三毛猫、牢の中で初対決とお姫様抱っこb
そんな話は初耳だった。
「分かりました。なんでも時間がかかるのは嫌ですので、はいはい潰しておきましょう」
「ひっ何を言ってるんだ! お願いだ! 助けてくれ! やめろ、ぎゃあ」
砂緒は無造作に体重を増加させると、力を込めた拳で魔導士の心臓の辺りを殴った。その手は突き抜けて壁にまでひびが入った。だらんとなる魔導士の死体。
「い、いい気味よ」
「おっと何をしているんだね? 君が噂の化け物ですか」
後ろから声がして本能的に振り返って拳を振る砂緒。声の主、三毛猫仮面にはかすりもしない。
「その攻撃に当たりさえしなければいいのでしょう」
三毛猫仮面は一定の距離を保ちながら、軽やかな足運びで砂緒の間合いに入り込むと、シュッとレイピアで切り付ける。カキーンとあっさりと折れて飛んでいく刀身。
「おっと、やっぱり攻撃は受け付けない様です。先の戦闘では魔法も無効だったと聞きました」
その間も砂緒は意地になってパンチや蹴りを繰り返すが、全くかすりもしない。みつめる七華。
「まるで動きが素人じゃないですか。強いというのは硬さと重さだけなのですか」
「うるさいですね! 話し方が似ていて貴方、なんか鬱陶しい!」
砂緒が必死にパンチを繰り出すが、ひらりと三毛猫がかわすと背中をポンと押す。前にこけそうになる砂緒。
「ははは、もしかしたらお互い立派なエセ紳士なのかもしれませんね! 仲良く出来そうです。しかし私の攻撃が無効で、そちらの攻撃は一切当たらない、これでは永遠に勝負がつきませんね。今日はここら辺でお暇致しましょうか。最初にヘッドチェーンを貰っておくべきでしたねハハハ」
笑い声と共に消えて行く三毛猫。
「かっこいい……怪○二十○相みたいな奴でしたね」
「何を言っているの? 早くここから連れ出しなさい」
強気の七華だが、足はがくがくと震え、もつれて上手く歩けないほど精神的にダメージを受けている様だった。
「時間がかかりますね、こうしましょうか」
ひょいっと砂緒は七華をお姫様だっこにすると歩き出した。
七華の方が僅かに身長が高く、アンバランスなお姫様だっこだったが、超パワーで無いにしろ普通の怪力男よりかはまだ力の強い砂緒にとっては軽々と歩く事が出来た。
「こ、こら、やめなさい、降ろしなさい」
「降ろす? なんなら投げ捨てますよ!」
「なっ」
この者ならやりかねないと思った七華は、それ以上は言わず黙り込んだ。
ただ人生でこれまでにないほどの赤面になりかかっていると感じる程顔が熱いので、気付かれない様に砂緒とあらぬ方向に顔を向けた。