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永遠、地下のふたり 上


「大将、しかし大将首逃して惜しい事しやしたね~~いや、大将の首じゃないですよ……」

「コラッ黙れっ」


 バキッ

 衣図ライグが去りながらラフを殴った。


「ちょっと待て! 今のは何の話だ?」


 胸に砂緒がすがり付いたままのセレネが厳しい顔になって二人を呼び止めた。


「い、いや~~何でしょう~~~」

「地下のトンネル作戦を決行したんだが、幹部か王族らしき風情の者達に逃げられた、それだけだ」


 衣図ライグが苦手というか少し嫌いなセレネの態度にカチンと来て、お前など恐れていないという気持ちを表したくて、正直に命令違反の事実を言った。


「……そうか、逃げられたのだな?」

「ああ、そうだ」

「よし分かった、行っていいぞ」


 セレネは再び胸に砂緒が抱き着いたままの謎過ぎる状態の高飛車な態度で言った。


「ヘイヘイ、邪魔したなっ」


 衣図ライグも対抗して精一杯ぞんざいな態度で去って行った。その後に続いてトンネルから出て来たガラの悪い兵達がゾロゾロと付いて行った。セレネはしばらく一行が去るのを黙って見つめた。


「と、いう訳だそうだ。こんだけの国だ、王族が一気に全員全滅した訳じゃなくて、逃げおおせた者達もいるかもしれんな」


 親しい衣図ライグが来ても一向に振り向く事無く、三歳児の様にセレネに張り付いていた砂緒がピクッと反応した。


「放置するのです?」

「もう仕方無いだろ、兵も国も権力も失った者達だ、放置するしか無いな」

「優しいです、ありがとう」

「べ、別に砂緒の為じゃねーわっ」


 セレネは少し赤面した。


「……ツンのデレですか??」

「? ていうかさっきから、どさくさ紛れにひたすら胸に頭グリグリし続けてるよな? そろそろ離れろよ」

「何を言うのです……セレネには、ほぼほぼ胸の膨らみはありませ」

「あるわーーーっっ!! いい加減うっとおしいわーーーっっ」


 ドボッッ

 遂にキレたセレネが砂緒の腹に膝蹴りを入れた。三Nメートル程浮き上がる砂緒……


「あうっ!?」


 ドシャッと砂緒は地面に叩き付けられた。しかしすぐにセレネは無造作に地面に寝転んだままの砂緒を片手で抱えると、ピョンピョンと装甲を飛び跳ね蛇輪の操縦席に戻った。


『フルエレさん時間掛かって済まなかったな、本陣や新ニナルティナに戻りたく無いならば取り敢えず今夜はタカラ山新城に戻ろうと思う、それで良いか?』

『うん、いいわ……今はまだ皆に会いたくない……』


 しかしいつまでも新ニナルティナを留守にする訳にも行かず、アルベルトの墓にも行かねばならない事は雪乃フルエレ女王も十分承知していた。

 ピッ

 セレネは魔法秘匿通信を繋いだ。


『メランさん、既に気付いているとは思うが、メドース・リガリァ本城は砂緒の雷で全部綺麗さっぱり消したぞ。市街地の方はどうか? 魔法通信を封鎖してて悪かったな……』

(フルエレさんがアレな感じで……)


『ああぁやっと繋がりましたか。本当にかなりイライラしましたよ?』


 メランは怒りを率直に声で表した。セレネはメランが苦手というよりも、実は元気ハツラツとして誰にでも打ち解け率直な物言いが出来るメランが怖かった。今この様にかろうじて普通に会話出来るのは総司令官という立場の後ろ盾があるからだった。


『う、そ、そうですか……どうだ、市街地に何かあっただろうか?』


 一瞬メランの勢いに押され声が裏返り気味になりかけたが、意地で司令官の威厳を取り戻そうと頑張った。


『ええ、ボロボロの黒いトゲトゲのヤツが出て来て、何もせずに急に消えて逃げて行きました』

『何!? それは本当か……半透明に続いて濃いグレーのアイツまで逃げたのか?』

『結構ぐだぐだですね、でもそれ以外は市街地の混乱も火災も収まりつつあり、掌握は目前って感じですから。イェラさんとコーディエさん達が頑張ってくれていますよ』

『そうか……何処に逃げたか分からんが壊れかけの魔呂一機では何も出来まい。しかし警戒はしておこう。我らはこれよりタカラ山新城に帰る故、魔呂部隊の旗機はメランさんのル・ツーに移譲するのでよろしくた』

『ナヌッ何でですかっ!? 私達を置いて先に帰る? Y子さんは何故出ないの? 砂緒さんは??』

(げっやっぱり怖い……)


 セレネは恐怖を感じたが、今は自分が何とかするしか無いと頑張った。


『えっとだな、Y子殿も砂緒もメンタルが今アレで駄目な感じでだな……』

『へっ何ですかそれ、詳しく聞かせて下さいっ!!』

『砂緒~~~大丈夫??』


 兎幸まで出て来た……セレネは途方に暮れ始めた。


『メランごめんね、貴方には縁が薄いけど、新ニナルティナが襲撃されて……色々あり過ぎて気持ちが整理出来なくて、今は離脱したいの許して』


 遂に黙っていた雪乃フルエレが口を開いた。


『あ、Y子さんフルエレさんに戻った? 首都が襲撃!? 猫呼さん達無事なのよね??』

『それは無事だ、すぐに撃退された』

『うん、でも色々あって』


 セレネが割って入ったが、憔悴したフルエレの姿を画面で見てメランはもう何も言えなかった。


『うむ済まないな、後は任せるっ』


 ピッと魔法秘匿通信を切ると、セレネは即座に蛇輪をジャンプさせて鳥型に一瞬で変形させ、一路タカラ山新城に向かって飛び立った。


「あっ待て切るな、待てゴラァーーーーー!!!」


 メランは通信が切れている事を承知した上で飛び去った蛇輪に向かって叫んだ。


「メラン、ガラが悪ぅ~~いこわーーーい、前はこんな子じゃ無かったよ~?」

「うるさいわっ!!」


 兎幸は怒鳴られても一切気にしないでにこにこしていた。フルエレは兎も角、砂緒は一晩寝れば完全に元の砂緒に戻ったという……



 そのメド国本城地下、脚が岩に挟まったままの貴嶋は崩れ行く地下迷宮で、落ち着き払って最後の時を一人静かに待っていた。しかし蛇輪の飛び立つ勢いが最後のとどめとなったのか、崩壊の速度が速まった気がした。

 ガラガラガラ、ザーー

 あちこちから砂が滝の様に流れ落ち、小岩がごろごろと落ちて来る。


「いよいよ最後の時であるか」


 ガラガラドシャッ!!

 遂に西側通路の遠くで入り口を完全に塞ぐ崩落が起きて、差し込んでいた微かな光が消え暗闇になった。



「もう……出られませんね……」


 貴嶋は暗闇の中、愛しいエリゼ玻璃音女王の優しい声がして、背中が飛び上がる程ビクッとした。

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