退去勧告、しんどい夕食会 上
「おお、衣図ライグ本人ではないですか」
「大将!!」
砂緒の乗っかる魔戦車は動きを停止した。
「戦闘停止だ! 砂緒、フルエレ嬢ちゃん俺達味方同士だろ!? 皆も撃つな!」
衣図ライグのその声を聞き、砂緒の乗っかる魔戦車の乗組員達が一斉に我先にと各ハッチから飛び出して行く。
「砂緒さん、じゃ俺もここら辺でドロンするわ!」
おれおれ詐欺の男も飛び出して行った。
「おやおや」
「あ、こらっ待て! 出るんじゃねえ!!」
衣図ライグは慌てて飛び出た連中を止めようとするが既に遅かった。
「じゃあ乗員も脱出した事ですし、思う存分この魔戦車は潰しときましょうか!」
等と言いつつ砂緒は再び硬化して重くなり、肌がシュワシュワとソーダ水の様な音を立てて乳白色の色に変わって行く。
「わ、馬鹿か? 戦闘は終わったんだよ何で潰しに掛かるんだ止めてくれよ!」
クシャッ!
衣図ライグの叫びと同時に最後の魔戦車は修理不能なくらいに潰れてしまった。
「てめー、俺が目の前で笑顔で戦闘は終わったって言ったのが分からなかったか?」
それまで必死に笑顔を保っていた衣図ライグが途端に恐ろしい形相になった。
「ハァ? 私はフルエレとセレネに魔戦車を潰すと言って来たのです。そんなの知りませんよ」
「何だと、やるって言うのかコラ?」
「あ?」
衣図ライグは巨馬に跨ったまま巨大な剣を抜こうとする。それを見て砂緒は硬化を解かずにギョロッと衣図ライグを睨んだ。
「ちょっと何やってるの!? 砂緒も衣図さんも喧嘩は止めて!」
「フルエレさん、ほっときゃ良いじゃないですか! どうせ砂緒が勝つのですから」
衣図ライグも当然砂緒には魔法も剣も何も通じず、さらに恐ろしい雷攻撃を持っている事も心得ている。彼は思わず剣を抜きかけたが、このままでは死ぬ事となりフルエレの助け舟で命拾いした。
「へ、へへ、フルエレ嬢ちゃんが言うなら仕方がねえ。ここは矛を収めてやるよ」
「ほほう? 私も実は友達の衣図ライグを殺したくは無いのです」
「だろーー? なあ俺達友達だからなあ!!」
衣図ライグは巨馬から飛び降りると、途端に馴れ馴れしく砂緒の肩に太い腕を回した。
「何だ調子の良い男だな」
衣図と馬が合わないセレネが嫌悪感を露わにして彼を見た。
「おお総司令官殿の姉ちゃんじゃねえか? その後愛人の砂緒さんとは関係が進展したかな?」
セレネは冷たい目でキッと睨み返した。
「そんな事はどうでも良い。今日はオゴ砦退去の勧告をしに来た。今すぐ退去してもらいたい!」
セレネは用件をストレートに言い放った。
「おいおい総司令官姉ちゃん、今はもう夜だぜ。しかもお前さん達が魔戦車を潰しちまってえらい騒ぎだ。もう少し落ち着いて話そうぜ」
「はあ? 何を言っている。トリッシュショッピングモールを襲撃に行こうとした方が悪いのだろうが」
「襲撃? 違う違うそれは間違いだ。俺達は平和裏に地代を取りに行こうとしてただけだぜ」
「何でお前に地代を取り立てる権利がある? 話にならんわ」
「ムカツク女だな」
直ぐにまた衣図ライグとセレネは険悪な状態になった。
「ちょっと待ってよ二人共喧嘩しないで」
「フルエレさんそればっかですね」
「おおおーい! 大将!!」
そこに最初に魔戦車を潰されたラフが走って来た。
「おおっラフ生きてたか! 丁度良かったぜ!」
「へへい?」
すぐに衣図は巨大な身体でひょろひょろのラフを抱え込み、砂緒達に聞かれない様に小声で話した。
「いいか、北で無限軌道潰されたウェドの魔戦車の修理を急がせろ。それで此処まで来て壊れてる魔戦車を何とか本拠のレナード市まで牽引すんだ。あと自力で動かせる物もレナード市に行け、決してオゴ砦に戻るな」
「何ででやす?」
「没収されるか潰される。分かったか?」
「へいへい」
「今すぐ行け!」
衣図はラフの背中をバンと叩き、一Nメートル程飛んだ。
「じゃ砂緒さんフルエレちゃんあっしはここら辺で~~~」
「あ、ああ」
砂緒は訳も分からずラフに手を振った。
「ごちゃごちゃと。で、オゴ砦を退去するのか?」
「何だ姉ちゃんまだ居たのか?」
「いるわっ!」
セレネは長い髪を逆立てて怒った。
「もう夜だぜ。それもこれも当のオゴ砦に行ってじっくり話し合わないか? そうだフルエレ嬢ちゃんリズの奴が会いたがってるぜっ!!」
「まあっリズさん久しぶりだわっ」
フルエレが両手を合わせて喜んだ。
「ちょっとフルエレさん、何で敵の本拠地に行くのですか? 危険ですよ」
「危険ってつい最近までメド国戦で一緒に戦った衣図さんじゃない、何を言っているの?」
フルエレが信じられないという目でセレネを見た。
「セレネ、貴方の危惧も分かりますが、私とセレネが居れば大抵の敵は簡単にやっつける事が出来ます。衣図ライグは巨体で如何にも強そうに見えますが、実力的にはイェラ等と大差無い普通の人間です。それ程気にする事も無いでしょう」
「……おい。身も蓋も無いなお前」
「そうだな、見掛け倒しだしな」
「コラ」
「それにもう夜よ、今度こそ何処かに泊まらないといけないわよ」
フルエレがすっかり暗くなって来た周囲を見て言った。
「フルエレさん、まさかオゴ砦に泊まる気じゃないでしょうね!?」
「そのつもりよ?」
「おおそりゃいい。夕食奢るぜ」
「何で、もうっ!?」
セレネは警戒心ゼロのフルエレに苛立って地団太を踏んだ。
「毒が怖いならセレネは絶食すれば良いではないですか」
「そういう問題じゃない!」
タタタタタ……
遠くから可愛い足音が近づいて来た。
「殺す気かああああああ!! どりゃああああああ!!!」
ドギャッッ!!
走って来た猫呼は砂緒に両脚で、思い切り綺麗にドロップキックを決めた。
「あうっ!?」




