雷、なんか電気が出ちゃった
十五分後。
「とりゃっ! おりゃっ! 当たれっ!」
砂緒が必死に剣を振り回すが剣先は全く当たらない。
朝に2時間程初めての剣の訓練をイェラに受けただけだから当然と言えば当然なのだが、それにしても異常なくらいにかすりもしない。
「砂緒右、いや左、あ、砂緒後ろ!」
「う、全然追い付かないです」
一旦休憩の為に剣を置く砂緒。フルエレは先程からもう魔輪の座席に座って呆れて休憩している。
スライムは無限の体力があるのか特に知能は無いのか分からないが、あざ笑うかの様にその場でまだピョンピョン跳ねている。
「あれは……恐らく、この森の主的な最強なスライムなんですよね?」
「い、いいえ……多分だけど色とか大きさとかスピードとか普通、凄く普通のスライム……」
砂緒はもしかしたら最弱かもしれない……そんな考えが頭を過るが雪乃フルエレは頭を振った。
「砂緒ク、砂緒はきっと、大きくて鈍い敵とか、動かない敵専門で最強なんだね!」
「そんな敵ほぼいませんよ……」
砂緒の脳裏に三毛猫仮面の不適な笑みが過る。振り払う様に再び剣を取ってスライムに挑みにかかる。
「どりゃっ!!」
三十分後。
「はぁはぁ……これは何かの呪いなんでしょうか? とにかく当たらないですね」
「もう諦めましょうよ。ゴーレムのイメージを思い出して。ゴーレムはあーうーあーうー言いながら大きな手を前に突き出してノロノロ動いてて、それを戦士や格闘家がヒュンヒュン避けまくって結局弱点を攻撃されたりして倒されるの! だから砂緒は小さな事気にしないで!」
「フルエレもしかして……私の事ディスっていますか?」
「そんな訳ないでしょ! ディスる様な人間がここまでの時間こんな事付き合う訳ないでしょ! もういい、サイドカーの横に収納してる魔銃で撃っちゃう?」
「駄目ですよ、銃声で工事のおじさん達に不審がられます」
しかし前半の言葉は確かにその通りだった。もう諦めようかと思った。
「でも……私がテレビで観た事があるスライムと言えば、巨大な目とにっこり笑った大きな口があった物ですが、このスライムは可愛い部分が全く無い。ただのぶよぶよした透明な袋みたいですね」
「スライムに目とか口とかある訳無いじゃない。不気味な事言わないで……」
砂緒はフルエレと会話しながら昔の事を思い出していた。砂緒がデパートだった時から苦手な分野だが、確かゲームが社会現象だとか何とかで行列が出来ていた事をニュースで観てたなと。
しかしそう言えば砂緒は店内で観ていたテレビがあまりにもつまらない場合、人間に見つからない様にこっそりチャンネルを変えていた。
「ん、手足が無かった時にどうやってチャンネル変えてたのでしたっけ?」
「?」
ぶつぶつ独り言を始めた砂緒を不審がるフルエレ。
(確か中のニンゲンが消し忘れた電気を消したりもしてあげてましたね)
ふっと砂緒の中で言葉が浮かんだ。
「電気……?」
「砂緒! 剣が剣が!!」
フルエレが突然大声を出して指さすので見てみると、イェラから貰った只の一般的な剣が青白く光り、小さな稲妻の様な電気がバチバチと帯電している状態になっていた。
「それって伝説の剣か何かだったの?」
「い、いいえ違いますよ。恐らく安い奴です。ではちょっと見ててください」
余裕を見せる様に延々とピョンピョン跳ねるスライムに向かって、青白く帯電する剣を振り上げ、すっと振り下ろしてみた。
バリバリバリ!!!