困った時の決闘頼み! の巻 下 スナコちゃん決闘す
「本当にその三毛猫仮面とやらの正体は庭師殿では無いのだな?」
「へ、へいそんな人間本当に知りませんのじゃ!」
予告状カードをしげしげ眺めながら聞いたお館様に庭師猫弐矢は必死に弁解した。
「ふむ……この晩餐会の主役は高貴なるこの私ぞ? 何故そんな三毛猫仮面なる良く分からない者に話題を独占されねばならんのか。風撃!」
パシッ!
お館様は弱い魔法でカードを割って捨てた。スナコはお館様、貴城乃シューネの仮面越しに感じる不満の表情を見て、彼が三毛猫仮面を仕掛けた者とは思えなかった。
『でも七華メイドの身が心配よ』
スナコは壁際に立つ七華を見た。
「わたくしは大丈夫で御座いますわ」
「ふむ、七華メイドは安全の為に私の部屋で寝れば良いぞワハハハ」
「おお、それが良いのぉ、お館様と一緒に寝れば安心じゃて、ふぉっふぉっふぉっ」
「え? お兄様……??」
女性に優し過ぎる性格の猫弐矢がお館様の下品な物言いに同調して猫呼は一瞬違和感を感じたのだった。
『そんな七華それで良いの?』
(あれ、私なんで七華に拘るのかしら??)
「お館様のお申し付けであれば、誠心誠意お勤めさせて頂きますの……」
「そんな」
スナコちゃんは自分で言っていて良く分からなくなって来た。
「もう良いだろう、今晩は戸締りを厳重にして三毛猫仮面とやらの話題は一旦横に置こうではないかっ」
「お前と話す事なんて別にねーな、なあスナコちゃん」
『そうね、もうそろそろ本来の目的を……あれ本来の目的って何だっけ?』
「貴方達はおきゃんな街娘の旅グループで一夜の宿を借りに来たのですわ」
七華が助け舟を出してくれてスナコは一瞬戸惑った。
『そ、そうだったかしら?』
「そんな事よりも、セレネくんのぼっち問題の方が重要だよ? 確か君の通うユティトレッド魔導学園は北部列国の名家から学生が通う名門校らしいが……どうやら君は王女という事を鼻に掛けていると大変評判が悪いらしいね?」
「ち、違う……」
「もはや学生レベルに止まらず親御さんたちの間にまで君の傲慢でお高く留まっているという悪評が広がっていて、皆から大層嫌われてしまっているそうな……今はおじい様の王が健在だから良いが、もしおじい様が居なくなればどうなるだろうか? 数多く居る親族間で王位争いが起こり、人間関係が上手く築けない君は人心を掌握する事が出来ずに、王位を継ぐ事が出来なくなるかも知れないね? 喧嘩が強いだけではどうにもならない事があるのだよ、フハハハハハハ」
「お、おじい様が居なくなるとか止めろ! うわーーー」
突然セレネは頭を抱えて床にうずくまった。彼女が普段決して言わないが常に抱えている不安を指摘されて言い返す事が出来なかった。
「酷いわこの男……許せない」
「本当よ、今すぐ裏ギルド員を派遣して、やっちゃってしまいたいわっ!」
スナコは雪布瑠と猫呼の会話を聞いてスッと立ち上がるとセレネの下に歩いた。
『ほら、立って下さいセレネ。貴方は私が絶対に守りますよ。王位争いだかなんだか知りませんが、セレネの敵は全て私が倒しますから』
「砂……コちゃん」
(砂緒、セレネの事本当に大事なのね……)
律儀にホワイトボードに書いてはいるが、口調は完全に砂緒の言葉だった。セレネはゆっくりと手を取って席に着いた。雪は複雑な心境で二人の様子を眺めた。
「嬉しい、でも……あいつは今あたしが倒してやるよ」
『待って私が先に行くわ! もし負けそうになったら助けてよね!』
「おいおい」
スナコはすたすたと、どかっと座るお館様の前に立った。
『お館様っ! 貴方に決闘を申し込むわ、セレネに言った数々の侮辱を取り消しなさい!!』
スナコちゃんはビシッと指を指して決闘を申し込んだ。
「ククク、侮辱って事実じゃないのかね?」
『なんですって!?』
(うっ言い返せない……砂緒スマヌ)
セレネは再び陰鬱になった。心に嘘が付けない人間だった。
「しかし良いだろう、本来砂緒という少年の来訪を待っていたのだが、どうやら怖気付いて今日は来てくれなかった物だからね、丁度暇してた所だワハハ」
『な、何ですって!?』
「おい落ち着けよ、これも半分正しいだろ……お前が怒り出したら変だろが」
今度はセレネがスナコの腕を持って落ち着かせた。
「君は魔法は使えるのかね? 剣で戦った事は??」
立ち上がったお館様は言いながら壁に立て掛けてあった細身の長剣をスナコに投げ渡した。
『魔法は使えません! 剣で戦った事は二、三度! いや三、四回? いや五、六回だったっけ?』
「細かい事は良い、剣で戦った事はあるが、魔法は使えないのだね? 良いだろう魔法は使わずに戦ってやろう!」
『いくわよっ!!』
食事中の広い部屋でいきなり剣での戦いが始まった。
「スナコちゃん頑張るにゃーー!! そんな奴ぶちのめすのよっ!!」
「スナコちゃん、えぐる様に斬るの! わかった??」
「お、お前ら……」
カキンカキン!!
キーン!
お館様は片手で余裕で剣を振るい、スナコも必死に応戦するが実力差は歴然としている様に見えた。
「ハハハハハ、戦う女の子は美しいな」
『駄目だわっこれじゃ戦い辛い……そうだわっ!』
ビリビリビリ!!
ババッと後ろに下がったスナコは自ら長めの黒いスカートを切り裂いた。直後に肌の表面だけ硬化して乳白色の透き通る様な白肌の大胆の付け根とニーソに包まれた細い脚が露わになった。
「ヒュ~~~大胆だね」
お館様はまだまだ本気で女の子だと思い込んでいた。
「オエーーーーーー!!」
「お、おえ~~~~~」
「助けてもらってて悪いけど、オエーーーー!!!」
三人同時に吐き気を催すのだった……




