紅蓮アルフォードVS貴城乃シューネ 下 舞台捌けの二人……
「ぐはっ」
紅蓮アルフォードの剣圧で飛ばされたお館様こと貴城乃シューネは思い切り床に尻もちを着いてしまう。
「キャーーッやれやれやってまえーーっ!」
「雪ちゃん急に下品になったニャ~」
等と言いつつも雪布瑠と猫呼は飛び上がって喜んだ。
「変じゃないですか? ププッピ温泉近郊で戦ったあの少年はセレネさんよりチョイ弱いくらいの奴です。普通に考えて貴城乃シューネくらい一瞬で倒せそうですが」
「……優しいなお前。確かにあたしと実力伯仲してたからな。もしかしたら身内、つまりアイツも東の地出身者で知り合いなんじゃないか?」
「あり得ますね。瑠璃ィキャナリーとか知らん内にうじゃうじゃ来てるんですね~」
「ヤバイな」
カキーーンと何度目かという鍔迫り合いが始まった。
「若君、私です! たかぎの……」
「皆まで言うな、とうに気付いている! でなければ一瞬で斬り捨てている所だっ!」
紅蓮は雪達に背中を向けた瞬間、小声の早口で貴城乃シューネに伝えた。
カキーン、カーーン、バシッ!
その間も激しく見せかけた剣劇が続いた。
「申し訳ありませぬ……」
「まったく……とにかく打ち合いを続けつつ、違う部屋に捌けよう!」
「ハハッ」
二人は剣を絡めつつ、わざとらしく横に駆け抜けてドアに近付こうとする。
「今二人で何か合図したぞ」
「よし、邪魔をしよう!」
その間も紅蓮とお館様はドアになだれ込もうとする。
「メイドさん避けて!」
「はい?」
ダーンっと半開きのドアを蹴破り、紅蓮に押されたお館様共々二人は部屋から出て行った。
「よし行くぞ!!」
「雪ちゃん達は危険だから来ないで!」
「エ~~自分達だけずるいわぁ」
「そうだそうだブーブー!」
「七華メイドが三毛猫仮面に狙われてる事をお忘れなく!」
「あ、そうね……庭師さんを監視しておくわ!」
雪が背負っていた魔銃をすちゃっと構えた。しかし庭師猫弐矢は何事も無い様に静かに夕食を愉しんでいる。
「よし、あそこの部屋になだれ込んで話そう!」
「はい、分かりました。くっこの男強い!! くはっ」
ダーーン!!
適当な部屋になだれ込んだ二人は剣を降ろした。
ばたばたばた……
しかしすぐにセレネとスナコちゃんも後を追って部屋に入り込む。
(うわ来たーーーーー!!)
(若っ!? 連中がっ)
「くっまだまだまだぁ!!」
「私も負けぬぞウワハハハハ!!」
二人は降ろしていた剣をすぐに構え直して剣劇を再開し、なんとか他の部屋に移ろうとする。
バーーーン!!
そして次の部屋に移動した。
「ふぅ、此処までくれば……」
ダダッ!!
「セレネさん此処ですよっ!!」
「よしっ!」
「ハッ!! また来やがった」
「仕方ない他の部屋に移ろう……くっやるな必殺風車大回転斬り!!」
等と言いつつ、このやり取りが十回ほど繰り返された……
「ハァハァ此処まで来れば……」
バーーン!!
「スナコちゃんここだっ!!!」
「おお、いたいた!!」
「もういい加減にしろっ! 付いて来るんじゃねーよゴラーーー!!!」
突然さわやかなクール顔の紅蓮がブチ切れ、セレネとスナコはポカーンとなった。
「わ、若君、イメージが……」
「ひ、酷い私達応援に来てるだけなのに」
「酷いよなスナコちゃん、なんでこんな仕打ち受けるんだよ……」
二人はわざとらしく涙ぐんだ。
「ハッ……いや、僕のウルトラ必殺技に巻き込まれてはいけない。最初の部屋に戻ってくれないかな?」
二人は顔を見合わせ頷いた。
「ハイ、勇者さまお気を付けて下さい!!」
「ああっ必ず勝って帰るさっ!」
紅蓮は爽やかな笑顔で手を振った。
バタン
ドアが閉じられると紅蓮とお館様はしばらく剣と剣をカチ合わせ音を響かせていたが、二人の足音が遠ざかると両者剣を収めた。実際にセレネもスナコも聞き耳を立てず雪が心配なので広間に戻っていた。
「何のつもりなんだ君にこんな一面があったなんて意外過ぎる……無口で真面目で仕事一辺倒の朴念仁で姉上からの信望も厚い君が、まさか女の子の服を破いて笑ってるなんて驚愕の事実を知ったら、姉上はじんましんが出来て卒倒し宮殿の女性職員中の噂となって白い目で見られるぞ……」
貴城乃シューネの仮面の下の顔に滝の様な冷や汗が流れ、改めて彼は慌てて仮面を外して跪いた。
「こ、これには深い訳が……」
貴城乃シューネは、自分にそっくりな少年が姫乃ソラーレを連れ出した事、そして聖都に謎の銀色の魔ローダーが侵入した事、セブンリーファ島の潜入調査を聖帝から命じられている事を伝えた。
「父は、聖帝陛下と姉上はご無事なのか? それに聖都の民は??」
「ははっ直ぐに私と夜叛モズが撃退し聖都も聖帝陛下も姫乃殿下もご無事に御座います」
「それは良かった……僕がぐだぐだしている内にそんな事が……」
シューネは聖帝によるセブンリーフ侵攻計画の話題は巧みに隠して伝えた。
「ハハッ自分にそっくりな少年、砂緒がこのタカラ山新城に縁が深いと聞き、正体を隠し此処で網を張っておりました」
しかし紅蓮はシューネの顔をギロッと見た。
「……でもその話と女の子の服を破いて笑ってたのと関連は?」
「うっ」
「……この事は父上に報告しなくちゃいけないだろうね。これは聖都の各女性団体が黙っちゃいないね。デモが起こるかも!?」
「それは……」
マスクを外したシューネの顔から本気の滝汗が流れた。全てのキャリアを失う恐怖が彼の背中を襲う。
「な~~んてね、嘘ゝ誰にも言わないよ、安心しなよ!」
「へ?」
紅蓮は恐ろしい顔から一転してニタッと笑顔になった。




