おかえりなさい、でもお店は乗っ取られていた…b
なおも聞くフルエレ。
「天晴! 見事討ち取りましたな! としか思わないですが、そんな事。私に言った事と矛盾してるじゃないか! みたいな事も言うつもりは毛頭ありませんよ」
「それはそれで変だ。慰めてほしいフルエレの気持ちを汲め」
イェラが睨みながら砂緒を促す。
「ううん、いいのそれが砂緒だから。普通みたいに君は悪く無いよとか言いながら抱き締められて慰められたら、悲劇のヒロインみたいになれるかも知れない。けど猫呼ちゃんがお兄さんを探してるみたいに、亡くなった兵士が帰りを待ちわびる家族の元に帰れる訳じゃない。もう元には戻らないのよ」
フルエレは悲しそうな顔ながら、無理やり笑顔を作った。
「ああ、そうです! 私もイェラさんも、もうここに住んでるのですけど、いいですよね」
猫呼はもうこれ以上重い空気は耐えられないと、超強引に話題を換える。少なくともフルエレとイェラは年上として、猫呼に気を遣う事をさせてはならないと話を合わせた。砂緒は黙って食事を再開する。
「そうなのね! 猫呼ちゃんだけじゃ無くて、イェラさんまでなんだ」
「ああそうだ。一人暮らしも良いが猫呼は一緒に居ると可愛いのだ、良いか?」
「もちろんよ!」
イェラは元住んでいた家を引き払い、こちらに移り住んでいた。
「砂緒さんお兄様がみつかるまで、これからは砂緒さんを臨時代用お兄様とお呼びしていいですか? ちゃんとそれ相応のお給金はお支払いします」
「お給金!? そのお話お受けして、砂緒!」
「臨時代用お兄様はコンプライアンス的に大丈夫なのか」
少しだけ場が和んでホッとした猫呼。
「そう言えば、牢屋で三毛猫仮面を見ました。なかなかの変態でしたね。あれが本当に兄ですか?」
びくっと猫呼のダミー猫耳が反応する。
「私の兄は……私の記憶の中ではまだ丸坊主のク○ガキでした……好みの兄タイプかどうか実際に見てみないと」
「ク○ガキ言うな。まだ子供だったと言え。それに好みで探すな」
イェラが注意する。
「なかなかの危険人物そうに見えましたよ」
「でも今は砂緒お兄様に甘えたいです!」
「本気で警察案件だから止めろ」
フルエレは自分の所為で場が暗くなったのに、元に戻りつつあってほっとした。本当は砂緒が悪いのだが、一切に気にかけてはいない。彼はまだ唇の感触を思い出していた。
「そうだフルエレ、今夜私は猫呼とイェラどっちのベッドで寝れば良いのですか?」
「ひゃ?」
「何を言っている」
猫呼とイェラが同時にびっくりする。
「最初にこの館に泊まった時に、フルエレが一番最初の夜だから、いっしょ」
「うわーーーわーーーわーーーわーーーわーーー。な、何を言っているの!?」
突然立ち上がって、真っ赤な顔で砂緒の口を押さえるフルエレ。
「何でも無いの、本当に何でも無いのよ。この人頭がちょっと……だから意味不明な事言うの。き、気にしないでね」
もう猫呼もイェラも二人に何かあったのだな……と思っているが、実際には何も無かった。でも二人はフルエレがいつもの調子に戻って来た事が嬉しかった。