フゥーの旅立ち ④ 雪乃フルエレ女王の願いと決断
「フゥーちゃん!? どうしてフゥーちゃんがそんな場所に居るの?? 早くこっちにいらっしゃい!!」
ブレる事無く正確に貴城乃シューネの心臓に狙いを定めていた雪乃フルエレ女王は、突然現れたメイド姿のフゥーにぎょっとして魔銃ライフルの銃口を少し逸らした。
「フルエレ、奴は不思議な魅了魔法を使います。恐らくフゥーは洗脳されて盾にされてるのでしょう! 多少荒療治となりますが死なない程度の電撃で一気に気絶させます!」
スナコ姿の砂緒はフゥーの登場にも躊躇する事無く、パチパチと電気を発する指先を操縦席内部に向けた。
「違います! 魅了などされていません、私の意思で此処に立っています」
フゥーは一切躊躇しないスナコに焦りつつも、両手を広げて操縦席を守った。
「だったらなさおら一発バチッと決めて、一網打尽にして上げましょう」
「駄目よっ! フゥーちゃんに乱暴な真似したらダメ」
フルエレは慌てて片手でスナコの腕を下した。
「何故ですか? 奴はメイドさんを盾にする様な汚いヤツですぞ」
「違うっ!! フゥーよどきなさい。私は逃げも隠れもしないしメイドさんを盾になどしない!!」
憎悪する砂緒の言葉を聞いて我慢ならなくなったシューネがフゥーを押しのけて出て来た。
「で、でも拘束すると言っています……」
フゥーは前からも後ろからも責め立てられる形になって戸惑って頭が混乱した。
「砂緒くんもシューネも止めてくれ! フゥー君が可哀そうじゃないか、僕にも責任がある。砂緒くん弟の様に思っている君にこんな頼みをするのは嫌なのだけど、どうか僕達を見逃してもらえないか?」
今度はシューネとフゥーを押しのけて最後まで隠れていた猫弐矢がハッチの前面に立った。
「あ……お兄様……」
兄、猫弐矢の姿を見た瞬間、猫呼は心労でくらっと倒れかけた。
「猫呼ちゃん大丈夫!?」
「あ、はい、大丈夫です……」
慌ててウェカ王子が彼女を支え、メアと瑠璃ィが複雑な顔をして二人を見た。しかし複雑な心境なのは砂緒も同じであった。
「兄者……やはり金色に乗っておったのですか? どうして、貴方が我々に敵対するのです? 猫呼は常に心を痛めておりますぞっ」
いつもふざけている砂緒にしては真剣に兄と慕う猫弐矢の登場に戸惑い悲しんだ。しかし実は猫弐矢の内心は違った。
(どうしてって……僕も猫呼も元々は東の地、中心の洲の一員だから神聖連邦側に付くのは自然の成り行き。むしろセブンリーフの同盟に付いちゃった猫呼の方がイレギュラーな存在だよ……)
しかし心優しい猫弐矢は家出した兄猫名を探した旅の途中で良い仲間に出会い、そのままセブンリーフに居付いた事を責める事も出来なかった。
「砂緒くん僕からは何とも言えない。少し行き違いがあったけど僕達はセブンリーフの同盟とも女王陛下とも争うつもりは毛頭無いんだ。このシューネにはしっかり言い聞かせる、だから今日の所は許して欲しい」
猫弐矢は頭を下げた。
「悪質な万引き犯みたいな言い方は止めて下さい。今回は大人しくお縄に付いて下さい。少なくとも兄者の対応は猫呼と相談して悪い様には致しません」
砂緒はどこまでも厳しかった。そのまま指先を再び三人に向けた。
「くっ」
「そんな……」
シューネは辱めを受けるくらいならと死を覚悟で剣の柄に手を掛けた。
「シューネやめるんだ!」
慌てて制止しようとする猫弐矢。
「呆れますね。フルエレがわざわざ三毛猫仮面と言ってるのに、兄者はシューネシューネ言っとるやないか」
「ふぅ~~~分かったわ……今回は平和の為に、将来のセブンリーフと東の地の友好の為に貴方達を見逃します」
「え?」
スナコはコケた。
「有難うフルエレくん、いや女王陛下」
「フルエレさま……」
「一応礼を言おう」
いきなり帰れる事になった三人を見て、スナコが慌てて反論した。
「それは駄目です! ここまでコケにされてみすみすこの三人を帰せばむしろ同盟は舐められ将来の禍根を残す! それにこのシューネという男は信用ならない! 絶対に見逃してはダメだっ!」
「でも、砂緒はセレネと聖都に侵入して暴れたのよね? おあいこじゃないかしら。ねえシューネさん神聖連邦帝国の姫乃女王に是非伝えて欲しいの、私達は貴方達と友好を育みたいと願っていると……」
「ええもちろんですとも美しい雪乃フルエレ女王陛下、姫乃女王には必ずやお伝えします」
胸に手を当てて礼をしたシューネは不敵に笑っていた。
(神聖連邦帝国に女王などおらんわっ! しかし君の事は決して忘れない美しい雪乃フルエレ女王、今度会う時は君を我が側女としてやろうフフフ)
「シューネの事は任せてくれ、僕が責任を持っておかしな事はさせない!」
「猫弐矢さま……」
しかし砂緒は納得出来なかった。
「でもコイツは邪な目をしています!」
「貴方自分の顔を否定するの? 私は貴方と同じ顔をした人を拘束したり拷問されたりするのは嫌よ」
「フルエレ……」
強情な砂緒もフルエレの最後の言葉に言い返す事が出来なかった。
「フゥーちゃん! フゥーちゃんなの!?」
フルエレとスナコが三人を見送ろうとした瞬間、突然七華が大声をあげた。
スナコちゃん=砂緒 (男)主人公砂緒が自己満足の為に異常に完成度の高い女装をした姿。
貴城乃シューネ 砂緒と全く同じ顔をした東の地、神聖連邦帝国重臣。
フゥー 雪乃フルエレ女王が倒したメドース・リガリァ王国の元戦士で今は奴隷。
姫乃ソラーレ 神聖連邦帝国聖帝の娘で女王だと誤解されている。




