大同盟か引き渡し要求か、砂緒の選択…… 上
(なんや、ややこしい事になってるなあ? ウチが若君を助けて討伐する予定やったまおうが舞台上におるやんかい。あそこに一気にジャンプしてあの熊耳っ娘斬り捨てたら全部解決するんかいな? どうしたらいいねんシューネ?)
瑠璃ィ達が居る貴賓席では、王族達が何の解説も無くなかなか動かない会議に再びざわつき始めていた。瑠璃ィは遠くの席に座る貴城乃シューネを見たが、彼にも動きは無かった。
「瑠璃ィ、妙な事するなよ。お前はセブンリーフの一員でボクの家来なんだからな?」
「そうですよ瑠璃ィさん」
ウェカ王子がそっと瑠璃ィの手を握り、メアも笑顔で言った。
「王子、ほんまに急に大人になったな~~ほんの前までウチのおっぱい吸っとったのにな~~~」
「ええっ本当ですか!?」
「お前の乳など一滴も吸ってないわっっ!!」
王子は顔を真っ赤にして否定した。しかし瑠璃ィは自分が東の地の神聖連邦帝国とセブンリーフの女王国同盟の間で酷い股裂き状態に置かれた事を悟った。
舞台上ではセレネが新たな人物の名前を出していた。
「ではココナツヒメと行動を共にしていたサッワなる少年の犯罪人がいる。その行方は知っているか?」
スピネルは猫呼がかん口令を敷いている為、セレネは知らなかった。
「ちょっとセレネ話聞いてるの?」
『セレネさん??』
抱悶は白々しく唇を尖らせた。
「そ、そんな子供知らんな~」
(ヤバイ、今日もサッワと会ったばかりじゃ……)
「ほほう? サッワは最後にココナツヒメが撃たれた時に行動を共にしていたのだが。投降者に確実な証言者が居るし呼んでも良いぞ。恐らくココナツヒメを介抱したのがサッワで彼女が生きているならサッワもまおう軍内にいるのでは??」
セレネの推理に抱悶は子供らしくどぎまぎして冷や汗を掻いている。砂緒も雪乃フルエレもこれはサッワは生きているなと感じた。しかしセレネ程サッワへの執着は無かった。
「もう良いじゃない? 一国の代表を個別の案件で尋問する事は無礼だわ。少なくとも抱悶さんは友好を示しに来たのよ?」
「フルエレさんは黙ってて下さい」
「なんですって!? 結局私はお飾りと言う事?」
「いえ、そういう訳では。今のは取り消します。すいませんでした」
セレネは素直に頭を下げた。
「あうあう」
抱悶は歓迎されるかと思いきや思わぬ展開に幼い頭が破裂しそうになり始めた。
「あたしはまおう軍との友好はココナツヒメとサッワの引き渡しが最低条件だと思います。ココナツヒメは我が同盟の魔法病院で療養してもらいましょう」
「だからサッワなど知らんと! それにワシも一軍の将じゃ、傷病人を引き渡す事などありえんわ! 処刑する為に療養させるのかお主??」
「そんな事は言ってません」
セレネと抱悶は睨み合って一触即発になり始めた。
「私はもう決まったわ、過去を乗り越えてでも今まおう軍と少しでも友好を育む事が重要だと思う。私自身の気持ちさえ決して簡単に整理出来る事じゃ無いとは分かってるけど……それでも!!」
フルエレも考えを言い切ると、スナコを見た。
「最後はどうやらフルエレ女王もセレネも、スナコというか砂緒に決めて欲しい様じゃ。ややこしいのう」
抱悶もスナコを見て、セレネもじとっとした目でスナコを見た。三人の美少女にすがる様な目で見つめられるスナコ。
(え? こ、この重要な局面を私が一人で決めちゃうんですか?? 困った……個人的な性格で言うとセレネと完全に意見は一致しています。犯罪人を先に引き渡せと思う……でもそれを強行に主張すれば抱悶ちゃんは泣きながら帰って行くでしょ。するとフルエレは意気消沈しやる気を失って選挙なんて無視して引退してしまうかもしれない。そうすると同盟は崩壊、皆と別れる事に……なんと言ってもフルエレも本性は意固地で気が強いですからね、引き下がる訳が無い。でも……セレネさんと私はずっとずっと一緒に生きて行くと誓った仲、私がフルエレの肩を持ったとして、苦渋の選択だと理解してくれますよねえ??)
スナコはチラッとセレネの目を見た。彼女はすぐに視線を逸らした。
「砂緒はどうするのよ?」
「砂緒はあたしに近い考えだよな?」
「どうするのじゃお主」
三人同時に声を掛けられて冷や汗がタラッと流れた。
(セレネさん分かって下さい)
「セレネさん……」
「うん、何だ!」
セレネがぱあっと笑顔になった。対照的にフルエレの顔が暗く沈む。
「セレネさん、今回は出来たばかりの同盟の安定を図って、要求はぐっと飲み込んで、フルエレの考えに従いませんか?」
一瞬の沈黙が。
「砂緒ならそう言ってくれると信じてたわ」
雪乃フルエレがスナコと抱悶に近寄って行く。対照的にセレネは目に涙を貯めて首を振った。
「お前だけはあたしの味方してくれると信じてたのに、バカァ!!」
ガンッドギュウイイイイイイイイイン!!
セレネがスイッチオン状態の魔法マイクをスナコの額にぶつけ、それが床に転がって雑音が会場中に響き渡った。




