魔ローダースキル金輪 中 フゥー主従の誓い
猫弐矢三毛猫仮面二世は天高く片腕を上げて待ったが何の音沙汰も無かった。
「アノ、これは一体何ですの?」
「まあ出し物じゃありませんの?? 決選投票開始の準備とかで……」
「舞台がどうとか言ってますし」
客席の王族達は屋根の上に突然現れた不審者に驚きながらも、動きの無いステージ上にいらいらしていたので多少気が紛れた。
(ヒッ来ない、シューネ一体何をしてるんだ?? このまま拘束されたら僕は歴史に残るただの変態になってしまう……早く来てくれようっ!)
猫弐矢は三毛猫仮面の下で冷や汗をダラダラと流して後ろの丘の上をチラッと見た。
「出て来た割には何だかめっちゃ困惑してる様ですが、武士の情けで早く拘束してあげませんか?」
「さっきお前拘束すんな言うとっただろーが?」
「それは猫呼のお話です……」
「重ね重ね申し訳ない……」
はっきりと誰の話とは言えないが、猫呼はペコペコ頭を下げまくった。
「猫呼さま、サクッと気絶させてどこぞへお連れしましょうか?」
「い、いえまだもう少し待ってあげて」
遂に痺れを切らしたライラまでもが助け舟を出した。皆敵の魔ローダー待ちという奇妙な状況に陥った。
―会場の後ろの丘の地下、魔ローダー駐機場建設地。
「貴城乃シューネさま、魔法瓶の爆破装置全てセット完了、工作員全員避難終了して船への帰還を開始しました」
魔ローダー金輪の操縦席に座るシューネの後ろで、各種魔法通信装置を見ながらメイド姿のフゥーが適確に報告した。猫呼に貰った高価なドレスは綺麗に折り畳んでお礼の手紙を添えて猫呼の控室に返していた。
「ふむ、もうすっかり僕の立派なパートナーだね」
「そ、そんな勿体無いお言葉です」
フゥーは少し頬を赤らめた。
「それよりも工作員の皆さまはちゃんとリュフミュランの船までご帰還出来るでしょうか?」
「皆腕に覚えのある者を集めた。それよりももう仲間の事まで気遣いを初めて、完全に神聖連邦帝国の一員だね、頼もしいよ」
既にマスク外したシューネが振り返って笑顔で褒め上げるとフゥーは照れながら喜んだ。
「でしたら、あの一つ……お願いがあります」
今、屋根の上では猫弐矢が冷や汗を流している。
「ん、何だね言ってごらん?」
今、猫弐矢は命の危険を感じ心臓がバクバクだ。
「私を……私を正式にシューネ様の奴隷にして下さい」
「え、何だって?」
「どうやら私、誰かにお仕えした方が気が安らぐ性質だと気付いてしまったのです。このまま神聖連邦に行く以上は貴方様に正式にお仕えしとう御座います」
猫弐矢が命の危険を感じる中、フゥーは頬を赤らめ伏目がちにシューネにお願いした。
「奴隷は駄目だね。神聖連邦に奴隷は居ないんだよ。だけど、君が私に仕えると言うのならば私の召使い兼、専属魔ローダー操縦者になってもらおう、それでいいかい?」
フゥーは目を見開いて、ぱあっと明るく笑顔になった。
「有難う御座います……凄く嬉しいです」
「じゃあ、もっと近くにおいで」
「えっ? は、はい……」
フゥーは頬を赤らめながらおずおずと後ろからシューネに近寄った。シューネはそっと腕を伸ばし、片手でフゥーの頬に触れた。
「あっ」
フゥーは何をされるのだろうかと体を強張らせた。サッワといた頃とはまた違う緊張であった。しかしシューネは頬を軽く寄せただけで手を離し、今度は小動物にでもする様に髪を軽く撫ぜ始めた。
「そう緊張しないでくれたまえ、それに私は従順過ぎるよりもこの前みたいに突っ掛かって来る君も好きだな。たまには口答えもしてくれよ」
フゥーは意外な言葉に驚いた。
「は、はい畏まりました」
(サッワさま、これにてお別れです。私は神聖連邦帝国でこの御方にお仕えします……)
知らない間にサッワはフラれていた。
「じゃ、手はずの時間になったな、そろそろ行くかね?」
「はい! ご主人さま」
ようやくシューネは出陣する気になった。
(や、やばいもしかして本当にほっとかれた??)
大切な四旗機の一つ金輪を放置してシューネだけ逃げる訳も無いのだが、猫弐矢は気が動転し始めていた。
「あわ、あわわわわわわ」
「お、おいそろそろ兄者限界ぽいですぞ、何とかしませんと」
「そうだな、捕まえて尋問でもするか……」
セレネが頭を掻きながら屋根の上を見た。
ガガガガガガガガ……
その直後、不気味な地響きが鳴り始めた。
「え、何ですかこれ!?」
「きゃあ何ですの??」
客席がざわざわ騒ぎ始める。席を立ち中腰になる者も出始めた。
「来たっ!! はーーーーはっはっはっ来い! 三毛猫スペシャル!!」
ドドドーーーーーン!!
猫弐矢の叫び声と共に丘の上が大爆発を起こし、中から魔ローダーらしき物が現れた。その魔ローダーはゆっくりと会場にまで歩いて来る。




