七華の妹 下 王様からの苦情
―次の日。
砂緒達は返還された魔輪に乗り早速リュフミュラン城に登城した。リコシェ五華王女によって身分が確かな猫呼以外の三人はすぐに豪華な装飾が施された応接間に通された。玉座の間での謁見となると、同盟女王雪乃フルエレを見下ろす訳にもいかず、かと言って自らの玉座をフルエレに貸すのは屈辱である、という理由からだった。
「おお、これは良くぞおいで下さった雪乃フルエレ同盟女王陛下。いつぞや頭上に魔ローダーの突きを下さって以来ですかな?」
「さっそく言われてますよフルエレ! ちょっとした武勇伝ですなあ」
「そ、その節は……なんと申して良いか若気の至りにて」
正体を知るリュフミュラン王の前ではヴェール無しの素顔のフルエレが赤面して汗を拭いた。
「ハハハ、お気になさらず今では爽やかな思い出の一つです」
「いや絶対嘘だろ!」
「おお、これは総司令官としてメドース・リガリァを滅ぼしたばかりのユティトレッド王女殿下! ご機嫌麗しゅう御座いますな」
「ども」
セレネと王は同時に五ミリ程頭を下げた。
「して、今日は一体どの様な御用ですかな?」
「はい、貴方が新ニナルティナの危機を救って下さった事のお礼の感状と、心ばかりのお礼の品をお持ちしました」
「ほほう、あの王から家臣に渡す感状を、それは有難く受け取って置きましょうハハハ」
「い、いちいち引っ掛かるオヤジだな」
「セレネさん声が大きいです」
「それで、どんな物を頂けるのですかな? コレ、カーテンを開けなさい」
リュフミュラン王がパンパンと手を叩くと手動で部屋の壁に掛かっていたカーテンが開いた。
「お、おおこれは凄い!」
「眩しい!?」
カーテンの裏には目も眩む様な金銀財宝や装飾品がズラッと数多く飾られていた。素直な砂緒は何の躊躇も無くこの財宝は何かを聞いた。
「これは一体……?」
「おおこれは硬くなる化け、いや出奔された騎士殿か。我が娘も一体何が良いのやら」
「ご安心召されい! 七華姫は立派な大人の身体をした女性ですぞ」
「話がややこしくなるから余計な事を言うな!」
セレネに速攻で釘を刺された。
「ごほん、これらの数々の品はとある大国から頂いた宝物にて、記念に飾っております。して何を頂けるのでしょうかな?」
(ある大国って何処だ? 域外の帝国の事か?)
「はい、猫呼が捨てずに残っていたポーション三本と靴墨とハミガキです!」
セレネは頭を悩ませたが、フルエレは笑顔で言った。
「本気だったかフルエレさん」
「ほほう? これは我が国に同盟を離脱しろと??」
「王様、違いますぞ。それはフルエレギャグです。これを御覧下され。伝説の金のピィイヨコちゃんを模った伝統菓子に御座りまする」
砂緒は慌てるフルエレを他所に、ささっと長方形の箱を渡した。
「おおっと思いの外、重うござる故お気を付けを」
砂緒がわざとらしくピィイヨコちゃんのお菓子を横に揺らすと、整然と並んだ雛の下にキラリと光る金のつぶてがビッシリと敷き詰められていた。事前に旧ギルド館で砂緒が猫呼の魔法の財布から出してもらった黄金だった。
「ほほう騎士殿はそこそこ大人になられた様ですな。まあ同盟離脱など最初からする気は御座いませぬ」
「おおっ砂緒ナイスあくどい! 後で猫呼先輩にお礼だな」
金額としては大した物では無いが、誠意は伝わった様だった。
「では感状も品物も受け取ってもらえて、わだかまり無く新女王選定会議にご出席して頂けるのですね? 一週間と四日後、場所はザ・イ・オサ新城に決まりました」
「うむ……行く事はやぶさかでは無いが一つ難儀な事があって、それが解決せぬ事にはな」
王様はわざとらしくアゴを触り悩む顔をした。フルエレはまた一体何だろうと怪訝な顔をした。
「あの、何でしょうか?」
「それが、同盟が一方的に西リュフミュランの国主に任命した衣図ライグの奴めが、先のメド国戦時に占拠したオゴ砦をまだ手放さず、それ処か周辺の村々に難癖を付けて侵略を行っておるとか。しかもそれが我が国に苦情が寄せられて来ておる。それは西リュフミュランの事じゃ! と言っても理解してもらえん。そこで丁度良い、同盟女王と総司令官殿と衣図の友人の三人が揃ったのじゃ、サクッと解決してオゴ砦から連中を追い払って頂きたい」
王様の話を聞いて砂緒とフルエレは信じられないという想いになり、セレネは顔を真っ赤にしてぷくっと膨れた。
「お任せ下さい! 総司令官のあたしがすぐに解決致しましょう」
「是非そうして欲しい物ですなウハハハ」
セレネが率先して言うと、よそよそしい挨拶をして両者は別れた。
「もうっ砂緒ッ前に衣図ライグは信用出来ると言ったな! とんだ赤っ恥を掻いたぞ、どうしてくれる!?」
「まさか衣図さんが……本当かしら、誤情報じゃ」
「いえ、人間などどうにでも変わる物。目視で確認すれば事実が分かるでしょう」
等と険しい顔で会話しながら城の廊下を歩いていると、剣幕におどおどして話し掛けるタイミングが掴めないリコシェ五華王女が居た。
「おやっお姫様、どうしたのですか? 何か御用ですかな?」
砂緒は少し身を屈めると優しい笑顔で話し掛けたので、途端にリコシェは頬を赤らめて笑顔になった。
「あ、はい砂緒さまお待ちしておりました」
「お前の態度豹変が怖いわ。本気で狙って無いだろーな?」
「だから九歳相手に嫉妬は見苦しいですぞセレネさん」
「嫉妬じゃねーわっ」
「あ、あのご用件を申しても良いでしょうか」
「何なのかしら、言ってみて!」
埒が明かないのでフルエレが聞いた。
「はい……私一人でお城の中を探検するのが好きなのですが、以前スピナという者が使用していた部屋で大変な物を見つけてしまって……騎士様に見て頂けませんか?」
「騎士様って砂緒の事じゃ無いよな!?」
「ささっリコシェ姫の愛の騎士が行きますぞ」
「まあっ」
赤面するリコシェの手を引いて砂緒はズンズン進んだ。
「いいのかほっといて!」
「いいのよ」
フルエレは満面の笑顔になった。




