げの残骸の中に怪我をする事も恐れず美しい手指を突っ込んで指輪を探し続けた。その後ろでセレネと砂緒は茫然と彼女の姿を見ている。


「フルエレさん、あたしも手伝いましょう……」

「あ、有難うセレネッ!!」


 フルエレは振り返る事は無かったがセレネもしゃがんで指輪を探し始めた。そもそも為嘉(なか)アルベルトの事が嫌いな砂緒は指輪を探す気すら無く二人の姿をじっと見ていたが、やはり同じくらいに好きなフルエレとセレネが必死に探す姿を見続けて、黙っている訳にも行かなかった。


「私も探しましょう……」

「ありがとう砂緒、お願いするわっ」


 汗を流しながら必死に指輪を探し続けるフルエレの近くで砂緒も探し続けた。


「じゃ、俺もーー」


 つられる様に続けてシャルも名乗りを上げ掛けたが、その肩を気が優しそうな少しだけ鼻が大きな中年男性が止めた。


「あの三人にしか入り込めない世界があるのです。我らはそっとしておきましょうぞ」

「誰だよアンタ?」

「はっはっ、ワシは貴方と同名の大アリリァ乃シャル王ですぞ。お初にお目にかかる紅顔の美少年どの」

「はぁ?」


 不満はあったが、この男の言う通りセレネも砂緒もフルエレの気が済む様にさせて上げてる事が判った。


 ―数時間後。


「無いの……どこにも無いの……どうしたらいいの? 私もう生きていけない」


 フルエレの美しい手は血だらけでボロボロになり、涙はもう枯れ果てて焦燥した声で呟いた。


「フルエレ」

「フルエレさん、魔輪の魔ァンプリファイアは魔呂の物に比べて小さいとは言え、それが爆発炎上するとかなりの高熱を発します。だから見て下さいハンドルだとか鋼鉄製の物も溶けています。つまりもう指輪は爆発の中で溶けたとみるべきです」


 セレネは淡々と解説した。


「貴方なんて本気で人を好きになった事なんて無いでしょう! セレネになんて私の気持ち分かりっこ無い!!」


 フルエレは大声でとても酷い事を言ったが、間に挟まり砂緒はどうする事も出来なかった。


「そんな事無いですよ」


 しかしセレネは怒る事無くにこっと笑った。

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