新女王投票用紙・試案 上
「セレネッ!! 心配するじゃ無いですか、もう……二人だけの身体じゃないのですよ」
などと言いながら砂緒はセレネのお腹をさすった。
「ええっまさか貴方たちっ!?」
フルエレが金色の髪の毛が跳ね上がる勢いでビクッとした。
「紛らわしい言い方するなっ! こいつとは本当に全く何もありませんから、何かありそうな雰囲気でも何も出来ない口だけエロ男爵の意気地無しなのはフレエレさんも良く分かっているはずです!」
「そ、そうね……確かに」
雪乃フルエレは少し赤面して視線を逸らした。
「なんだお前達あんだけ長旅してて結局何も無かったのか? だったら何故わた? あ、いや何でも無い」
イェラがぼそっと言った事に皆の視線が集中して、砂緒が小刻みに首を横に振った。
「怪しい……」
さらにフルエレがじとっとした目で二人を見比べた。
「ははは、バカだなあフルエレさん厳しきイェラお姉さまと砂緒如きが何かある訳無いじゃないですか、な?」
「そーーですともハハハ」
「ヘェー?」
何故か砂緒の事を信じ切っているセレネと違い、フルエレは七華の事もあるので疑いは晴れなかった。
「そんな事より! セレネさんガッコが終わったら蛇輪と魔輪を乗り継いでいるとは言え、まだまだ明るい内に速攻で帰り過ぎじゃ無いですか? 一緒にあんみつとかトコロテンを食べて帰る友達とか居ないのですか? 心配です。」
「なんで寒天類限定なんだよ。いるわ、友達の百人くらい余裕でいるわ! でも喫茶猫呼があるから早く帰ってるだけだ!」
正確に言えば討伐部の部員であり子分の女子が二人居る。全校内でそれが全てだった。
「しかし海上倉庫まで魔輪で、そこから蛇輪で学校まで行っててあんな大きな物の置き場所に困らないのか?」
「イェラお姉さまご心配無く、今年からユティトレッド魔導学園に魔ローダー学科が出来てるので、学生用のボルト‐YとかST-25Eとかいっぱい置いてあるからその間に駐機してる。最近じゃ実技にも蛇輪使ってるから」
「セレネ貴方もやっぱり砂緒みたいに空気読めないトコがあるのね。学生の練習用魔呂の間にあって、蛇輪みたいなスペシャルメイドぽい機体を自分だけ持ち込むなんて……確実に影で悪口言われてるわね、心配だわぁ、私もついてって入学しちゃおうかしら」
「お良いですね、セレネの制服をフルエレが着ても似合うでしょうなあ、その時は私も一緒に入学しちゃいましょうか??」
「……何を言っているの? セレネのガッコは女子高よっ!」
「フフフ」
勝手に盛り上がる二人を見てセレネがみるみる不機嫌になって行く。
「フルエレさんが蛇輪貸しても良いから学校に行けと言うから行っているのです。貴方みたいに学校も行った事の無い人にとやかく言われたくないです。もし二人が学校に来たらあたしは自害しますから」
セレネはとにかく学校生活を喫茶猫呼関係者に見せたく無かった。
「そうね、私も一度学校という所に行ってみたかったな……」
セレネの学校も行った事も無い人に、という言葉は別に悪口に当たらなかった。この異世界に義務教育等という物は無く一部の限られたセレブのみが行く場所だったが、そもそも雪乃フルエレは実はいかにも清楚で真面目そうな見た目に反し、勉強の能力が非情に残念なアレなので入学試験に合格出来ないのだった……さらに魔力はあるが魔法が使えないので魔法学科にも通えなかった。
「こらセレネ、自害は不穏当だぞ!」
イェラが大事な人を亡くしたばかりのフルエレを想いセレネをたしなめた。
「申し訳ありませんイェラお姉さま……」
「ううん、皆セレネの事を心配してるだけ、分かればいいのよっ!」
「それはこっちの台詞です。みんなフルエレさんが少し元気になってくれて凄く嬉しいのです」
今度はフルエレとセレネが見つめ合った。
「ありがとうセレネ……」
「やだなあフルエレさん」
「アハハハハハ」
「はははははは」
「え、何ですかコレ?」
砂緒はセブンリーファ後川攻略戦で二人に友情が芽生えていた事に戸惑った。
「何よぉ、なんで私だけ仲間ハズレなのよぉ」
気付くと調理場に猫呼もやって来ていた。
「あっ猫呼先輩ただいまっス」
「おかえり~~無事生きてるのね?」
「そうだ、皆聞いたか? 最近猫呼の様子が急に女の子ぽくお淑やかになったと思わんか?」
イェラの言葉に猫呼のネコミミがぴくっと反応した。
「遂に猫呼の前にも王子さまが降臨したらしいぞ、なんでもラ・マッロ……」
「その事を砂緒の前で言うな言ったろうがぁあああああゴラアアアアア!!!」
バキャッ!!
猫呼は突然可愛い小さい身体でイェラに飛び蹴りを食らわせた。イェラは思わず壁に叩き付けられる。猫呼はあの事を砂緒にいじられる事がどうしても嫌でかん口令を敷いていたのだ。
「……猫呼、この臨時代用お兄様に詳しく聞かせな」
「お前も聞くなやああああああああ!!!」
「あうっ」
バキャッ
飛び蹴りを食らわせられた砂緒は、吹っ飛んで床に叩き付けられた。
「はあはあ……」
皆は赤面しつつ肩で息をする猫呼をしばらく見守った。
「茶番は兎も角、フルエレさん遂に新北部中部女王選挙の投票用紙・試案が出来たので見てくれませんか?」
セレネは学生鞄から一枚のプリントをピラリと取り出した。
「どらどら?」
砂緒はじめ此処に居る皆が、一斉に差し出されたプリントの文面をまじまじと見た。




