決着と夜の庭の二人…… 上
「ミョーな動き一つすんなよ、分かってるなコラー?」
後ろから付いて来るシューネを抱えた紅蓮に、振り返りつつセレネが威嚇して言った。
「どうして君はそんなに肩ひじ張って生きているのかな? 普通にしてれば凄く可愛い子なのに。きっと何か背負っている物があるんだろうね。まあ僕にもよく分かるけどね!」
紅蓮はセレネの威嚇に微塵も動揺する事無く、平坦な感情で自然に言った。
「勝手に他人の精神分析するなや、キモいわ」
「あ、君が初めて普通に会話してくれたねっ! 凄く嬉しい」
「何処が普通の会話なんだよ、どうかしてるだろ頭。もう話し掛けんなよコラー」
セレネがぷんとして前を向き直した瞬間を見て、スナコこと砂緒は不思議な既視感を覚えていた。
(ああ……そう言えばフルエレがアルベルトさんアルベルトさん言っていた頃、私は寂しさの余り必死にセレネに話し掛けて取り入ろうとしてたんでしたね。もしかしてこの二人も出会う時期が違えば私達の様な仲に? ……いやいや駄目でしょ。私の大切なセレネさんがこんな得体の知れないヤツに取られちゃ! コイツ無駄にイケメンだしな……)
「おいお前! それ以上セレネさんに気安く話し掛ければ命を失う物と思え」
「はいはい」
紅蓮は片手でヤレヤレのポーズをした。
「どうしたのよスナコちゃん、あれ程必死に女の子してたのに素に戻っているわよ!」
「雪ちゃんは気安く声を出さないで下さい!」
「え、なんで??」
「いいですから!!」
セレネは必死過ぎるスナコの様子を見てから前に向き直すと、ニヤッと嬉しそうに笑った。
「所でお前何者なんだよ?」
(ちょっとちょっとセレネさんセレネさん、何でワザワザ話し掛ける?)
「僕は中心の洲、いや東の地から来た只の旅人だよ!」
「嘘付けよ、身なりとか実力とか尋常じゃ無いだろバカか」
「本当だよ、冒険者としてリュフミュランの出来たばかりのギルドに行った事もあるよ!」
「え、マジで!?」
今度は雪が大声で驚いた。
「うん、確かさっき寝てた猫耳の可愛い子と片側に長い髪を結んだ褐色の長身美人さんが切り盛りしていたなあ」
「あちゃーそれ私達が七華に投獄されてる間の事ねえ」
なるべく話すなと言われている雪が思わず回想して言った。
「へェー何だか知らないけどニアミスしてたんだねえ」
「お前割と女の子ばっかり見てるタイプなのな。誰かさんとソックリだよ」
「ふふ、セレネちゃん僕たち割とすぐに打ち解けて来たね! もしかしたら良い友達に……」
「なれんわバーカ」
「そうかな?」
(や、やばい……)
何か本当に親し気に溶け込んで会話を始めた紅蓮を見て、砂緒は無性に焦り始め冷や汗が出た。
「や、やめろ! お前は無駄口叩かずにキリキリ歩け。せ、セレネさんもそれ以上敵と慣れ合う様な事は止めて下さい」
「敵じゃないよ」
再びスナコは両者の間に割って入って会話を止めた。その瞬間、セレネは再び前を向くと、ニッタァ~と嬉しそうに笑った。
「ぷぷっ」
「何がおかしいんですか!?」
「何でも~?」
「砂緒は本当に単純なのねえ」
頬に手を当てて呟く雪を、紅蓮は無言でじっと見ていた。
―玉座の間。此処、タカラ山新城の城代は引き続きタカラ指令が務めているが、この玉座は便宜上雪乃フルエレ女王の物であり、彼が座る事は無い常に空席の玉座だった。
「お、あったあった、このウィンウィン言ってる奴が結界魔器だな」
「そうねえ、海と山と国の物にそっくりだわ」
「雪ちゃん余計な事言わない!」
再びスナコが慌てて雪を止める。
(え? 海と山とに挟まれた小さき王国?? このパピヨン雪ちゃんって何者なんだ??)
再び紅蓮は雪ちゃんが失言を繰り返す事を期待して、余計な事を言わずにじっと彼女を見続けた。
「そ、そういやあ、あたしゃテッキリ此処に辿り着く前に数多くのトラップが仕掛けられてて、玉座の間には強敵のラスボスモンスターか何かが仕掛けられてると予想してたんだがなあ、なんかスンナリ辿り着いて拍子抜けだよ」
「ああ、それは私も想定して警戒しておりましたよ」
等と言いつつセレネとスナコは紅蓮をぎょろっと見た。
「え、僕? 僕は今来たばかりだし。悪人じゃないしこの男の仲間でも無いし分からないよ」
それはシューネも同じで、来て半日かそこらでそこまでのトラップを仕掛ける事は不可能だった。
「へェー?」
等と言いつつもセレネと雪が共同して結界魔器をリセットして再起動した。
ウィーーン……
魔法液晶画面にスタンバイの文字が表示された。
「実感無いんだが、これで上手く行ったんかよ?」
「そのはずよ、城の外では透明のシールドが展開されて物理的に敵は侵入出来なくなったはずよー」
実際城の外側では海と山と国でセレネと砂緒が出会った物と同じ結界がビャーっと傘状に展開されていた。
「じゃ、これで一件落着だね!」
「一件落着だね! じゃねーわ。まだテメーが此処を出て行ってねーわ」
「そ、そうよ、早くとっとと尻尾を巻いて出て行くのよ!」
スナコがセレネに同調して言った。
「えー、僕たち折角友達になったのに??」
「なってねーわ、早く出てけしっしっ!!」
今はスナコこと中身の砂緒は紅蓮アルフォードのイケメンから来る自信と余裕感がムカついて仕方が無かった。
(こ、こいつとにかく気に食わねえ!)
しかしそんな事を考えている間にも、気付かない内に貴城乃シューネが仕掛けた幻惑魔法が解け、膨らんでいた胸が消え地声に戻り兎幸がメイクした顔以外の女体化が徐々に終わっていた……




