退去勧告、しんどい夕食会 下 リズの変貌
結局そのまま砂緒と雪乃フルエレ、セレネ達は衣図ライグに連れられオゴ砦に向かった。
―オゴ砦。
「砂緒、フルエレ嬢ちゃんちょっと待っててくれよ。今リズを呼んでくるからよお」
「あからさまに事前調整だな。少しでも待たされる様なら引き返して、ザ・イ・オサ新城から軍隊を引き連れて来るぞ。いや最初からそうしてれば良かった……」
「お願い此処でギスギスしないで!」
「ああ、せいぜい急いで呼んで来るよ」
しかし衣図ライグは三十分近く経っても戻って来なかった。
「遅い! さして大きく無い砦で遅過ぎる。もしや魔戦車を繰り出して来るのかもしれませんよ」
「せっかちですなあ、たかだか三十分ではないですか」
「私お腹空いた~~~」
「猫呼って部下が居なくなると幼児化するのねえ。何だか可愛いわあ」
「うるさいわよっ幼児って歳じゃないし」
等と言っている間にようやく衣図ライグとリズがやって来た。
「まあっ本当にフルエレちゃんなの!? お久しぶりねっ!!」
「え?」
フルエレが戸惑う中、やって来た女性はフルエレに親し気に抱き着いた。
「あ、あの??」
「分からないの? リズよ、でも今はエリザベスって呼んで欲しいの」
「え、ええ!? リズさん??」
フルエレが驚くのも仕方無かった。スリムな体形こそ変わり無かったが、さっぱりして清潔感のあったショートヘアはかなり長くなり派手なウェーブがかかり染められ、質素だった服装はド派手に、そして首や腕や指には煌めく宝飾品がジャラジャラと装着されていた。さらにほぼ化粧っ気の無かった顔にはド派手なケバケバしいメイクが施されていた。
「あら、変わったかしら!? 生活水準に見合うスタイルをしなくっちゃって苦労してて……」
「い、いいえ全然変わってません!」
フルエレは冷や汗を流しながら引きつって笑った。
「う~む、頼れる優しいお姉さんって感じだったのですが、少し目を離した隙にえらくケバくなった様ですな」
「そうなのかよ?」
興味の無いセレネは目を細めて見た。
「あら砂緒くんもお久しぶりね。で、その横に居るのがセレネさん? へーあ、確か喫茶猫呼の周りをウロチョロしてた?? 貴方がフルエレちゃんや砂緒くんをそそのかしてる女狐ね?」
「はあ?」
ピシッと空気が張り詰め、セレネがリズを睨み付ける。
「コラッいやあ何でもねえ! さっ早く晩餐会と行こうぜ!」
「こんなの嫌~~ッお腹空いてるけど、しょっぱなから暗雲が……」
猫呼は後ろを向いて涙を流した。
―そして夕食会。
「急遽シェフ達に腕によりをかけさせて作らせた豪華料理の数々よっ! 沢山食べてね」
「ほほう、これは美味しそうですなあ」
「そうだろう、砂緒もフルエレ嬢ちゃんも沢山食べてくれよ!」
「わーー凄い美味しそうねっ!」
「そうねえ、どれから食べようかしらっ」
砂緒もフルエレも猫呼も沢山並んだ料理を見て笑顔になったがセレネのみ渋い顔をしていた。
「おやセレネは食べないつもりですか?」
「毒なんか入っちゃいねえぜっ! 俺が先に食べようじゃねえか」
「……フルエレさんが心配です」
「セレネさんや、衣図ライグがフルエレを暗殺する理由が特に見つかりません、一緒に食べましょう」
「………………」
しかし結局セレネは最後まで口を付けなかった。
「それで、いつお二人はご結婚されたんですかっ!」
「ええっ衣図がメド国戦に参戦する直前にどうしてもって」
「まあーー全然知らなかったわ! 凄いロマンチックね!」
フルエレは手を合わせ目を輝かせた。しかし内心アルベルトと自分がそう成りたいと思っていた気持ちを思い出し少し寂しい思いもあった。
「照れるぜ!」
「見て見て! これが結婚指輪よっ」
言いながらリズはひと際大きな宝石の付いた指輪を見せびらかした。
「うわ~~凄い……いいなあ……」
その瞬間、横に座る猫呼はフルエレの笑顔が徐々に曇り始めるのを感じた。
(結婚指輪……ダメよその話題は)
「わーーこのウーパールーパーの素揚げ美味しいわあ! 所々レアっぽい美味しい部分があって、私もう五匹も食べちゃった!!」
「レアってダメでしょ普通……」
「まあ猫呼ちゃんも変わらないわねえ、うふふ。でも気を付けてね生の所に卵があって体内で孵化しちゃうかもしれないからっアハハッ」
「うゲロー」
猫呼は咀嚼中だったウーパーの素揚げをダボダボと吐き出した。
「リズさん、猫呼先輩はこう見えても新ニナルティナで暗黒街の顔役になっててヤバイ部下百人が居ますけど、そんな事言って大丈夫ですか?」
「ヒッ!? そ、それは本当でしょうか!? 失礼の段、平に平にご容赦を……土下座、土下座で許して下さいますでしょうかっ!?」
リズが土下座をしようとするので猫呼とフルエレが慌てて必死に止めた。
「あんなのセレネの作り話よ、止めて! リズさん何だか変だよお」
猫呼は冷や汗を流して笑顔で手を振り、セレネの話を打ち消した。
「爽やかなお姉さんだったのが、まさに権力欲と保身の塊になってて怖いですな。変貌し過ぎです」
一人黙々と料理を味わっている砂緒が他人事の様に言った。
「ねえフルエレちゃん、貴方に上げた魔法の盾の腕輪、当時の生活水準だととてもお高い品だったのよねえ……」
「あ、はい……あの時は有難う御座いましたエヘヘ」
自分に矛先が向いたと思いフルエレは緊張した。
「あれから色々あって、衣図と二人で頑張ってようやくレナード市からオゴ砦に跨る広大な領土を有する領主になったの……それがザ・イ・オサ新城が出来てぶち切られ、その上オゴ砦を追い出されるなんて、私達が何かした!? そんなに悪い事をしたの!? ううううう」
リズはハンカチで涙を拭った。
「あう、エリザベスさん!? 泣かないで下さい」
「分かり易過ぎる泣き落としですな」
「村々を襲ってるんだろうがっ!」
猫呼は涙を流し後ろを向いた。
「こんなギスギスしたお夕食会嫌ーーっ! 早くお家に帰りたい!!」




