かぁっ赤面……初キス、立場逆転!?
二人共無言なまま砂緒が七華リュフミュラン王女を抱えながら出口まで歩いて行く。次の角を曲がるともうすぐ出口が近い為か、少し明るい光が差し込んで来た。
ここら辺りで七華が生来の気の強さが戻って来て、これまで馬鹿にしてきた相手に主導権を握られたまま外に出て、お姫様抱っこの状態で衆目に晒される事に嫌悪感が湧いてきた。
なんとか主導権を取り戻さなければならなかった。
「ここら辺りで結構ですわ、さあ降ろしなさい。自分で歩きまわ」
全く無視してズンズン進む砂緒。このままこの状態で衆人環視の下に晒されるのは嫌だと、生きエビの様にビチビチ体を動かす。
このまま外に晒してやろうと計画していた砂緒はあえなく彼女を放流した。
「ではここで黙って目を閉じなさい。助けて下さったお礼をしたいと思いますわ」
「?」
砂緒は完全に、彼女が全身に数多く装着した宝飾品の一つを貰える物だと思い、貰える物は貰おうと言われるまま目を閉じ、恥も外聞も無くいつぞやの様に掌をすっと差し出した。
「びっくりしてはだめですわよ」
かすかに囁く様な小さな声。
「?」
差し出した手には確かにすぐに七華の柔らかい手が添えられたが、その中に宝飾品は無かった。
直後、目を閉じた向こうからふわりと空気の層が移動してくる気配と甘い香りがして、その直後に自らの唇に触れる手などよりもさらに柔らかな感触があった。
(……うん!? 何ですかこれ……んんん!??)
しばらくしてゆっくりと目を開けると、妖しく微笑を浮かべる七華王女の顔があった。
「フルエレには内緒ですわよ」
耳元で囁かれ、なにかしらの攻撃を受けたのか、何が起こったのか分からず混乱して機能停止した砂緒。
先頭を切り、堂々と表に出る七華王女。
その後ろには普段よりさらには無表情化し、左右の地面を一定時間ごとに交互に見ながら、自分の唇に指を当て考え事でもするかのように黙り込んで歩く砂緒の姿があった。
襲われた姫を颯爽と救い出した騎士、という構図は完全に消えていた。
「んーーー~~~??」
砂緒のあまりの様子のおかしさに、やっと七華が戻って来たとか、テロ事件がどうだとかが一切吹き飛ぶ雪乃フルエレ。
「王女! ご無事でございましたか? お怪我はありませんか!?」
突如王女のお付きの美形剣士スピナが大声を出しながら歩み寄り、跪いた。
「馬鹿者! 地下牢に三毛猫仮面なる不審者が出没し、捕虜を一人殺して行きました。貴方は何をしていたんですか? この役立たず」
ばしばしと頭を3回程叩く。当然痛くも痒くも無いだろうが、公衆の面前で大きな侮辱ではある。
「返す言葉も御座いません。この失態、どの様な罰も受けましょう」
相変わらず心がこもっていない言葉。
「牢屋の扉の出っ張りで服が破れました。新しい物に着替えます。早くなさい」
「ははっ」
胸に手を当て跪いた。