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砂緒、転生の終わり


「よく来ましたね……長きに渡ってセブンリーフの平和の為に良く尽くされました」


 肉体は無くなってしまい、今はただの小さな光る玉になってしまったので心に直接声が流れ込んで来ていた。これを何度となく経験した事を思い出した。


「……その功績をたたえて」

「私に新たな生を与えるのですね」


 もはや何度となく聞いた台詞を先取りした。


「そうです……」

「では一つ望みを言っても良いでしょうか?」

「良いでしょう言ってみなさい」


 大きめの光る玉はチカチカ点滅しながら即座に質問に答えてくれる。


「何でも良い、セレンとアンと同じ時代に生まれたい、出来ればまた妻と子として関係を築きたい、それだけだ」


 まだ強くウェキ玻璃音大王の記憶が残る内に率直に願いを言った。しかしなかなか返答は無かった。


「申し訳ないのですが、自身の境遇だけのみならず、そうした他者との関係性までの望みを聞き届ける訳には行かないのです」

「では結局何も願いを聞いてくれないのだな」

「………………」


 少し意地悪く言うと、また光る玉は困ったのかしばらく黙った。


「分かりました、新たな願いが出来ましたぞ……」

「何でしょうか、言ってみなさい」

「ではもはや転生は仕舞いとしたい。もう少々疲れた、少女の願いもセブンリーフも何もかも忘れよう」


 またもや返答が遅れた。


「そういう訳にも行かぬのです。特典のある特別な転生のみピックアップされますが草や木、あらゆる物が転生を繰り返しております。それは元鏡の貴方が一番ご承知のはずですが」


 言われてウェキ玻璃音大王だった魂の願いは一つとなった。


「…………では願おう、次の転生は心の無い木石の様な特別な何かで無いそこら辺の物でよい。もはや少女の願いもセブンリーフの平和も儂には手に余る物だ。これからはその姿で静かに過ごそう……」


 姿は光の玉だが女神は迷った。通常とは真逆の知能を持つ者から木石への逆転生は、望む者がほぼいないだけでルール違反でも何でも無い、ただこの者の願い通りとするのは惜しい気がした。


「分かりました。貴方の功績を鑑みて望み通り来世は石としましょう」

「うむ、それで良い」


 ただし、皆の生活の中心となる様な立派な石造りの建物に転生させましょう……と大王の魂に知れない様に女神は考えた。


「最後に一つ聞いて下さい、実は私の女神としての仕事は今日が最後だったのです。そして貴方に紹介したい新たな女神が……アッ、もう転生してしまった……」


 石になると願ったウェキ玻璃音大王は、中心の神の力で既に転生を終えてその場から消えていた。


「あの人ったらなんてせっかち、生前とぜんぜん変わらないですわ……」


 人間の形をした新たな女神は悲し気に首を振った。


「いつか二人がまた会える日もあるでしょう……」


 旧来の女神はそう言い残してぼうっと消えて行った。もちろんそんなやり取りなど砂緒は知らない……




 そこからの砂岡デパートの日々は彼が一番よく分かっている。しかし砂緒はそこでぱっと目が覚めた。目の前には先程と同じ、砂緒自身と雪乃フルエレが蛇輪で吹き飛ばしたばかりのメドース・リガリァ本城の何も無くなった跡地が広がるだけだった。


「……よりによって、自分で吹き飛ばして更地にした後にこんなの視る必要ありますか? 酷いですよ……ううっ」


 砂緒はぽろぽろと涙を落とし、四つん這いになって焼け焦げた跡地の土を握って泣き始めた。


「あああああああああああ……」


 途端に普段冷淡で感情の起伏が小さい砂緒が子供の様に泣きじゃくり始めた。


「どしたっ!?」


 実は蛇輪から降りてさほど時間が経っていない時に、突然砂緒が四つん這いになって大声でわんわん泣き始めて、セレネはビクッとして振り返った。


(……セレネ)


 四つん這いだった砂緒が大量の涙と鼻水を流しながら声に反応して上を向くと、月明りに照らされ長いサラサラの髪が夜風でサアッと流れて広がったセレネの姿がとても美しく愛おしく見えた。


「……怖過ぎだぞ砂緒」


 訳が分からないセレネが砂緒を見ると、ぐしょぐしょの彼はふらふらと立ち上がり突然ラグビーのタックルの様に胸元にすがり付いて来て、頭をぐりぐり擦り付けて来た。


「あうっ!? わっ汚っっ」

「セレネ、セレネセレネ……」


 しかし砂緒は夢遊病者の様にセレネの名前を連呼しながらさらに頭をこすり付けて来た。


「な、何何!? ヤバイってやめろって……」

「……セレネさんずっと一緒に居て下さい……」

「ハイハイ、分かった分かった」


 訳が分からないがセレネは胸元にすがり付く砂緒の頭をポンポン撫ぜ続けた。


「………………砂緒、セレネ……」


 そんな二人をよく事情が分かっていない雪乃フルエレは、蛇輪の操縦席に三角座りをしながら魔法モニター越しにどこか冷めた空虚な目で一人観ていた。


 ボコッ!!

 そんな時に突然近くの地面が盛り上がり、大男が飛び出て来た。


「ふぅ~~~死ぬかと思ったゼッ!!」

「でやすね~~」


 トンネル作戦を諦めた衣図ライグとラフと部下共だった。


「どうしたお前ら? そんな作戦は許可しておらんぞ」


 胸に子供の様に砂緒が抱き着いたままのセレネが衣図ライグに厳しい目を向けた。


「いっ!? セレネ総司令官……て、何だそりゃ新手の赤ちゃんプレイか!?」


 セレネの様子を見て驚いた衣図ライグだが、セレネは激しく赤面しながら強引に力技で乗り切ろうとした。


「これは気にするな。それよりももはや砂緒もY子殿も大変お疲れだ、これよりの征服の後処理は全てイェラお姉さまと衣図ライグとメランさんに一任し、我らはタカラ山新城に戻る、分かったな?」


 セレネは胸に砂緒が抱き着いた状態でふんぞり返った。


「それは……斬新過ぎるプレイだな。ともかく分かったよ、あいあい」


 衣図ライグは苦手なセレネが去ってくれるとこれ幸いとばかりに振り返って手を振った。

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