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雪乃フルエレの願い

 なおも魔ローダー金輪(こんりん)は夜の闇の深き穴に向けて真っ逆さまに落ちてゆく。不敵な笑みを浮かべ、震えて抱き合うフゥーと猫弐矢(ねこにゃ)の横で地面への激突を覚悟したつもりの貴城乃(たかぎの)シューネだったが、突然もう一度姫乃に会いたい、顔を見たいという生への欲求が溢れ出て来た。


「否っ! この神聖連邦帝国重臣であるシューネが、このまま無様なまま敗北し、姫乃に会えぬまま激突死などという事があってはならぬっ!!」


 カッと目を見開いたシューネは、シートベルトに固定された真っ逆さまな姿勢のまま操縦桿を握り直すと、力の限り魔力を放出した。ぼうっと少しだけ光る魔法コンソール類……だがそれだけであった。基本的に魔呂には魔法も砂緒の雷も直接は効かないが、魔呂スキル金輪を破壊された時に直接的に内部にまで電流が流れたのか機構類は何も反応を示さなかった。それを観て猫弐矢は開いた目を閉じて再び強くフゥーの頭を守る為に強く抱き締めた。いやもしかしたら彼自身が不安の中でフゥーの温もりに頼っていたのかもしれない。フゥーも同じ様に猫弐矢にしがみ付く。


「何故だ!? 何故動かない!! それでも栄えある神聖連邦の四旗機かっ! 若君の機体かっ!!」


 謎のハイパーモード的な奇跡が起きる事もなく、ダンッと魔法コンソールを叩いて全ては終わった。


「……助けてくれ姫乃……お願いだっもう一度君に会いたい……私を救ってくれ姫乃!!」


 苦し紛れにシューネが愛しい人の名前を叫んだ瞬間、両手を広げ優しい笑顔で救ってくれようとする姫乃ソラーレの顔が見えた気がした。


「姫乃?」


 ゴガッッ……



 ―砂緒が電撃を放った瞬間に時間を戻す。


「いやだわぁ貴方、夜空でバチバチ言ってた何かが一つ落ちて行くわ……何なのかしら」

「そうだねえ、最近不思議な事が良く起こるねえ。こういう時はコーディエに聞けば良かったのだけど、彼も今なんとか選定会議で出張してしまったからねえ」

「貴方、北部中部新同盟女王選定会議よ……抱悶(だもん)ちゃんに見に行って来てって言ってるけど大丈夫かしら?」

「確か同盟とまおう軍は敵対してるんじゃなかったのかい? 大丈夫なのかね?」

「でも砂緒殿とセレネさんがいるから大丈夫よね」

「そうだね。でも……こんな時、夜宵(やよい)依世(いよ)は今どこにいるのだろうか」

「あの子達の事です。きっと図太くたくましく生きていますよ……」

「そうだね」


 王様はそっと愛妻お后様の肩を抱いた。しかしその愛娘はすぐ上空を飛んでいた。


『ヒャハハハハハ見ろっ! 金色が中〇明〇デ〇イアの様だ!! ハッハッハッ』

『ごめん、ちょっと何言ってるか良く分からないワ』


 スナコは恐らく真っ逆さまだ、と言いたい様だ。


『三毛猫、再起動する事無く落下中です』


 ライラが冷静に状況を伝えた。彼女は知らないがその金輪の中には険悪になった事もあるフゥーが偶然搭乗していた……


『ささっシャンペン片手にグシャッと潰れる瞬間を目撃しましょう!』


 砂緒は猫呼(ねここ)の真似をして肩をすくめ両手を広げた。しかしその瞬間、フルエレの脳裏に魔戦車で戦死した為嘉(なか)アルベルトの事が思い出されて胸を締め付けられた。


『やめてっ! 砂緒……聖都という場所に不法に侵入したのね?』

『い、いやーまあセレネが行こー行こー言う物で』

『そして聖都の城に侵入して姫乃という女の子をさらったのね?』

『それは違います! 彼女は年上の既に成人女性。合意の下に夜の街に繰り出したのです』


 フルエレはじとっとした目をした。


『でも無理やりキスをしたのね?』

『ちちち、違いますぞ! 私は止めよう止めよう言うに、彼女が無理やり……かなり遊んでるタイプなんでしょうな』

『清楚な女王ぽいけど?』

『……今思い出しました。私の方から唇を奪ったかもしれません、すいません』

『だったらあの人怒っても仕方無いわよね? お願い砂緒……』


 フルエレの顔と声で砂緒はもう彼女が何を望んでいるかは了解した。


『んも~~~、今回限りですからね! セレネに引き渡して裁判と罰は受けてもらいますよ!』


 言うな否や、蛇輪は瞬時に言葉では表現出来ない複雑な変形プロセスによって鳥形に変形すると、翼から黄金粒子をまき散らし残像を残して一瞬で落ち行く近隣の真上まで来た。


 ゴガッッ!!

 鳥形の蛇輪は巨大な足で金輪の片足首を掴んだ。まさに激突まで十数Nメートルというギリギリな所であった。

 ガタッゴロゴロ!! ガンッ!

 

「うっ!?」

「きゃあーーーーー!!」

「あがっ!?」


 シートベルトに締め付けられるシューネはぶら下がったままだが、固定されていない猫弐矢とフゥーは操縦席内を転がり背中を打ち付けられて止まった。


「おかしい!? 木の枝にぶつかったか?? 助かった様だ」

「!!」


 シューネが呟いた時、偶然猫弐矢とフゥーの唇は重なっていて二人は目を見開いた。


「嫌ッ」


 パンッ!!

 思わず猫弐矢の頬を叩くフゥー。


「痛いよフゥーくん……偶然じゃないか。それにシューネ、魔呂が木の枝で引っ掛かる訳が無い!」

(きっと砂緒くんだよ……)

「申し訳ありません猫弐矢さま」


 フゥーは頬を赤らめ謝罪した。


『おいテメー妙な真似したらタダッじゃおかねーぞコラーーー! もっぺん高い所から叩っき落っとすから覚悟しとけオラーー』


 何故かセレネの乱暴な口調が伝染した砂緒からの共通魔法通信が入って来た……

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