二人で話がしたいのです…… ‐
「そこで腰を入れろ! 全然だめだ、本当にお前は強いのか?」
朝食の時に突然、砂緒はイェラに剣の稽古を申し入れた。地下牢で三毛猫仮面と戦った時に全く歯が立たなかった事に危機感を感じていたからだった。
懇切丁寧に教えてくれるイェラ。だが砂緒は剣の才能は今の所全く無い様だった。
「どうしたんですか、急にそんな事初めて。砂緒は今でも十分最強です!」
何かのフィルターがかかっているのか事実と異なるフルエレの見解。
裏庭に面するテラスから二人の様子を眺める雪乃フルエレ。猫呼クラウディアは朝から早速冒険者ギルドの受け付けを開始している。三人の中で一番真面目だった。
「そもそも持ち方が間違っている! 右手に力が入り過ぎだ! こうだ!」
横から大声で指導していたイェラが、とうとうゴルフレッスンの様に砂緒の後ろから覆い被さり砂緒の両手に手を添えて、手取り足取り実地レッスンを始めた。
(ちょ、ちょっとちょっと!)
急激に密着度が高まった事にびっくりするフルエレ。しかし砂緒の表情に変化は無い。
「そうじゃない! 腰はこうだ!」
さらに熱が入り二人は密着し、イェラの大きな胸が砂緒の背中にぐいぐい押し付けられる。それでも無表情な砂緒の姿がシュールに見える。
(どうしていいかとまどっているの? それともゴーレムさんだから無反応なの?)
フルエレはあまりにも無反応な砂緒に戸惑った。試しに小さな声で何か言ってみる事にした。
「しちか~~?」
カキーンという音が聞こえそうなくらいに、砂緒の動きが急激にガチガチになる。外形的にはようやく美女のレッスンでガチガチになる少年という絵柄が出来上がった。
「どうした!? 急にもっと動きが酷くなったぞ! ガチガチじゃないか」
イェラが呆れて腰に手を当てて砂緒を見るが、砂緒はあらぬ方向を見ている様だ。
(……一体……何があった!?)
そんな時に、フォッフォッーと突然エアーホーンの音が。
「あ、来た! やっと来たわ!」
フルエレが二人をほったらかしにして表に回る。
「フルエレさん、割と早く完成しました。全体で五万Nゴールド程の出費が浮きました」
表に出ると館の前で大きな男が真っ赤なサイドカー付き魔輪を押して立っている。
「植土さん、凄い早いですよ。ありがとうございます! うわー凄いかっこいい!」
フルエレは真っ赤なサイドカー魔輪に駆け寄りまじまじと見つめる。
以前砂緒と一緒にニナルティナ兵から奪い使用していた物で、フルエレ自身は軍用デザインでも気に入っていたのだが、そういう物を受け付けない周囲の住民に配慮して、一部外装を換えたり装飾を施したり偽装した上で、ボディの濃い緑を真っ赤に塗り直してもらっていた。
植土は衣図に紹介してもらった、村一番の魔法機械職人だった。