タカラ山新城に向かえ 上 貴城乃シューネの行方
ほわんほわんほわわ~~ん
―騒動が起きる少し前、オゴ砦前の道路。
「ザ・イ・オサを通り過ぎてこれから一体何処へ行きますの? まさか当てもなく放浪している訳じゃありませんわよね?」
頭にスカーフを巻き色の濃いサングラスを掛け、真っ赤な口紅を塗った胸元も露わな露出度の高いワンピース姿の七華が、派手なメタリックパープルのオープン魔ーの助手席から運転する貴城乃シューネに、スカーフからはみ出た髪をなびかせながら尋ねた。オープン魔ーとは魔法で動く魔車のオープンカー版であろう。
「ははは、仮にも私は正式な外交使節だよ。君の父上から通行証も貰ったからね。オゴ砦を通過してタカラ山新城に偵、いや観光に向かう」
「今思い切り偵察って言い掛けましたわ、やっぱり貴方危ない人ですわね。オゴ砦には衣図ライグという乱暴者が盤踞してますのよ。それにタカラ山新城は最近出来たばかりの同盟の山城、そんなの勝手に入り込める訳ありませんわよ」
七華が風で顔に掛かった髪を整えながら言った。
「ふふふ、そのオゴ砦を通過する為に君が一緒に居るのさ! それに私の考えが正しければタカラ山新城も難なく入城出来るハズだよ。それは七華姫も実は何となく分かっている事だろう? なあ猫弐矢君もそう思うだろう」
「……」
(もしかして砂緒くんと顔が同じな事がバレている??)
いきなり振られた後部座席の猫弐矢は無言のまま無視をした。
(もしかして砂緒さまと顔が同じ事がバレていますの??)
「楽天家なのですわね、そう上手く行くかしら。後ろのネコミミの人、貴方何も言わずにわたくしばかりじろじろ見て一体なんですの? 貴方猫の子さん猫呼ちゃんの関係者か何かなの? まさか兄妹とか??」
七華がスカーフを巻く為に、纏めた髪のうなじを後ろからじろじろ見ていた猫弐矢はドキッとした。もちろん七華は後ろに目が付いている訳では無いので、適当に言った事だったが図星だった。
「な、なな何を言うんだ。べべ別にじろじろ見てなどいない!」
「まあ、可愛いですわね!」
しかしバックミラーから見る猫弐矢の顔は明らかに動揺していた。
「やはり事前に聞いていたがこの地に猫呼が居るのだね。そうだよ、猫呼は僕の可愛い妹さ。ずっと心配してるんだ……」
どぎまぎした顔から今度は妹を想う兄の顔に戻った。
「猫の子さんは心配する必要無いくらいに元気一杯ですわよ」
(……という事は首都を襲撃して来たスピネルともやっぱり兄弟ですの? 複雑ですわぁ)
七華は再びバックミラー越しにスピナそっくりの猫弐矢の顔を見つめ、目が合った猫弐矢はウッとなって視線を逸らした。
「お二人さん、そうこうしている内にオゴ砦に着いたよ、七華姫頼みますよ」
「まあ丸投げ!? いい加減ですわねえ」
等と言いながらもずっと再び城を出たいと考えていた七華は、認めたくないが軽い冒険に少しわくわくしていた。
―オゴ砦。ここでは、衣図ライグ達が魔戦車を並べトリッシュショッピングモールに武力で金銭要求に向かう準備をしていた。
「おい! 西リュフミュラン(レナード市)からの最後の魔戦車はまだか!?」
衣図ライグが足りない魔戦車に苛立ってラフに大声を上げた。
「へい、修理を終えたウェドさんが自ら持って来てくれるはずですが、ぬかるみにハマったり色々あって遅れてるそうですぜ~」
「急がせろ! 襲撃されるぞ……」
慌ただしく走り回る部下達を見ながら衣図ライグは言った。
「あ、あの~大将、派手なオープン魔ーがいたんで検問してやったら七華が乗ってやがって……どういたしやしょう?」
機嫌が悪そうな大将にガラの悪そうな部下が恐る恐る聞いた。
「七華ってあの七華か……面白れえ見に行くわっ! リズを近付けんなよ」
確かにド派手なオープン魔ーがガラの悪い男達に囲まれていた。
「大将~~こいつらでヤス! 怪しい男とエロ姫、いや七華がっ!」
「本人の前でエロ姫言うな」
衣図ライグは遂に七華と再会した。
「あら、衣図ライグさん相変わらずガラが悪いですのねえ。早く西リュフミュランをお返しなさい」
座ったまま七華がサングラスを外しつつ語り掛けた。
「おや今日は、す……いや七華姫お若い男二人とお出掛けかい? 今晩は三人でエロい事でもするんじゃねえのかいへへへ」
衣図ライグは砂緒と言い掛けて、運転席にその砂緒そっくりな顔の青年が座っている事に気付き、さらに普段敵対している七華が目配せをしたので、慌てて見た目に合いそうな下品な話題を言って誤魔化した。
「まあっ殿方はすぐにそんなエロい事ばかり言って、本当に軽蔑しますわっ! 私達これでも正式な外交使節ですのよ」
「そうなんだ。私は東の海を越えた神聖連邦帝国の外交使節の貴城乃シューネで、後ろは部下の猫弐矢。噂の猫呼ちゃんの兄上さ」
「ども、妹がお世話になってます」
猫弐矢がペコリと頭を下げた。
「……神聖連邦帝国?? なんだそりゃ聞いた事ねえな。まあ正式な外交使節ならいきなり切った張ったする訳にも行かねーな」
「それとこれは正式なリュフミュラン王の通行証さ。私達はタカラ山新城まで行くつもりだ」
衣図ライグは通行証を見た。
「ふむ本物ぽいな。てか七華が乗ってるしな、通さねえ訳にも行かんな。行きやがれ」
「ありがとうセニョール! アハハハハハハ」
「ども」
貴城乃シューネは大袈裟に手を振り、猫弐矢は小さく会釈した。
「じゃ、早く土地をお返しなさい」
「しつけえなお前」
そのまま衣図ライグの前からオープン魔ーは走り去って行った……
ほわんほわんほわわ~~ん
「て、感じの事があったんだぜ!!」




