笑うジグラトのセールスマン 下 駐在武官の提案……
「王様、もし我らの政治手法に賛同頂けるなら、是非にリュフミュランにもジグラトを建設されませんか? 建造するに当たっては神聖連邦帝国から技術者の派遣や民の参加のノウハウなど無料で伝授させて頂きますよ。今回大量の宝物をお持ちしたのもジグラト建設の資金にと考えていたのです」
「おおっそれは素晴らしい……ワシもジグラトを建築して民と一体化しさらなる尊敬を集めたいものじゃ……」
リュフミュラン王はまんまと貴城乃シューネに乗るかに見えたが、すぐに横に控える家臣が慌てて小声で耳打ちした。
「王様、すぐさま決める事はお考えを……ジグラトを神聖連邦の形式で建設すればそれは我がリュフミュランが神聖連邦に半ば加盟するという事になりますぞ、我が国は北部海峡列国同盟の創設メンバー、これから同盟が新北部中部同盟に発展する中で、我らが浮揚する目を自ら捨てる事になりますぞ……」
「むむっそうなのか、考え過ぎではないのか?」
「それと大量の贈り物も全て受け取るのは止めるべきです。一方的に受け取るでは無く、こちらからも適量をお贈りして物々交換とするべきです。一方的にもらうは物乞いがする事にて」
家臣は良かれと思って小声で諫言していたが、最初は上機嫌だったリュフミュラン王の顔がみるみる真っ赤に染まり怒りに変わって行く。
「余を物乞いと申すか?」
「い、いえ、言葉の綾にて決してその様な意味では」
「もう良い、この者をつまみ出せ!!」
「ひいいい、お許しをっ」
今日は上機嫌で皆忘れかけていたが、リュフミュラン王は短気で家臣の諫言など耳を貸さない男であった。罰される事までは無かったが、忠言した家臣は衛兵に連れられて行った。
「すいませぬな、空気を読まぬ無能な家臣が水を差しましたな。儂は神聖連邦帝国との友好をさらに深めたいと思いますぞ。ただし今回お持ち頂いた宝物を全てもらうは止めと致しまする。セブンリーフにも良い物はあります故、物々交換と致しましょうぞ」
諫言した家臣をつまみ出した癖に言っていた内容は耳に引っ掛かっており、言われた通りに宝物全てをもらう事を控えた王様だった。家臣はつまみ出され損である。
「そうだ! それならば良い事を思い付きました、両国が今後通商のよしみを通じるというならば、リュフミュランに神聖連邦帝国の商館とそれを守る為の少数の駐在武官事務所の設立をお願いしたいです」
貴城乃シューネはしつこかった……
「おおっそれならば良いでしょう!」
しかし今度は諫めていた家臣が連れ去られまんまと貴城乃シューネの思うがままになるかと思われたが、今度はそれまで頭を抱えて呆れて見ていただけの猫弐矢が動いた。
「王様、これはあくまで我らの願望と言いましょうか将来の展望に御座います。今すぐさまそういう物が設立出来る訳ではありません。それにリュフミュラン王と言えば北部海峡列国同盟の設立メンバーらしいではないですか、それならば重要な事は全て同盟の女王と相談なさって決めて下さい。我らは貴方さまの国の方針を尊重して動きますので」
(全く何を考えているんだこの王様は……我がクラウディアに来た時はもう少し強引だったが、神聖連邦はまたセブンリーフでも同じ事をしようとしている……)
「何だ今度は君が邪魔をすると言うのかい? 君はもう神聖連邦側の人間だという事をお忘れなく。私は君を将来神聖連邦の重臣にまで登りつめる人物だと思っているんだ」
貴城乃シューネが小声で耳元で囁いた。
「結構です、重臣になど成りたくありませんので。それに君は高層神殿だとかジグラトだとか巨大建築物を建てるのが好きなんだね」
「ええ、好きです、悪いかな?」
「建てるなら自分の国に建てなよ」
「ご心配無く、もうあっちこっちに建ててしまって、外国にも建てて見たくなったのだよ」
「はた迷惑な……」
「ふふ、正直だね」
二人が話す間に王様は一人でブツブツと雪乃フルエレの悪口を言っていた。
「……元はと言えば同盟の雪乃フルエレ女王は我が国にふらりとやって来た流れ者にて、半ばワシが同盟も女王も育てた物なのにその恩も知らず……ワシに向けて魔ローダーで手刀を入れたり滅茶苦茶な娘でな」
「分かります、分かりますぞ」
王様はまだ恨みを忘れていなかった。貴城乃シューネは聞いてないのに適当に話を合わせ、猫弐矢は再び一人でお菓子を食べ始めた。
「そうじゃ、面白い物がありますぞ! 今度同盟が北部中部同盟に拡張するに当たっての新女王選定会議があるのじゃが、その内々の内定のお達しがあるのじゃ、見て下され」
王様は“厳重マル秘”と書かれた極秘内部文書を易々と外国人のシューネに見せてしまった。シューネは内心笑いが止まらなかった。
「ほほぅそれは興味深いですな」
(うおういきなり重要情報を見せてくれるとは馬鹿なのか?)
「……なんですかコレは? 新女王は雪乃フルエレ女王に投票する様に……等と書かれておりますが」
「そうなのですじゃ、やる前からほぼ決まっておるのです。面白く無いですが、雪乃フルエレというのは化け物染みた魔力を持つ娘にて誰も逆らえない部分があるのですぞ」
「ほほう? おやっなんと麗しい七華王女も女王候補の中にありますな」
「ああっそれは賑やかしにて、親バカながら一票投票してやろうと思っております」
貴城乃シューネは極秘文書をまじまじと見続け、二人の新女王候補の名前に目が留まった。
(ね、猫呼クラウディアだと!? 猫弐矢は知っておるのか?? それよりも……)
「ほほう。む……この最後の女王候補枠の“謎の美少女スナコちゃん”……とは??」
ブフーーーーーッ
二人の会話を聞いていた猫弐矢は、噛み砕いていたお菓子を綺麗に粉末状に吹いた。 猫弐矢は微妙な表情で再び頭を抱えた。




