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決着と夜の庭の二人…… 下①

(ど、どうした事でしょう。紅蓮にやたら話し掛けて私をやきもきさせたかと思えば、先程は猫の様に甘えて来たり今日のセレネさんの感情はジェットコスターですね……)

「安心して下さい、ただのシュミレーションですから。本気で私の大切なセレネさん……やフルエレや七華やイェラや猫呼やメランを置いて何処かに行く訳無いじゃないですか。今のこの生活、絶対に死んでも手放しませんからね」

「言い方が怖い、目が怖い」


 しかしセレネはそれが砂緒の本音であると思った。


「冗談はさておき……」

「冗談なのかよ?」


 砂緒は気にせず続けた。


「昔よくフルエレに対して、困った事があったら全て捨ててトンズラしようと良く言ってた物です。その時は本気で地位や境遇に何の価値も感じて無かったのですが」

「今は?」

「今はフルエレを巻き込み、多くの人を巻き込んでこれだけの同盟が成立して、それを必死にセレネさんが守っている以上、全部ほっぽり出して何処かに行くなんていい加減な事もう考えられないです。もう以前の無責任な私ではありませんよ」

「つまり?」

「え、つまり? 今かっこ良い事言ったのですがまだ必要ですか?? つまりセレネさんが一番大切だという事ですよ!」


 セレネは突然ジトッとした目をした。


「つまりフルエレさんより大切という事だな?」

「う、それは……同じくらい一番大切という事です」

「同じくらい一番大切って詐欺かよ、二番目じゃないか。それにさっきの話、あの唇を奪った女にまた会いたいだけじゃないのか?」


 砂緒自身が気付いていなかった深層心理を言い当てられて一瞬言葉に詰まる。


「ドッキーン、ちち違いますよ」

「フルエレさんと同じ姿形でしかも外界を知らない女、それなら自分好みに仕向ける事が出来るんじゃないか……等と思ってさっきみたいな事を言ったんじゃないか?」

「まま、まさかそんな非人道的な事かか考える訳ないでしょ。それに姫乃はそんな簡単な女性じゃないです。非常に芯の強い素晴らしい女性なんです!」

「あたしの前で堂々と褒めるなよ」

「とにかくっ私にとってこの同盟は第三の故郷と呼べる物です、何処にも行きません!」


 砂緒はスナコの姿でセレネの両肩に手を置き、血走った目で言った。


「第一と第二の故郷が気になり過ぎるわ。でもやっぱり目が怖い!」

「もうこの話は止めましょう」

「じゃあ証拠を見せろよ……」


 そう言って今度は唐突にセレネは目を閉じて上を向いた。


(うっ可愛い……やっぱりセレネさん大好きです……覚悟を決めましょう)


 砂緒はセレネのサラサラの長い髪の間に指を差し入れて自らの顔をゆっくり近付けた。砂緒もセレネもさらわれた直後とかじゃない、通常の場面でのキスにお互い初めての様な気がして激しくドキドキして緊張した。


(キスって……どんなんでしたっけ!? これで良かった??)


 等と迷いながらも唇と唇が触れようとした瞬間だった。


「はぁ~~~疲れたワーー、何処かに丁度良い座る場所って無いかしら」


 深夜二時過ぎの真夜中の庭園に何故かフルエレがふらっと現れて、慌てて二人はバッと顔を離した。


(何でフルエレさんが居るんだよ!?)


「あら、セレネとスナコちゃん此処にいたの? そこに座って良いかしら?」

「フルエレさん昼間と同じじゃないか!? 覗いてただろ??」

「え、何の事かしら」


 セレネは折角良い感じになっていたのに邪魔されてあからさまに怒っていた。


「まあまあ偶然ここらを歩いてただけでしょう、一緒に座りましょう!」

「そう、悪いわねえ」


 セレネはアルベルトさんが突然亡くなって寂しいだけだろうとは口が裂けても言えず、渋々と砂緒に従ったのだった。だがそれも計算ずくなんじゃないか? とすら思い始めていた。


「そうだ、今夜はこのベンチで三人肩を寄せ合って寝ましょうか!」

「あ、それが良いわねえ!」


 フルエレは両手を合わせた。


「良い訳ないでしょ!! 滅茶苦茶だな」


 ヒューーーーーーン……

 その時、突然大きな音が鳴った。


「え、なんだよこの音」

「セレネさんフルエレ、私から離れないで!」


 砂緒はここぞとばかりに両手に花と大袈裟に二人を抱き寄せた。


「お前に掴まれてる方が動けんわ!」


 バリーーーーン!!!

 突然張ったばかりの結界のシールドが破られて、三人は抱き合ったままあっけに取られた。

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