フルエレの帰宅 猫弐矢と貴城乃シューネ 上
―タカラ山新城。
メドース・リガリァが滅亡してから一週間が経った。雪乃フルエレは毎日毎日日がな一日タカラ山新城からの見事な景色をぼーっと眺めていた。
「Y子殿、まさか貴方が雪乃フルエレ女王陛下だったとは、しかしずっと此処にいらっしゃって良いのですかな? いや儂もタカラ指令も貴方さまがずっと居て下さる方が楽しいのですが……」
場所的に近いナメ国の大アリリァ乃シャル王と新城の城代であるタカラ指令もメド国から帰国していた。シャル王は少しだけ大きめの鼻を掻きながら美しいフルエレを遠慮しがちにちらちらと見つめる。
「シャル王よ言い難い事を言って下さって有難い。私も母国のユティトレッド魔導王国に帰国しておじい様に戦勝を報告せねばならんし……でもフルエレさんが帰りたくない気持ちも分かるんだ」
セレネも本心では痺れを切らしているのだが、今回ばかりは最大限フルエレに配慮して行動していた。砂緒とフルエレと自分はいつまでも友達だという誓いを守っているのだった。
「私はいつまでも此処で幸せに暮らしても良いのですよ。シャル王殿のナメには美女も多いとか、是非一度行ってみたい物ですフフ」
カチャッと粉末のレギュラーコーヒーが入ったカップを置きながら砂緒が言った。これは完全に本心で、もともと地位や場所に全く無頓着な砂緒だった……それと彼自身の前世の前世の辛い思い出は一晩寝たら忘れていたのだった。
「行くな行くな! お前なんか秒で出禁になるって! お前があたしと一緒に北側経路で行軍して良かったわ」
「ああ、そうでしたねえ、セレネさんと此処で一緒に仲良くお墓に入ると約束したんでしたっけ……」
砂緒は景色を見ながら遠い目をした。
「わっ馬鹿、要らん事言うな!!」
「それ本当? ふふ、私の知らない内に砂緒とセレネ、本当に仲が良くなったのね」
「い、いやあギャグで言っただけだからな」
セレネは少し赤面したが、アルベルトが戦死したばかりなだけに、微妙な話題過ぎて砂緒のデリカシーの無さに内心怒った。
「……でもシャル王の仰る通りだわ、一週間此処に逗留させて頂いて気持ちの整理が付きました。一日綺麗な景色を見ていても、時々ニナルティナのビル街や路面念車の事が浮かぶの。まだ実家には帰れないし、リュフミュランやましてやメド国にも行けない、結局私の居場所はアルベルトさんの守った新ニナルティナだけって分かったの」
「実家とな?」
セレネは薄々気付いていたが、砂緒は本気でフルエレの実家が何処か知らなかった。
「大アリリァ乃シャル王殿、貴方には戦争の最中とても助けられました。離れるのが寂しいです。いつか新ニナルティナに遊びに来て下さい、そして貴方を海と山とに挟まれた小さき王国と共同でセブンリーファ後川流域一帯、Sa・ga地域一円を統括する王に任命します」
「な、なんと……儂には分不相応です、御考え直しを」
現在の雪乃フルエレ女王は厳密には北部海峡列国同盟の女王でありそんな権限は無いのだが、シャル王を征服したばかりの地の王に勝手に任命して、セレネはギョッとした。
「思い切り情実人事よ、頼むわね」
フルエレは久しぶりに一瞬にっこり笑った。
「は、はあっ非才の身ながら力の限りお勤めしましょう」
シャル王も悪い気はしないので引き受けてしまった……
「まあ良いだろう……フルエレさん責任は取ってもらうぞ。という事は帰る決意が出来たのですね?」
セレネがフルエレの目を見て帰宅の決意を確認した。
「うん……いつまでもこうしてはいられない。ちゃんと帰ってアルベルトさんのお墓にお参りするの……」
遺体との対面では無く、いきなりの墓参りに悲しい思いが込み上げて来てフルエレは涙ぐんだが、以前の様に大泣きする事は無く指先で涙を拭って皆を心配させない様に笑顔を作った。
「フルエレ……無理に帰る必要など無いのです!」
全く流れを理解していない砂緒が水を差したが、フルエレの帰還の決意は固く次の日蛇輪で早速飛び帰った。そしてフルエレが一週間タカラ山新城に宿泊していた為に、メド国から即座に新ニナルティナにやって来ていた紅蓮と美柑の女王との対決の決意がグラつき、彼らがすごすごと出国したのと完全に帰還が入れ違いとなり、また姉妹はすれ違ったのだった。
「……バカ! 何処に行ってたのよっでも帰って来てくれて嬉しいわっ」
「ごめんなさい、ごめんなさい……帰るのが怖かったの……でも結局此処しか私には無いのよ、許して猫呼っ!!」
猫呼とフルエレは長い間抱き合って泣き合った。その後フルエレはアルベルトの戦死現場に花を手向け、お墓に行きアルベルトの事を想い地面に崩れ落ちて大声で泣き続けた。そしてピルラの死や荒らされた街の様子や襲撃の経緯を知って、ひたすら驚いたのだった。彼女は再びの新ニナルティナ再建を誓った……
一か月後、クラウディア元王国。
ヴィイイイイイイイン……
クラウディアの港に着いた大型船から、最初に駆動音と共にド派手なピカピカの黄金色の魔ローダーが出て来て、出迎えていた代表猫弐矢始め、クラウディア側の人々の度肝が抜かれた。さらにそれに続いて度ピンク色の機体まで出て来て、さらに人々を驚かせた。
(あの時の黄金色とピンク色……あ、あれーーっ? これってもしかしてヤバイんじゃないかな??)
猫弐矢と横に立つ伽耶は他の人々と違う意味で大量の冷や汗を流し始めていた。
「猫弐矢さま、あれってアレですよね!?」
「伽耶ちゃん、徹底的に知らんぷりだ、分かったね?」
「はい!」




