喫茶猫呼営業再開 下 メド国小反省会……
「七華ちゃん早く戻って来て欲しいわね、何してるのかしら……」
(でも短期間でこんなにもファンを獲得して、十代後半なのに魔性の娘ねフルエレとは違う方向性だけど……)
猫呼は嘆き悲しむ上常連客の芹沢老人達を見ながら思った。
「ライラ、ピルラ亡き今、私貴方に新しい秘書になって欲しいと思っているのよ、だから今までみたいにすぐに大鎌を振り回す様な真似は止めてね」
「は、はい!? 私がピルラ様の後を継いで猫呼様の秘書に? そんな私如きで良いのでしょうか??」
ライラは自身を武闘派だと思っていただけに思わぬ昇進に身震いした。
「ええ、その上でお店も手伝って欲しいのよ、よろしくね」
話上は殆ど登場していないピルラだが、猫呼の秘書として冒険者ギルドビルディングの管理人としてほぼ毎日砂緒や雪乃フルエレ達ビルの住人と顔を合わせていた。そんなピルラがいきなり敵兵に殺害された事は為嘉アルベルトの戦死と同じくらいに猫呼達に衝撃を与えていた。
「は、はい!! 光栄でありますっ」
「硬いわ……」
メイド服姿のままピッと敬礼をしたライラを見て猫呼は首を振った。
今日は珍しく賑やかなそんなお店の隅っこ、柱や壁に囲まれた半個室のボックスシートに冒険者ジェンナと居候カレンと奴隷のフゥーというメドース・リガリァ生き残り組がひっそりと集合していた……
「でもこんな大都会の新ニナルティナの喫茶店に、まさかメド国関係者が三人も集まってしまうなんて奇跡よね。でも肩身が狭いわぁ」
軽装の鎧に剣を帯びた魔法剣士の冒険者ジェンナがぼそっと言った。
「負けちゃったんだから仕方ないですよ、世が世ならここの連中全員私達の奴隷になっていたのに凄く残念です。今じゃこんな片隅で肩身の狭い想いをして」
カレンが思わぬ事を言い出して残り二人は唖然とした。
「カレンちゃん結構スパルタンな少女なのね、滅多な事口走って聞かれたらヤバイわよ」
ジェンナは左右を見ながら眉間にシワを寄せて言った。
「大丈夫ですよ、直前まで魔ローダーで殺し合いしてたフゥーちゃんですらここで店員してるくらいだしユルユルですよ、私なんてまだ短魔銃一丁隠しもってますから!」
カレンはスチャッと没収された短魔銃よりさらに小型の単魔銃をスカートから取り出した。
「あ、あんたね、下手な事してたら命失うわよ……」
ジェンナはさらに冷や汗を流しながらカレンの短魔銃を両掌で隠してテーブルに置いた。
「ジェンナ様は冒険者を再開されたそうですが、調子は如何ですか?」
ここでようやく首輪を付けたフゥーが口を開いた。
「いやーやっぱり新ニナルティナで冒険者はキツイわ。鎧姿で念車に乗ってても殆どコスプレ扱いで子供に指さされるもん。中部やまおう軍のエリアと違ってモンスターがほぼ居ないから」
「リュフミュラン行きの新・幹道から山に入るとまだ隠れて居るそうですよ」
カレンが笑いながら言った。
「そこにダンジョンがあったらしいですが、砂緒さまが埋めてしまったそうです……」
フゥーが砂緒さまと言った途端残り二人の顔が曇った。
「砂緒さまなんて言わないで、アイツにシャクシュカ隊の仲間達が殺されたんだ」
「申し訳ありません。つい奴隷の癖で……私が様とお呼びするのはスピネルさまとサッワさまでした」
顔を曇らせたジェンナについフゥーが続けたが、それも駄目だった様だ。
「チャームが掛かってないフゥーちゃんは特殊な例だけどシャクシュカ隊の美女達は全員洗脳されて戦わされてたから……解けた今はスピネルもサッワにも複雑な心境だよ、ごめんね」
「いえ」
「……でもスピネルさまの事はなるべく言わない方が良いです。雪乃フルエレ女王さまの大切な方を戦死させてしまったとかで、凄く恨まれています。気を付けましょう……」
(サッワくん、何処かで生きているのよね……)
カレンは最後に自ら短魔銃を放ち、庇って撃たれたココナツヒメもサッワの事も敢えて触れなかった。
「そうね」
ジェンナが言った直後だった、気が付くと皆の横に砂緒が笑顔で立っていた。
「はい麗しいお嬢さん方お待たせしました、メロンクリームソーダに粉末インスタントレギュラーコーヒーにホットミルクですね」
「ヒッッ!? ははい、ありがとうございます」
(聞かれて無いわよね!?)
砂緒は笑顔のまま毒々しい鮮やかな発色のクリアーグリーンの炭酸水をコトッと置いた。三人は無表情になって会話がぴたっと止まった。
「……」
「…………」
「……」
「おやっお嬢様方、私にお気になさらず会話に花を咲かせて下さいな」
砂緒は装飾のされた丸い銀盆を抱えたまま笑顔で立っている。
「あ、はは、えーっと」
「うふふ」
(はよ行けや、しっしっ!!)
「そ~~ですね、女子だけの禁断トークがありますから、ドロンしますね、ふふ」
ようやく笑顔のまま砂緒は去って行った。
「あ~~やっと行きやがった」
「カレンちゃん言葉乱暴よ」
ダランと足を延ばして脱力したカレンをジェンナはクリームソーダをストローで吸いながら見た。
「私、トリッシュで硬くなる能力のアイツに偶然命助けられて、その後現地妻にするとか連呼されてマジで怖かったのよ」
「うげっ最悪!」
ジェンナは大袈裟に舌を出した。
「……私はシャクシュカ隊の仲間達を殺めたあの砂緒という男だけは許せません……」
雪乃フルエレもセレネも同罪なのだが、何故か三人は砂緒だけを目の仇にしていた。
「もう暗いわっ! 話変えましょ、カレンちゃんはトリッシュ帰らないの? ご両親待ってるでしょ」
「う、うん今はまだ」
「そうだっフゥーちゃんって何処出身なの?」
ジェンナは謎が多いフゥーに敢えて聞いてみた。
「私の一族は長い年月セブンリーフを彷徨ってたみたいですが、先祖は確か東の地のクラウディアの出らしいです……遠い昔に先祖は小舟でこっちに渡って来たと、親に聞きました。元高貴な出とか言ってましたが……どうせ嘘でしょうね」




