タカラ山新城に向かえ 中 謎の美少女スナコちゃん再降臨……②
「おおっメランようやく来てくれましたかっ? ボンレスハムをかじりながらパンを食べるというワイルディーな食事中に済まぬでござるよ」
「はいはい、メイク道具と衣装一式持って来ましたよ……」
「……もしかしてメランさんが洗濯してるのか?」
「聞かないで下さい」
メランは一瞬死んだ様な目になった。
「砂緒早くやろーーっ!!」
「あいあい失敬!!」
等と言いつつ、手刀を切った砂緒を先頭に兎幸とメランは一列になって大部屋から捌けて行った。
「……もしかしてあたしゃらこのまま死んだ目で一時間近く待つのか?」
既に頬杖を着いたセレネが呆れて言った。
「いいじゃない、大親友で仲良し同士の私とセレネで女子会トークでもしておきましょうよ」
「なんかフルエレさんトゲがあるな?」
「不純異性交遊罪に嫉妬してるのにゃ~~」
「違うっ」
一方昨晩、砂緒と衣図ライグ達がジークフリードの襲撃と戦っていた頃の時間に戻る。
「まさか今晩も野宿じゃ許さないですわよ! わたくし高級ホテルか城でしか生きられない生命体ですの」
オープン魔ーの助手席で顔をプリプリさせた七華が、運転する貴城乃シューネを問い詰めた。
「ハハハハハ、そんな美しい顔で怒られても全く迫力が無いね。むしろもっと怒って欲しいくらいさ」
しかし貴城乃は全く意に介さない様子だった。
「変態ですわね。ノレンに腕押しですわ」
この異世界にも暖簾は存在する様だ。
「でも僕はキャンプみたいで楽しかったな……し、七華くんは楽しくなかったかい?」
「まあ確かに猫弐矢が即席の弓矢で野獣を仕留めてくれて、焼いたのは美味しかったですわ」
「そ、そそうかな。楽しかったかい? 伽耶ちゃんと良く……いや」
伽耶とは良く仲間達と一緒に健全なキャンプファイヤーを囲んだりしているが、今は首を振って忘れた。
「何でも良いですわ、もし今夜も野宿と言うならシューネの首を締めますわ」
「シューネの首を締めるのは良いけど、運転中は止めてくれないかな……」
「二人とも酷いな! ハハハ」
ピッピッピーー!!
しかし貴城乃が笑った直後に、通せんぼをする様に交通警備兵が現れ笛を鳴らして呼び止められた。
「な、何ですの怖いですわ」
「これを狙っていたんだ!」
「シューネいい加減にしてくれよ」
猫弐矢がヤレヤレと顔に手を当てたが、魔銃を持った怖い顔の警備兵がドア前に張り付いた。
「はい止まれ、こんな夜更けにオープン魔ーとは良い御身分だな? ニナルティナの貴族か何かか? だが此処はもはやセブンリーファ後川タカラ山新城の管轄だぞ? お前らが大きな顔を……」
最初如何にも偉そうに問い詰めて来た交通警備兵だったが、魔法ランプを当ててシューネの顔を良く見た辺りから口籠って来た。
「……身分証の様な物をお持ちですか?」
「はい、これですわリュフミュランの通行証です」
「……リュフミュラン……でも当地では関係無いですね……あの貴方は」
警備兵は言いながらもソワソワし始めた。
「おやおや私のこの顔に見覚えがおありかな?」
「あのまさか……貴方は砂緒様のご関係者か何かで……?」
運悪く砂緒のタカラ山監視砦攻略の場に居合わせていた者だった。猫弐矢は頭を抱えたが、遂に止めようの無い第三者によって砂緒の名前が漏れ出てしまった。
「ふっ関係者も何も砂緒は我が可愛い十五歳の弟で、横の彼女はリュフミュランの王女殿下さ。今晩は砂緒に招待されてタカラ山監視砦に泊まるはずだよ!」
貴城乃シューネは出来る限り大威張りで答えた。
「その銀髪に三白眼やはり……い、いえ失礼しました。しかし今タカラ山は新城に改築されたばかり、安易に知らない方を……」
「知らない方だと!? 私こそ砂緒にあの白銀に輝く魔ローダーの操縦を伝授した者だ」
「おお、実は俺も蛇輪の飛行を見まして……あの蛇輪を……つまりセレネ様ともお知り合いで??」
どんどん要らない情報を芋づる式に教えてくれる警備兵だった。猫弐矢はさらに頭を抱えて振ったが、笑いの止まらないシューネだった。
(セレネ……セレネ……? そう言えば白銀の機体、いや蛇輪か? に何者かが飛び乗ってから急に動きが良くなった場面があったな? アレか?? じゃあ一瞬だが確かに見た髪の長い娘か??)
「ふふっセレネちゃんの事か……何を隠そう、砂緒と共に彼女に剣の手解きをしたのがかくいうこの私だっ」
「あ、あの厳しきセレネ様をセレネちゃん等と……しかしお話の内容に矛盾は無いですな」
全て自分が教えた事なのに妙に納得する警備兵だった。しかしそれは兎も角、セレネが年相応の少女らしい態度を取るのは砂緒やフルエレ一味の前だけであり、普段の彼女はピリピリして周囲から非情に気難しい人間と恐れられていた。
「よしではまずはタカラ山新城か、の責任者の前に連れて行きなさい、さすれば全て解決するだろう」
「ははっ」
雰囲気に飲み込まれ易い警備兵は貴城乃の迫力に押され新城まで案内してしまった。
「何ゝ? 砂緒さんの兄だと?? 聞いた事も無いが……」
遂に新城の麓の検問所に通された貴城乃一行の前に、警備兵よりもさらに砂緒の顔を間近でしっかりと見た事があるタカラ指令が直々に降りて来た。
「おお、貴方が砂緒から聞いた指令ですかな?」
「お……本当だ……兄弟というよりも双子に近いくらいに似てらっしゃいますな。お歳の違いこそあれ……」
「ふふよく言われます。仲が良い兄弟なんですよ」
「良く言うよ」
「隠していたね?」
「……」
猫弐矢は黙り込んだ。
「指令殿、それに警備兵の隊長さんも、この手を見てくれないかな?」
「は?」
と怪訝な顔をした直後、カッッとシューネの手が一瞬光った様な気がしてタカラ指令と警備兵隊長は簡単に魅了を掛けられてシューネの支配下に入ってしまった。
「よしでは新城主の私を早速私の部屋に案内してくれるかな?」
「……はい城主さま、御足元がご不便ですがご容赦下さい」
「ふふ許そう、行くぞ七華姫、猫弐矢!」
「あらまっ何ですの貴方??」
「知らないよこんな事して」
そしてようやく新城に登った貴城乃シューネは城主の部屋に通され、ドカッと立派な椅子に腰掛けた。山を登り疲れ果てた七華と猫弐矢もそれぞれに当てがわれた立派な部屋に通されていた。
「ああっ指令くん、早速仕事だよ、砂緒に兄がタカラ山で待っていると伝えてくれないか?」
「はいかしこまりました……」
タカラ指令は虚ろな目をして頭を下げると部屋を出て行った。こうして貴城乃シューネは竹中半兵衛よろしくたった三人でタカラ山新城を乗っ取ったのだった。
「はははははははははは、どうだ砂緒とやらっ! 貴様がやった様にこの私も敵の中枢に単身で乗り込んでやったぞ! あの時の屈辱晴らしてやろう!! さあこの城に来い、貴様に一夜の宿を貸してやろう。が、そのまま貴様は永遠の眠りに就くのだ!! ぬははははははは」
その様子を七華はドアの隙間から覗いていた。
(ぬはははですって。乗っ取っておいて宿を貸してやろうとはなんと厚かましい男ですの? でも砂緒さま……お気を付けて!!)
七華の額に冷や汗が流れた。




