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魔ローダースキル金輪 上② 砂緒叱る

 ―雪乃フルエレ女王の控室。


「なあフルエレ元気出せよ、あんな変な奴の作った劇の事なんか早く忘れちまえよ」


 雪乃フルエレは自分で作った為嘉(なか)アルベルトの死を盛り込む舞台の結末に落ち込んで自室で塞ぎ込んでいた。


「シャルありがとう。貴方はいつも私の味方ね」


 実際フルエレは異性では一番気安く自室にシャルを入れさせていた。


「お、俺さあ今はちっこいけど、もうすぐ大きくなってもっと強くなって、フルエレの事守ってやるよ! だからさフルエレも俺の事もっと頼ってもいいんだぜ」


 シャルは精一杯背伸びして大人びて言ってみた。


「うふふ、有難う楽しみに期待しておくわ。明日はまたお茶会にしましょう、お菓子を上げるわね」


 しかしフルエレの口走った事にシャルはむっとした。


「お菓子なんていらねーよ! 子供扱いすんなよ!」


 すかさずフルエレは斜めの角度から訊いた。


「じゃあ何がお望みかしら?」

「そ、そうだな久しぶりに膝枕が欲しいな」

「あらあらシャルは甘えん坊さんね、此処にいらっしゃい」


 フルエレはロングスカートの膝を揃えると、ぽんぽんと叩いてシャルを促した。


「じゃ、じゃあ……」


 おずおずとシャルは温かい太ももに頭を置くと目を閉じた。するとそっとフルエレが髪を撫ぜてくれて至福の時が訪れた。


(さ、最高だぁー)


 一方ドアの前ではコーディエが聞き耳を立てていた。


「ひ、膝枕だと!? たかがボディーガードの分際でシャルとか言う子供がっ! 夜宵(やよい)姫……ズルいですぞ……その膝は私の物です!! いや、全身がいずれ私の物にフフ」


 一人でブツブツ呟きどんどん怖くなって行くコーディエを、遠巻きに眉間にシワを寄せた侍女達が監視していた。



 と、そんな感じでフルエレ達が過ごしている時に、野外劇場の屋根に三毛猫仮面は現れたのだった。


「おっセレネさん元気出して下さい! セレネさんの大好きないい感じの敵が湧きましたよ!」


 スナコはセレネの肩に手を置いて屋根の上に指をさした。その後ろには蛇輪が佇んでいる。


「……敵ってアレ三毛猫仮面じゃないか。中身はどっちなんだよ??」


 どっちとは、猫弐矢(ねこにゃ)貴城乃(たかぎの)シューネかどっちなのだという意味だ。実際には中身は猫弐矢だった。彼はシューネとフゥーの脚力に付いて行けず、結局丘を駆け上がる事を諦め、こっそり会場に戻って来ていた。


「はーーーはっはっはっはっ!! 我が名は三毛猫仮面、今宵はこの投票結果を盗みに参りました。つまらない舞台に華をっ! 盛り上がらない結末に波乱を添えて御覧に入れましょう!!」

(ほ、本当にシューネとフゥーくんは迎えに来てくれるんだろうね??)


 猫弐矢は三毛猫仮面スーツの下で不安で不安で仕方が無かった。だがそれ以上に妹の猫呼(ねここ)に迷惑を掛けている事も申し訳無かった。猫名(ねこな)に続き猫弐矢も結局妹と対立する道を歩もうとしていた。


(この声は猫弐矢お兄様?? 何故どうしてこんな事するの??)


 ドキドキしながら猫呼はチラッとセレネとスナコの顔を見た。


「セレネさんどうしますか? ビュンッと飛んで斬っちゃいますか?」


 そんな猫呼の気持ちを知ってか知らずかスナコが酷い事を言って、彼女はビクッとした。


「いんや、むしゃくしゃしてるからそうしたい所だが、どうせ奴らは魔呂を持って来てるんだろ? それをおびき寄せたい、がその前に……」

「その前に??」


 セレネは猫呼をギロッと見た。


「警備兵、猫呼先輩を拘束だ」

「ハッ!」


 氷の様な冷たい無表情でセレネが言い放つと、猫呼は泣きそうな顔になった。

 パンッ!!

 直後だった。突然スナコが無言でセレネの頬をはたき、一瞬舞台上がシーンとなった。セレネは砂緒に叩かれるなんて想像もしていなくて、固まって全く動けなくなった。


「警備兵動くなっ! 今の命令は無しです」

「な、なんだよお前」

「砂緒?」


 セレネと猫呼はようやく小さく声を出した。


「何をしてるんですかセレネさん、実際敵対した兄者は兎も角、猫呼は敵ですか? 私達の仲間で大切な友達じゃないですか、それを疑って拘束してどうすんですか? 猫呼が最近猫兄シリーズと私達の間で板挟みになり苦しんでた事に気付いて無かったですか? 私にどんな暴言吐いても良いですがセレネ自身が結果、孤立する様な事は言っちゃダメです」


 砂緒がまともな事を言った、それだけでまた一瞬シーンとなった。


「猫兄シリーズて」

「砂緒……」

「なんだよ、急に週刊少年マンガの熱血友情系主人公みたいな事言い出しやがって」


 セレネはせいぜいそんな強がりを言うのが精一杯だったが、内心砂緒の言葉で選挙絡みの怒りもスーッと消えて行くのを感じていた。


「それに……猫呼は私にとって大切な……」

「え、砂緒にとって私はにゃに……?」

「猫呼はこれでも大切なハーレム要員なんです。拘束されて一人減ったらもったい無いです」


 セレネと猫呼はコケた。


「猫呼先輩をなんらかの物資の様に言うな。それと猫呼先輩……すいません」


 セレネは恥ずかしそうに少し頭を下げた。


「い、いいわよ、それに本当に……」


 猫呼は恨めしそうにチラッと屋根の上を見た。その視線と猫弐矢三毛猫仮面二世は視線が合ってしまった。


(ああ~~~なんて事をしてるんだ僕は!? も、もうどうにでもなれ~~~)


 頭を抱えてしゃがみ込みたい気分の猫弐矢は、手はず通りシューネに決められた台詞を、天高く片腕を上げて叫んだ。


「ええい、しゃらくせえ! 魔ローダー三毛猫スペシャルカムヒャーーー!!」

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