ひみつの庭園、本当にモンスターがいました…b
「私達は魔輪でピクニックをしている者なのですが、この辺りに天球庭園という朽ち果てた庭園があるのをご存じですか?」
砂緒なりに演技をして丁寧に聞き出す。フルエレは彼がこんな事出来るんだと内心感心した。
「天球庭園かい? 聞いた事ないねえ、うーん、お前ら聞いた事あるかい?」
工事のおじさんが周囲の者達に聞く。それを後ろから見ていた目つきの悪い男が、二人に聞こえぬ様に囁きながら隠し持つ剣に手をかける。
「有未レナード様、あいつら只の一般人でしょう。殺りますか?」
この場にライグ村攻略で大敗しイェラに追いかけられて逃げた、ニナルティナ軍指揮官有未レナードが居た。
「いや魔輪に乗ってるガキ二人、敵の王都の貴族のバカ御曹司とかだろう。下手に殺って騒ぎになって捜索隊でも出されたらマズい。放っておけ」
「はい」
目つきの悪い男は剣を戻す。有未は直接は砂緒が魔戦車を潰す場面を目撃しておらず、逃げた捕虜からの情報もまだ上手く伝達されていなかった。
だからこの男は目の前の少年が例の化け物とは気付いていなかった。
何の情報も得られず、砂緒とフルエレは工事の一団を離れて再びでたらめに北東に向かって走り出した。丁度王都と海と中間地点辺りにまで来ていた。
「フルエレ! あれはなんですか!? 青い透明な物がピョンピョン跳ねてますよっ!」
普段無表情冷静な砂緒がいつになく驚いた声を上げる。
「なんだろ、真っすぐで良いの?」
フルエレが言われるまま森の小道を進むと、砂緒が指示した地点で魔輪を停車して二人でゆっくり森の中を歩く。森の木々の間に確かにクラゲ的に透明な青い物体がピョンピョン跳ねていた。
「わわっ、スライムよ! 砂緒あれスライム! 久方ぶりにモンスター見ちゃった。あ、砂緒以外でね」
砂緒は初めて見るモンスターという物体を目を皿の様にして見つめる。
「フルエレ……実は私、貴方や皆さんがモンスターだの何だの言ってるのは集団妄想か何かと思っていたのですが、本当にモンスターとやらはいたのですね。謝りたいです」
「貴方に言われたくないです……」
「あれを……攻撃したりしても法的に問題は無いのですか?」
「当たり前じゃない! 戦いましょう! さあ行けっっ砂緒!」
フルエレは飛び跳ね続けるスライムに対して、攻撃を指示するかの様にびしっと指を指した。砂緒は貰ったばかりの剣を抜き、スライムに突進を始めた。二人で初めてのまともな戦闘の開始だった。
「フルエレ、見てて下さいよ!」