貴城乃シューネ追い出される 上 紅蓮、耳寄り情報を聞く
「フフッ、シューネですら此処に来たら思わずハメを外してしまったんだね?」
「お恥ずかしい限りです」
仮面を外した貴城乃シューネは若君、紅蓮アルフォードの思惑が図りかねた。
「実は……今僕はセブンリーフで出会ったとても可愛い子と一緒に旅をしていてねフフ。いやむしろ向こうが僕にベタ惚れと言うか、何処までも付いて来ると言うか……いや、今は安全の為にグルメタウンの宿屋に泊まっているんだけど」
「そ、それは」
シューネはいつも殺気立っていた若君の妙にふわふわして機嫌の良い雰囲気に合点がいった。
「美柑という子で少し姉上に似た雰囲気が何故かあるんだけど、どこに行っても天使かアイドル並みに可愛いと言われる超絶美少女で……もしかしたら中心の洲(東の地)に連れて帰るかもしらん」
若君は少し頬を赤らめ視線を逸らし鼻を掻いた。
「そ、それは祝着至極に存じます」
「うむ、苦しゅうないぞははは」
(姫乃殿下に少し似ているだと? ……しかし若君が妙に機嫌が良いのは好機、ここは機嫌を取っておこう)
「……しかし、それと私の処遇は……」
「そう何が関係あるのかって? 分かるんだよ。普段朴念仁のシューネが誰も見知った人が居ないセブンリーフの地で思わずハメを外しタガが外れてしまう。なんだか此処は気持ちを自由にさせてしまう様だ……」
「は、はい、まさにその様な」
「シューネも決闘を挑まれて仕方なく服をビリビリに切り裂いただけで、それ以上は紳士なお前は手出しする気は無かった、そうだろう?」
「まさしくその通りで御座います。興に乗り過ぎ反省しております」
シューネは再び深々と頭を下げた。
「反省している様だしふむ良いだろう。でもあの子達を納得させる為に、拘束輪を掛けて大袈裟にしょっ引いて連れ出してやろう」
「はい、いささか恥ずかしいですが致し方ありませぬ」
「僕も早く美柑の所に戻らなくっちゃフフ」
紅蓮が早速魔法で拘束しようとするので、慌ててシューネは止めた。
「その前に折角この様な僻地で主従再会出来たのです、何か私がお役に立てる事は御座いませんか?」
シューネは再び片膝ついて頭を下げた。
「ふふ、この機に機嫌を取ろうてか、如才ない愛いヤツじゃ。そうだね、じゃあ最近美柑が一度雪乃フルエレ女王の顔が見てみたいとしきりに言うから困っているんだけど、何か良い方法があるかな? 今来たばかりの君に聞くのは酷か」
シューネの顔がカッと笑顔になった。
「いえ、丁度良い情報を持ち合わせております。今より一週間と三日後にザ・イ・オサ新城にて雪乃フルエレの再選は確実とされておりますが、北部中部新同盟女王の投票が行われます。そこに潜り込めば難なく女王の顔が拝めましょう。そして私はリュフミュランの正式招待者です、若君と美柑さま御二人を会場に潜入する手引きを致しましょう」
「うむ、それは良いな有難い。お願いするよ、美柑も凄く喜ぶと思うよ!」
紅蓮は思わずガッツポーズをした。
「ハハッ、お役に立てて光栄に御座います」
「うん、じゃあマスク付けて!!」
「はい……」
シューネはマスクを装着し、再びお館様に戻った。
「リストレイン!!」
紅蓮の手から魔法の拘束輪がいくつも出て容赦無くシューネの身体をぐるぐる巻きにする。
「いで、いでで、いとお御座います若君っもそっとお優しく……」
「このくらい我慢なさい、すぐに楽になるから」
他人が聞けば激しく誤解されそうな事を言った。そしてそのままシューネは紅蓮の後ろをピョンピョンと飛び跳ねて付いて行った。
「それはそうと、瑠璃ィキャナリーは如何致したのでしょうか?」
「え? 来てるの??」
「はい、かなり前に……」
「知らないよ」
「はぁ……」
―大広間晩餐会会場、スナコとセレネが出て行った直後に戻る。
お館様が戦いながら出て行ったにも関わらず、七華メイドは素知らぬ顔で立ったままだ。
「はぁ出て行っちゃったわねえ、仕方が無いわ、私達は食事を再開しましょう」
雪布瑠は再び席に着いた。
「ええ、さっきの今のアレで食べちゃうの?」
「お嬢ちゃん方、このウーパールーパーマヨ美味しいですぞはよ食べなされ!」
「わぁ私ウーパー大好き!!」
ウーパーに釣られた猫呼クラウディアは笑顔で席に着き、バリバリと貪り食べ始めた。
「ちょっとちょっと猫呼、この庭師の猫弐矢さんは不審よ、気を許さないで!」
「もう大丈夫よ、お兄様の疑いは晴れたわ!」
「ふぉっふぉっ、何だか良く分からんがワシは何もせんぞお」
が、言った直後だった。再びパッと照明の魔法ランプが切れた。
「きゃあっまたなの!?」
「お兄様怖い」
タタタタターータタタタターテテッ
「ハーーーハッハッハッ……ハーーーハッハッハッ!!」
「このBGMと笑い声は??」
「勇者負けちゃった??」
「何じゃ何じゃ?」
「キャーーーッ!? あうっ」
「七華? どうしたの??」
パッ
再び照明が点灯した時、気絶した七華メイドは三毛猫仮面のマントに包まれて抱き抱えられていた。だらんとなった上半身から大きく開いた白い胸元が妖しく目を引く。
「七華ちゃん!? やっぱりお兄様何て事するの!?」
「猫呼見て、庭師さんは普通に食事してるわよ!?」
「ワシは此処におるぞぃ」
確かに雪が言う通り庭師猫弐矢はウーパーをかじっていた。
「ええっニャン・だってェーーー!?」
猫呼は目を剥いて両者を見比べた。




