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エピローグ Ⅱ ふたりの旅立ち


「エリゼ……誰も……そんな終わりにさせるかあああああああああっっ!!!」


 紅蓮がひときわ大きな声で叫ぶと、逆向きに地面に突き立てた剣から、黄金の粒子が大量に流れ込み、巨大な円形に線が走って光ると、噴出する地下水のしぶきの様にあちこちから光が漏れ出して来た。


「エリゼッ出ろっっ!!」


 ゴバアッッ!!!

 地面のあちこちから噴出していた光がさらに大きくなり、やがて巨大な間欠泉の様に天に向かって黄金色の光の粒子と共に地面の岩や土や砂が吹き飛んで行く。


「きゃーーーっ何よ!?」

「何だ、これは……」


 美柑も謎の部隊の兵士達も顔を覆って巨大な噴出から身を守った。

 パァンッッ!!

 最後に紅蓮がセブンリーフに来てから冒険者として取得していた大切なエイチファイアーブレードの刀身が目に見えない大きさの欠片となって弾け飛んだ。


「危ないっ」


 美柑が叫んだが、紅蓮の剣は柄から下が完全に消失して、一連の動きは止まっていた。


「ふぅふぅ……」


 紅蓮は相当疲れたのか、そのまま膝を折ったまま動けなかった。


「見て、ほらっ紅蓮見てっ! 大きな穴の底に、エリゼが! ついでに貴嶋さんもっ」


 美柑が大声で指差す方を見ると、クレーターの底の中心には土と砂まみれとなってはいたが、確かに貴嶋と、彼に覆い被さって守る様に横たわるエリゼ玻璃音女王の姿が確認出来た。


「おおっ見ろ、女王陛下がっ!」

「貴嶋様もご一緒だぞ!!」


 よろよろと紅蓮は立ち上がった。そしてそのまま走り出すと、出来たクレーターの底に向かって滑り始めた。

 ズザザザザザ……


「美柑、みんな回復魔法が使える者は全力で掛けて!! 早く」

「うん、皆も急いで!!」

「ハイ!!」

「お、おい?」


 戸惑う者も居たが、多くの兵士達が一斉に紅蓮に続いてクレーターの底に滑り降りて行った。美柑と多くの兵士達が泣いていた。






 もはや早朝となり、海岸線の向こうに朝日がはっきりと昇っていた。馬には貴嶋とその後ろにはエリゼ玻璃音女王が乗っていた。そしてその前後には先程の謎の部隊、メドース・リガリァの最後の生き残り兵達が護衛していた。彼らはとにかく休む事無く西に急ぎ進み続け、既にソーナ・サガ市を越え、アリリァ湾に差し掛かっていた。


「ここまで来ればよもや追手も来ますまい。我らはこれよりアリリァ海を臨む湾を西に進み、まだ人知れない奥地に隠れ里を開き、そこで静かに暮らしましょう……」

「そ、そうなんだ……」


 貴嶋が護衛を買って出ていた紅蓮と美柑に、もはやこれ以上は迷惑は掛けられぬという思いから暗に別れを切り出した。


「美柑、紅蓮、最強の貴方達が守ってくれた以上、此処まで何の不安もありませんでした。そして貴方達と一緒にした冒険の想い出はいつまでも私の宝物です……有難う……」


 エリゼ玻璃音は馬上から深々と頭を下げた。それを見て貴嶋も同じ様に頭を下げた。


「ううん、ついて来たかったから来ただけ! 私も貴方達と出会えて楽しかったよっ私も絶対忘れないから! あフェレットも荷物運びお疲れさんね」

「あいあい……」


 強行軍に付き合わされたフェレットも渋々笑顔で応えた。


「エリゼ行ってしまうんだね、しかも貴嶋サンと!」

「うふふふ、そうなのです。知らぬ内にこんな事になりましたわ」

「紅蓮残念でしたっ意外だけど応援するわっ」


 エリゼは貴嶋の背中にもたれ掛かった。


「済まぬな少年」

「たはは」


 紅蓮と貴嶋とエリゼは笑い合った。

 

「そうですな、では子は……何人儲けましょうや? 五人ですかな十人ですかな、働き手が必要となるのです、そこら辺りは覚悟してもらいますぞ!」


 突然貴嶋が振り返ってガラにも無い事を言い出してエリゼは困惑して赤面した。


「な、何を突然言うのですか、皆の前ではしたない!!!」

「いえ、地下迷宮での仕返しで御座います」

「じゅ十人って貴嶋さん……」

「?」

「もうっ!!」


 激しく赤面して貴嶋の背中を押したエリゼを、兵達がハハハと声を上げて笑った。皆緊張から解放されて本当に爽やかな笑顔だった。


「もう本当にこれで紅蓮殿や美柑殿、そしてメドース・リガリァのSa・gaの地ともお別れですな。そしてそれと共にメドース・リガリァの地にはどんな国があり、誰が居てどんな王が居たのか、エリゼ玻璃音女王の事もかつてのウェキ玻璃音大王の栄光の事も、やがて全て土と砂に埋もれ掻き消され皆の記憶からも歴史からも忘れ去られてしまうのでしょうな、全ては儂の不明笑って下され……」


 貴嶋が頭を掻きながら自嘲気味に言った。


「いいえ違いますよ貴方、一人で生き残っても悲しいだけと言いましたが、貴方や此処にいる皆と生きていれば、そこが新たな私達のメドース・リガリァなのです。決して恥じないで下さい」


「そうだね、うん」

「そうですね、これでお別れだね」


 エリゼの話を聞いて、紅蓮と美柑が同時に頷き、そして笑顔で手を振った。二人は西に向かって進みゆく一団に向けてずっと手を振り続けた。



「行ってしまったね、あの人達は決して良い事ばかりして来た訳じゃないけど、これからは静かに幸せに生きて欲しい、ダメかな?」

「良いと思うよっ! じゃあ私達も行こっ!」

「何処に? 一度雪乃フルエレ女王に会いに行く?」

「うっ」


 紅蓮の言葉に美柑は笑顔が消えた。そして同時に長い間留守にしている海と山とに挟まれた小さき王国の父王と母上の事も思い出していた。もちろん探し求める姉、夜宵の行方についても忘れた事は無かった。


 そして貴嶋の言葉通り、北部海峡列国同盟の地とセブンリーファ後川流域の中部小国群をセブンリーフ史上初めて統一化した雪乃フルエレの女王国連合の登場と相前後して、メドース・リガリァ王国と等ウェキ玻璃音大王の存在は歴史から完全に消されてゆく事となり、メド国の地はカヌッソヌ市が併合し治める事となった……


挿絵(By みてみん)

いつもお読み頂いて有難うございます。

まだまだ続きますが、これでメドース・リガリァ編は終了となります。

今後も読んで頂けたら嬉しいです。

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