魔ローダースキル金輪 中 セレネ出撃②金輪発動
「この声はセレネくんだっ確か君が聖都で瞬殺された相手だぞっ今すぐ降参しろっ!」
猫弐矢は胸ぐらを掴んだままシューネに戦闘を止める様説得した。実際両者の魔ローダー操縦技術には雲泥の差があった。
「君がそんな風に胸ぐら掴んだままだと勝てる物も勝てないよ。取り敢えず手を離してくれた前」
言われて猫弐矢は渋々と手を離し、貴城乃シューネはしゅるっと衣服の乱れを直した。その後ろでフゥーはホッと胸を撫で下ろしたのだった。
「ふふっ勝負は戦ってみないと分からない物だよ」
シューネは座席に座り直し、剣を構えた。猫弐矢は一回負けている癖に彼は何にそんなに自信があるのか理解に苦しんだ。シューネが劣勢になった時点でハッチを開け両手を挙げようと心に決めた。
「聖都であたしに瞬殺されたろーが、金色はバカなのか?」
セレネも猫弐矢と全く同じ事を言っていた。
『セレネ、私もずっと狙ってるわよっ! もう撃っちゃっていいの?』
『セレネさま私達もずっと待機していますがっ』
『同じく!』
メランはサッワから奪った魔砲ライフルを修理改良した物を射撃姿勢のまま待機し、同じくジェンナとナリ以下、SRV部隊も固唾を飲んでセレネからの指示を待っていた。
『いや、コイツは以前あたしにボロ負けしたザコだ。何で一人でノコノコ出て来たのか分からないが秘密兵器のメランさんのライフルを使うまでも無い。取り敢えず蛇輪から引き離して腕の二本でも切り落として泣かしてやろうと思う、ハハハ』
『ちょっと貴方怖いわよ、何かあったでしょ? 砂緒さんと喧嘩した?』
え、何で分かるのって感じでセレネはドキーンとした。
『そんな訳無いです。皆は警戒したまま待機してて下さい、通信終わり行くよっ』
SRV2ルネッサは勢いよく走り出すと剣を振り被り、上段から金輪三毛猫スペシャルに斬りかかった。
「うわあ来たああっ!」
「うるさいね君」
バシイイッ!
なんとかセレネの斬り込みを剣で受け止めると、横に力を受け流したがそれだけで片腕に大きな衝撃が走り、かなりの威力である事を感じた。
『ハハハハ、やはり弱い! あの時のヤツだな?? 貴城乃シューネかっ? いや今は三毛猫仮面三世かな??』
なおも次々に剣を繰り出し、金輪はそれを必死に交わしていくが、明らかにシューネは押されまくりで余裕が無かった。
「ふむ、本当にそこそこ強いなこの女。あの時の事は偶然では無かった訳だ」
シューネは激しい剣圧を受けながらも他人事の様に呟いた。
「わーーーっやっぱり駄目じゃないか君!? 僕はこんな所じゃ死にたくないからねっ!」
猫弐矢はシューネの肩にすがり付いた。
「お止め下さい、シューネ様の邪魔です!」
「ハハハ、フゥーくんに言われちゃダメだよ」
「振り返るな!! 前を見ろっ!」
が、天才のセレネはその操縦席内のやり取りがあたかも見えている様に一瞬の隙を見抜いた。
『そこっ! 手を抜くなっ!!』
怒気のまま、これまでの手抜きの剣から少し力を込めて速い斬り込みを行い、同時にあらぬ方向に掌底を繰り出した。
「くっ避け切れない!?」
バシッ! ドシーーーン。
剣での斬り込みをなんとか避けた所に、ほぼ同時に先読みをした様に掌底が飛んで来て、金輪は後ろに倒れ込み尻もちを着いた。その戦いはもう師匠が弟子に稽古を付けているくらいの実力差があった。そしてその時にはセレネの望んだ通り、最初に金輪が居た蛇輪の真後ろからかなり移動させ遠ざかり、蛇輪を真っ先に破壊されるという悲劇は何とか避ける事に成功していた。
「ぐわーーーっコケたっ死ぬ!? やられるっ」
「うるさいです猫弐矢さま!?」
が、セレネは相手が弱いと確信し侮り敵機が倒れた好機にも止めを刺す事は無かった。代わりにブルース・リーが映画で挑発する様に、掌をちょいちょいと動かして再び立つ様に促した。
「ふふっこれは有難い。まだまだ戦ってくれる様だ」
金輪はゆっくりと立ち上がった。
『そうで無くては! まだまだ楽しませてもらうぞ』
セレネは色々のイライラをこの戦いで全て発散するつもりだった。
「お、おい魔呂戦が始まってしまったではないか。皆この子を忘れ過ぎだぞ? 一体どこへ連れて行けば良いのだ」
言いながらイェラは背中におぶった眠るまおう抱悶ちゃんを見た。大混乱の中で大同盟の一方の当事者抱悶はすっかり放置されていたので、仕方なくイェラが保護していた。彼女はそのまま二機の戦いを見上げた。
「今度こそ降参しよう、僕が謝り倒せば許してくれるはずだ」
「そうだね、そろそろ出し惜しみせずに、魔ローダースキル金輪を使うよ!」
そう言い終わると、金輪は数歩後ろに下がって距離を取り片手を大きく掲げた。
『今度はなんだ? 降参のポーズか? ハハハ』
セレネが剣で指しながら大笑いした。
「金輪!!」
「シューネ?」
シューネが金輪と言うと、その機体の背後に黄金色の日輪の様な巨大な輪が出現した。その後光の様な輪は太陽のフレアか歯車の様に無数のギザギザがあり回転していた。異様なそれを見て咄嗟に本能的にセレネは身構えた。
(何だアレは?? 武器か? チャクラムみたいに飛んで来るんか?)
セレネはどんな攻撃であれ飛び抜けた反射神経で、撃ち返すか避ける自信があった。
『セレネ、その輪何か知らないけど決して油断しないでっ! 貴方が大将なのよ』
『わかっていま……』
セレネが剣を構えた直後だった。
シャシャッ!!
ドダーーーーーン!!
「ぎゃーーーっ!? 危ないっ腕が降って来た!?」
セレネのSRV2ルネッサの後ろの影から戦闘を見ていたイェラの頭上に、巨大な剣を握った片腕がぼとっと落下して来て、危うく抱悶ごとイェラは下敷きになりそうになった。
「うぐっ……う、腕が落ちた?? 何で??」
セレネは激痛が走り思わず片腕を押さえた。
『セレネッどうしたの?? 何があったの??』
メランがスコープで狙う視線の先では、先程と変わらず日輪を背負った金輪がぼーっと立ち尽くしているだけだった。




