かぁっ赤面……初キス、立場逆転!?b
「ああ、そうですわ。雪乃フルエレ、今城内は大変な騒ぎの様ですね、またもやお礼をじっくり申し上げたいのですが、服の損傷もあり早く戻りたいと思うのです。しかし今はこれを貴方にお預けします」
破れた胸元を強く押さえながら、片手で頭に装着している大きな宝石が嵌め込まれた、美しいヘッドチェーンをフルエレに渡す七華。
七華にとってはフルエレが真っ先に助けに行こうとした事など当然知らないので、あっさりとした態度であった。
「え、え、駄目ですいけません。とても大事な物なのでは……」
「三毛猫なる怪盗が狙っていた物です。私などより貴方達二人が持っていた方が余程安心出来るという物でしょう。無くさぬ様お願い致しますわ」
体の良い厄介払いであった。幾つもの宝飾品を持つ七華は、代々伝えられた物だとは知っていたが、命やそれ以上の価値を感じてはいなかった。
「え、あ、はい」
先程までの感動の対面と違い、事務的過ぎる冷静な態度に戸惑うフルエレ。なんだか一人で盛り上がっていた事が恥ずかしくなるくらいだ。
「砂緒さま、何か混乱している様です。お気遣いして差し上げて」
そう囁く様に言うと、混乱する区画を避ける様に指示を受けて、そそくさとスピナら護衛騎士に囲まれ安全な場所に避難していく七華王女。
「砂緒、大丈夫だったの? テロリストがあちこちに魔法瓶を設置してて爆発が起きて、その混乱に乗じて捕虜が沢山逃げ出して、城内は大混乱みたい。早く衣図さん達の所に向かいましょう」
見ると確かに広場にも数人の死体が転がっている。
「……はい。ですね」
服が血で汚れ、うわの空過ぎる砂緒。何があったのだと気になり過ぎるフルエレだった。
「だい……丈夫?」
衣図らと合流し、混乱する城を放置して村に帰還した砂緒とフルエレ。
衣図らはテロがニナルティナ軍と連動した物である可能性を考慮して、すぐに兵達を集めて国境の警備に当たる為に出動してしまった。
「帰ろっか」
「そうですね、そうしましょう」
砂緒は先程のぎこちなさから一転、今度は努めて冷静にしている様に見えた。でもそれが逆に、いつもの不可解発言の無い常識的行動や発言が、フルエレの不信感を増大させた。
「わあ、おかえりなさいませ! 砂緒さんフルエレさん!」
「戻ったかフルエレ、大丈夫だったか」
書類を持った猫呼クラウディアと女剣士イェラが冒険者ギルドに入った二人を見て駆け寄る。二人は共に同じメイド服を着ている。イェラの物は既に新調されていた。
「ただいま! ここを守っていてくれたのね、本当に有難う」
「今戻りました」
「どうした元気が無いぞ砂緒、生気を吸い取られた様だな!」
びくっとする砂緒。明らかにおかしな態度に三人は驚いた。