第三幕 戦火の嵐 中 北部海峡列国同盟の女王
またすぐに緞帳が上がり、第三幕の続きが始まった。舞台は先程と同じ旧ニナルティナの宮殿、ハルカ城である。
「あれから数日、スナコちゃん私達はそろそろお暇しましょうか」
『そうですね、私達がこれ以上此処にいる必要は無いわね』
雪乃フルエレとスナコちゃんは未練も無く王城から立ち去ろうとする。と、そこに後ろからセレネ王女が呼び止めた。
「フルエレさん、王宮も綺麗に掃き清められた。何故に立ち去ろうとされる?」
「何故って私は最初から諸国を旅する修行の身、旧ニナルティナを倒す間だけ協力すると言っていたはずです。行こスナコちゃん」
『そうですね』
再びそそくさと立ち去ろうとする二人。
「待って下さい、旧ニナルティナの軍人為嘉アルベルトさまも貴方をお待ちです。良いのですか?」
「……此処に居なくともあの方にはまた会えますから」
『雪乃フルエレ女王陛下の意志は固く、無欲にも王宮に何の未練も無く人助けだけすると立ち去ろうとされたので御座います』
「た、大変だっ! セレネ王女さんフルエレ様、勝手に居付いたメドース・リガリァの連中と旧ニナルティナの残党がいざこざを始めやがった! 何とかしねえとなっ!」
とそこに残務処理に追われる有未レナードが血相を変えて走って来た。
「ちっあの連中、旧ニナルティナを倒したのは自分達だと大きな顔をして居座って、とうとう戦闘まで始めたか。仕方が無い、我が軍を差し向けよう」
セレネ王女が苦虫を噛んだ様な顔をして言った。
『この様に旧ニナルティナ王国が倒された後も当地は混乱が続いたので御座います』
急いで向かおうとするセレネの腕をフルエレが掴んだ。
「待って! 数日前まで一緒に戦った仲間に軍を差し向けるだなんて。大事にならない様に私とスナコちゃんで聖魔神騎を出して説得してみるわ」
『そうねっそれが良いわね。七華に宝石を借りてくるわっ!』
スナコちゃんは走って行った。暗転する舞台、今度はニナルティナ湾岸都市に変転する。
「ええい、此処は我らが守った地。我らが占拠して何が悪いガハハハ」
なんと旧ニナルティナの根名王に続いてメドース・リガリァの独裁者貴嶋の役も多少髭の形をアレンジして衣図ライグが演じていた。所謂一人二役である。
(な、何で俺ばっかり悪役なんだよ!? 変じゃね~か嫌われてる??)
ガシャーーンガシャーーン!!
乱暴狼藉を働く中部の軍事国家メドース・リガリァの軍に向かって、雪乃フルエレとスナコちゃんの乗る聖魔神騎が近付いて来る。今回は着ぐるみでは無く、音だけの演出である。
「メドース・リガリァの兵達よご苦労様でした。もはや平和になった以上は貴方達の役割は終わったのです。どうぞ祖国にお帰り下さい」
雪乃フルエレの丁寧な言葉だがどこか冷たい毅然とした声が響く。魔法サーチライトは再び実機の蛇輪を照らしていた。
「なぁ~~にぃ~~を~~? 貴様、この俺様に命令するか~~?」
演技の引き出しが根名王の時と同じであった。
『フルエレ、聞く耳を持ちそうにないわね』
「とても悲しいわ……仕方が無いわね」
ビューーン、ザシュッ!!
と貴嶋の足元に巨大な鉾の切っ先が突き刺さる。
「な、何をする??」
『もうよい、下がりなさい。これ以上の争いは無用です。もし引き下がらないのならば、これより飛んで貴方の本国を灰燼に帰しましょう。それでも良いのですか?』
『フルエレ、言い過ぎでは?』
『よいのよ……これくらい言わないと』
貴嶋は上を向いたまま、何かを言い掛けてしばらく黙った。
「くっ致し方あるまい。しかしこの屈辱決して忘れぬぞ……」
メドース・リガリァの独裁者貴嶋は踵を返してその場から立ち去って行った。そこに走ってくるセレネ王女と有未レナード。
「おおっいとも簡単にあの独裁者を追い返して下さった。やはり貴方は平和をもたらす聖少女様なのでありましょう」
「俺もそう思うぜっ!!」
セレネ王女が跪き、レナードもそれに続いた。
「止めて。私はそんなのじゃないわっ! 今度こそ行きましょうスナコちゃん」
『ええっ行きましょう』
この劇中のスナコちゃんは本当に自主性が無かった。
「今度は私がお待ちください! 私が秘めていた話を是非お聞きください」
セレネが雪乃フルエレの腕を掴んで離さなかった。
「何なの、離して頂戴?」
「いえ、離しません。実は貴方に旧ニナルティナを盟主と仰ぐ物に変わる新たな枠組み、北部海峡列国同盟の女王に即位して頂きたいのです」
「北部……」
『……海峡列国同盟?』
フルエレとスナコちゃんが続けて首をひねる。
「はい、此処ニナルティナとリュフミュラン、あたしのユティトレッド、それにユッマランドに加え、荒涼回廊の飛び地にシィーマ島国とブラザーズバンド島国、さらにラ・マッロカンプを加えたセブンリーフ北部の同盟です。これで平和な世の中を作るのです」
フルエレは怪訝な顔をした。
「それなら貴方が女王になりなさいよ」
「いえ残念ながらあたしには人望がありません。それに貴方は聖少女というだけでは無く、万民の平和を願って修行の旅をしていたと仰っていました。それは口先だけの話ですか? 貴方を慕う人々を置いて何処かに去って、何が万民の為でしょうか??」
セレネの説得に雪乃フルエレは言い返す言葉が無かった。
「いいわ……一期だけ、最初の一期だけこの平和を保つ為に女王になりましょう……」
『こうして北部海峡列国同盟の雪乃フルエレ女王陛下が誕生したので御座います』
これまで何回にも渡ってスナコちゃんの台詞を『 』にするの忘れてた。




