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第二幕 聖少女伝説 下 旧ニナルティナ軍崩壊② 遂に起動する聖魔神騎

「くそーなんて事だっ!!」


 猫呼(ねここ)の前を通り過ぎる傷だらけの兵達。猫呼の不安がどんどん募って行く。


「あ、あの何があったんですか!?」

「俺達も何が何だか。敵が魔ローダーという巨大メカを持ち出して来て総崩れさ」

「君も逃げた方がいいぞ! 前線の冒険者部隊も壊滅、アレスという隊長も死んだそうだ!!」

「え? そんな酷い!!」


 猫呼はそのまま地面に崩れ落ちた。


(いいんかコレ? フルエレさん傷付かないか?)


 セレネは観ていて雪乃フルエレの気持ちが心配になった。しかし当然フルエレはこの台本を事前に読んでおりこうした展開になる事は十分承知していた。それだけでは無く、もともと砂緒の配慮で筋書きに無かった為嘉(なか)アルベルトの存在も物語に記述される事となった。だがその決心が良い事なのか砂緒にも分からなかった。


「駄目だわっスナコちゃんの力でも魔ローダーには太刀打ち出来ない!!」

『でもなんとかしなきゃ。兵隊さんも沢山亡くなってるよ。そうだっ七華王女が言っていた聖魔神騎はどうなんだろ?』

「フルエレさまーースナコさまーーー!! これを!!」


 と、二人が話している最中に七華が白馬に乗って駆けて来た。


『凄い、七華王女の方から走って来た!!』

「グッドタイミングね」


 雪乃フルエレは魔銃ライフルを構えたまま振り返った。


「受け取って下さい!!」


 パカラッパカラッと走り続ける馬上から七華が思い切り、大きな宝石の付いたヘッドチェーンを投げた。ちなみに七華が乗る白馬は中に人間が二人入った物だが、コントに出て来る様ないい加減な物では無く極めてリアルに出来ていたので、セレネも突っ込む事は無かった。

 キラキラキラ……

 七華が投げた宝石が輝きながら戦場の只中を飛んで行く。

 パシィッ!!


「取ったわっ!」

『やった!!』


 フルエレが魔銃ライフルを小脇に抱えたまま片手を高く伸ばしヘッドチェーンをキャッチした。


『どうなるの?』

「七華ッこれをどうすればいいの??」


 フルエレは大声で叫んだ。


「フルエレ、貴方が聖少女なら聖魔神騎に願って下さい! さすれば現れます」

「現れる?」

『ですって??』


 二人はどこかの石像内だとかに隠されていると思っていたので七華の言葉に驚いた。


『フルエレ、とにかく聖魔神騎さまに祈りを捧げて!』

「う、うん……よく分からないけど、祈ってみる」


 激しい戦いが繰り広げられる戦場の只中で雪乃フルエレは目を閉じ両手を合わせて一心に祈り続けた。どうして敵魔ローダーは真っ先に彼女を踏まないのか? 等と考えるのは野暮という物である。


「お願い……私は聖少女なんかじゃない、けど困っている皆を助けたいの! 聖魔神騎さま、私に力を下さい」


 ピシャアアッッ!!

 フルエレが祈りを捧げた直後、突如空が暗闇に変わり激しい稲妻が落ちた。


「な、なんだ? 何が起きた!!」

「空が真っ暗だぞ!!」

「見ろっ太陽が隠れて行く!!」


 兵達が動揺する中、スナコがふっと気が付くと目の前に巨大な影が現れていた。


『見て、目の前にいつの間にか巨大なロボットがっ!!』

「ロボット??」


 二人は大きく上を見上げた。

 カッッ!!

 突如魔法サーチライトが舞台下から何本も点灯し上に向けられると、何時の間にかセッティングしていた、舞台屋根の向こうに本物の旗機魔ローダー日蝕白蛇輪が佇んで居た。砂緒がセレネに頼み込んで事前に設置して黒い布を被せて隠していた物だった。


「これに乗り込めば良いのね??」

『そうねっ乗りましょう!!』


 二人は舞台上に設置された蛇輪の操縦席を模したと思われる座席に着いた。

 フッ

 その直後、魔法サーチライトが消され舞台背後の蛇輪は消え去った。その代わり舞台の中心に身長二Nメートル程の大男が全身に蛇輪を模した着ぐるみを着て登場した……


(……え?)


 セレネはちょっと引いた。


「おおっ聖魔神騎さまが現れたわっ!!」


 七華が大男の着ぐるみを二十五Nメートルの巨人という体で見上げる。


(え、これで行く気??)


「仕方ないわ……この力で敵を倒すのよ!!」

『私も手伝う!!』


 その直後、同じく敵魔ローダーを表現したと思われる着ぐるみがわらわら出て来た。その造形自体は鎧職人が精魂込めて作った気合の入った精巧な物だったが、人間大という事がセレネはどうも引っ掛かった。


『フルエレ先に仕掛けないとやられちゃうわ、やるのよ!!』

「ええっ行くわ、おりゃああああああ!」


 と、操縦席内の体で雪乃フルエレが叫ぶと、真横で本物の魔呂の体で人間サイズの激しい戦闘シーンが再現されて行く。この異世界の人々は当然知らないが、見ようによっては鉄〇2〇号ぽくもあった。


 ガシーーン、バシーーーン!!

 ちぎっては投げ、ちぎっては投げ次から次へと実際には存在しなかった旧ニナルティナの魔呂達を倒して行く蛇輪……の着ぐるみ。セレネはこれが観客の王族達に伝わるか心配だったが、それなりに良い反応を得ていた。


「が、がんばれーーー!!」

「女王陛下勝つのよ!!」


 思わず熱い掛け声が飛ぶ。セレネはグッとガッツポーズをした。


「はぁはぁ……敵魔呂、全て倒したわ」

『凄いわフルエレ……私へとへとよ』


「よーし敵メカは全て潰して下さった! 敵地上軍を掃討しろ!!」


 味方が大反撃に転じる中、二人は座席の背もたれに項垂れて目を閉じた。


『こうして雪乃フルエレ女王陛下とスナコちゃんの活躍により敵旧ニナルティナ侵略軍は壊滅したので御座います』


「アレスさん……何て言ってくれるつもりだったの?」


 猫呼は舞台上で手を合わせて涙を流した。これは決して演技では無く実際の涙だった。猫呼に恋愛感情は無かったが、彼を戦場に送り込んで死なせた事は今でも痛恨事だったのだ。供養代わりにひたすら泣き続ける彼女を舞台の中心に据えたまま緞帳が降り、第二幕は幕を閉じた。

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