南に向かえ 中 ザ・イ・オサ会場視察 小再会
砂緒達はリュフミュラン、ライグ村南のフルエレと砂緒が出会った最初の森から直接細い山道を南西に抜け、ザ・イ・オサ新城に設営されつつある、北部中部新同盟女王選定会議場を視察する事にした。
「一旦平地に出てから少し北上する事になるぞ、そこがイ・オサ新城だ」
「へェー」
「めんどくさいですな。私と森で出会う前のフルエレ、良く一人でこの山を越えれましたな」
「ホント、運が良かったわ……」
等と言っている間にイ・オサ新城に到着した。
「ほほう、結構良き城ですな、城というか宮殿というか」
「まあ此処がいきなり戦場になる様な大ピンチは生きてる間に無いだろうし、そこそこの大きさの街も作る予定だ」
「お姫さまは言う事が違うわねえ」
「ねえ」
「フルエレさんも猫呼先輩もお姫さまでしょうがっ!」
「え、そうなんですか?」
「違うわ……」
暗い顔になってしまったフルエレの、出身地等の過去には無頓着な砂緒だった。
「?」
「ささっ選定会議場を見学するわよっ」
カーンカーーンカーン、コンコンコン……
慌ただしく動き回る職人達。
「おおっ早速良い投票所が出来上がりつつありますな。しかしテレパシーか何かで命令したのですか?」
「んな訳あるか。お前が知らない所で部下に命令してるんだよ……ちゃんと投票用紙から海と山と国のお后様も削除するし、それとあたしも候補者に入れるんだろ?? 着々と進んでるよ」
「ちゃんとスナコちゃんも入れて下さいよ」
「臨時お兄様、本気でやるつもりなの?」
「あたぼうよ」
「この際スナコちゃんが当選してくれないからしら……」
セレネが設営中の会場を砂緒達と視察していると、彼女の母国ユティトレッド魔導王国の責任者らしき者が駆け寄って来た。
「セレネ王女、この様な所までご足労光栄の至りで御座います」
「そんな言葉は要らん。しっかり設営してくれ、もう日にちが無いしな」
「はっはい!」
責任者はピシッと背筋を伸ばした。
「セレネさんそういうトコですよ、嘘でも良いから」
「皆さん疲れて無いですか? 頑張って下さいね」
砂緒の言葉を先取りする様にフルエレが笑顔で声を掛けた。
「ほらほら、流石フルエレです」
「……けっ」
セレネは横を向き渋い顔をした。
「あの、こちらのとてつも無く美しい御方は?」
「あーこの子は友人の、ゆー?」
「友人の雪布瑠です!」
フルエレはにこっと笑った。
「普通ネコミミの方が気にならない??」
「ゆき、ふる……」
ピシイィイッッ
その瞬間空気が張り詰めた。
(確実に雪乃フルエレ女王陛下じゃないか)
(美しいとは聞いていたが……)
(でも恐ろしい方なんでしょう、メド国を自ら滅ぼされたとか)
(ヤバい、手違いがあったら殺される……)
突然係員たちはギクシャクし始めた。
「ほらほら、セレネさんがプレッシャーを掛けるから」
砂緒は肩をすぼめ両手を広げた。
「確実に違うだろ!!」
等と言いつつも足早に投票会場を後にした。
「じゃ、早速南に出発すんぞ!」
セレネは魔輪に跨って振り返りつつ言った。
「ええっセレネさんや、今夜は新城で泊まらないんですか?」
「私もそう思ってた~~~」
「なんでだ、まだまだ日は明るい。少しでも早く問題を解決するぞ。イェラお姉さまでもそうするハズだ」
「ブーブー、フルエレも言ってよ」
「私はどちらでも……」
「あぁー私も今夜この新城でセレネさんと楽しく語らい夕食を愉しみ、そしてロマンチックな夜を過ごしたかったのですが……」
砂緒も片目を閉じてチラリとセレネを見た。
「もう騙されんぞ。利用するだけ利用して」
「まだ幼女に嫉妬してるんですか? 執念深いですね……」
「もう行きましょう砂緒、私も衣図さんが悪さしてないか気になるのよ」
「して無いでしょ、誤情報でしょう。でもまっフルエレがそう言うなら行きましょう」
「あぁ、臨時お兄様が昔の状態に戻ったわね。フルエレの命令は聞くのよね」
「ムッカァ!! 腹立つけどいいわ、じゃ行くぞっ」
「んじゃやっぱ居ましょうか」
「はよ行けいっ!!」
ドボッ
「あうっ」
セレネは砂緒の尻を軽く蹴った。
ヴィーーーン
内燃機関とは違う、電動車に近い独特の静かな駆動音を立てながら二台の魔輪は再び南に走り出した。そしてしばらくして砂緒の有料双眼鏡の能力が一つの影を捉えた。
「うーむフルエレ、魔戦車らしき物が一両見えますねえ」
「あらあ、セレネ魔戦車だって!」
「どういう状況だ砂緒、戦闘中か? 移動中か?」
セレネは魔輪に乗りながら身構えた。それに釣られ後ろの猫呼も不安げな顔になる。
「いえ、擱座してるのを数人で修理してるっぽいです。砲身はあさってな方向を向いています」
「自領内で何だが、警戒しつつ接近して見よう」
セレネの言葉通り四人は慎重に魔戦車に接近して行った。そして近付くにつれて魔戦車の上でひと際大きな男が必死に修理をしているのが見えて来た。
「ああっあの巨体はっ!!」
「あっこらフルエレさん、むやみに加速するなっ!」
セレネの言葉も聞かず一直線に魔戦車に走り出すフルエレのサイドカー。突然の魔輪の接近に魔戦車の連中も何事かとびっくりしている様子だった。
「植土さん?」
「……もしかしてフルエレちゃんかい?」
「まあすっごいお久しぶりですね! 何をされてるの??」
魔戦車の上の大男はのっそりと立ち上がると、笑顔で握手を求めた。
「やぁフルエレちゃん、おっと手が汚れてしまうね! 今無限軌道が外れ機関が故障した魔戦車を修理していました。激しく損傷しており約五百万Nゴールドの出費になりますが、もし業者に発注すればさらに多額の出費をする事になり余りお勧め出来ません。僕ならその分のお金を浮かせる事が出来るでしょう」
「え? う、うん変わってないですね!」
フルエレは笑顔で大男に握手を返した。




