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第二幕 聖少女伝説 中 王の頼みと行き倒れ猫呼……


 雪乃フルエレとスナコは煌びやかな姿の王女の突然の行動にびっくりしてたじろいだ。


「ちょ、ちょっと何の事だか分かりません……私は修行中の行商人見習い決して聖少女などではありません!」


 フルエレはふるふると頭と手を超高速で振った。


『もしかして……その聖少女って、私の事かもしれません』


 スナコは震える手でホワイトボードを差し出した。


(……え?)


 一瞬雪乃フルエレも七華も見てるセレネもポカーンとなり、会場中の者が全員内心何言ってんだコイツと想いが一つになった。これは完全に砂緒のアドリブであった。


「おほほ、従者さま御冗談がお上手ですわね」

「確かにスナコちゃんが聖少女だったら良いね!」

「そ、そうですわっ! 勇者様貴方達にお父様、父リュフミュラン王にお会いして頂きたいのです!」


 七華は強引に本筋に戻した。しかしその所為で荘厳なシーンが近所の立ち話的な雰囲気に成り下がった。全て砂緒のアドリブの所為であった。


「分かったわ、王女様がそこまで仰るのならば、この雪乃フルエレ王様にお会いします。スナコちゃんも一緒に行ってくれる?」

『もちろんよ、私とフルエレは仲間なのよっ』

「そうね!」


『こうして雪乃フルエレ女王陛下とスナコちゃんは、リュフミュラン王に謁見する事となったので御座います』


 イェラのナレーションを合図に舞台はまた転換し、王宮の玉座の間となった。


「おお、其方達が憎き旧ニナルティナ軍を撃退して下さった聖少女様とその従者か? なんと礼を言えば良いか」


 実際には見た目がモロに悪代官顔のリュフミュラン王だが、舞台では白髪に白い長い髭の仙人風な役者が演じる王が、フルエレに言葉を掛けた。しかし見ているリュフミュラン王自身は、余りにも美化が激し過ぎて現実の本人が否定されている気がして良い気分はしなかった。


「いえ私達は偶然通りかかった為に、少し手をお貸ししただけ」

『はい……私達は決して聖少女さまなんて大それた者ではありません!』


 砂緒が後先を考えないアドリブを吐いた為に、矛盾が生じてしまっている。


「いや聖少女かどうかは兎も角、生身の人間が魔戦車を潰し、通りがかっただけの少女が負け掛けた軍を立て直して旗を振り先導する、その様な事は決して出来ん。其方らは勝利の女神じゃ」

「そ、そんな……偶然です」

「おおそうじゃ、其方らに大金を渡そう、それでこの国の将軍になってくれぬか?」


 フルエレは首を振った。


「そんなお金なんて要りません。ただ人助けがしたかっただけなのに」

『行きましょう、此処は私達の居るべき場所じゃない!』


 フルエレとスナコちゃんは踵を返して部屋を出ようとする。


「待ってくれっ! なんという無欲な聖者じゃ……済まぬ、失言を許してくれ。そうじゃ其方らが守ったライグ村の冒険者ギルドが空き家のまま。あの館を其方らが預かってくれぬか? さすれば修行の為にも役立ち諸国の情報も得やすいという物。決して施しでは御座いませんぞ」


 王様の必死の叫びの直後、グッドタイミングでスナコちゃんのお腹がグ~となった。


「そうね私達は修行の身、一夜の宿すら当ての無い身なのは確か。こうして人の情けに頼る事も必要かもしれない。スナコちゃん良い?」

『うん、貴方が良いならば』

「よし決まりじゃ!」


『こうして雪乃フルエレ女王陛下とスナコちゃんはリュフミュラン王国ライグ村の冒険者ギルドを預かる身となったので御座います』



 またもやナレーションの後に舞台は暗転し、今度は冒険者ギルドの館が眼前に現れた。


『二人は廃れていた冒険者ギルドを復興させ、多くの人々が集う様になって行ったので御座います』


「まあ、荒れ果てていた館がこの様に立派になって大繁盛しているなんて、お二人には運営の才能もお有りですわね!」


 実際には寄り付きもしなかった七華が常連客となって居た。全て砂緒の願望である。


「ええっ、スナコちゃんが喫茶店を開きたいと言った時は驚いた物だけど、そのお陰でますます冒険者が集まる様になりました」


 フルエレは今や内心七華と仲良くなりたいと思う部分もあったので楽しんで演じた。


『自分の目で厳選した拘りの珈琲豆を浅煎りに自家焙煎して、魔法ランプを使ったサイフォンでコポコポ沸かして抽出して淹れてるの。それに使うお水は全て地下洞にある千年氷を溶かして使っているのよ!』


 スナコちゃんはクラシックなサイフォンを操作しながらコーヒーを淹れて行く。


(……フエ??)


 セレネは砂緒と初めてレギュラーコーヒーを買いに行った日を思い出した。


「まあ……凄く美味しいですわっ!」

『うふふ』


「た、大変だっ!」


 入り口と店内が同時に表現された舞台セット内を、役者が演じる戦士風の男が慌ただしく駆けて来た。


「アレスさんどうしたの!?」

「ギルドの入り口前にネコミミを付けた可愛い女の子が倒れているぞ!」

「まあ大変! 早く店内に連れて来てあげて!!」

『私、中程度の怪力で運びます』


 雪乃フルエレとスナコとアレスは猫耳娘を店内に運び入れ、水を飲ませたりして介抱したのだった。

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